Phase5-4
「ありがとうございます。お会計は6120Kになります。パスをお願いします」
明るい店員の声におずおずと左腕を差し出すと、パスから軽快な電子音が聞こえた。
「またのご利用お待ちしておりますー」
(初めての買い物が…靴とか…普通なのかな)
もじもじとあたりを見回すが、裸足や靴下だけの人は見当たらない。
(部屋だったし‥ルームソックスでも仕方ないよね)
ここに来た時に来ていたルームウエアはコード化してしまい、箱の中に入っていた洋服を着てみたが、どうも落ち着かない。
(うう…ここ数年ルームウエア位しか着てなかったし…落ち着かない)
何度もスカート丈を確認する。それほど短くもないが膝は完全に出ている。
洋服はサイズがスカートが若干ゆるい他は着ても問題なかったが、靴下だけの恰好もおかしいと思い洋服店の場所を聞いたが、色々なお店があるのはきっと現実世界の清宿駅でもそうなんだろうが、表記が『武器』やら『魔法』やら書かれているのは違和感たっぷりでたまらない。
その中にあった『防具』のカテゴリーにやっぱりというか靴屋はあり、その中で色々な付加がかかれていたのを辞書を見ながら考えて購入し、フィッティングルームで着替えて今に至る。
(お店の人に聞ければよかったかもしれないけど、話かけられなかったし…)
こんな時自分のコミュニケーション能力のなさにうんざりする。
でもきっとお店の人に聞いても買えないものがほとんどだっただろう。
奥の方には私が持っている辞書ではのっていないような能力のものが書かれているものもあったが、値段の桁が違った。
ショッピングモールの通路上にあるベンチに腰掛け、あたりを見ながら左腕から1枚の手紙を取り出す。
「匡…」
それは青い箱の洋服の間に隠されるようにして差し込まれていた青い封筒。
どきどきしながら手紙を開くと、そこには電子的な文字ながらもどこか人間味を感じさせる内容が書かれていた。
この世界での死は目覚めない姫と等しい
だからどうか 生きて
いつか必ず迎えにいくから
(匡は生きているの?)
涙ばかりが出てきてうまく考えられない
(匡はこの世界にいるの??)
用を済ませた手紙はデータの中に戻っていったが、そんな事にも気が付かず固まってしまった姿勢では涙を止める手だてもなかった。
(どうして帰ってきてくれないの?どこにいるの?)
決して人通りが全くないわけじゃない場所なのに、目立つことも忘れてぼろぼろと泣きながらベンチに根が生えてしまったようにうつむいていると、頭の上から数人の笑う声が聞こえてきた。
「あれれ?泣いてんの?」
「てか君すごい髪形だね。まるでモップみてー」
「おいおいかわいそーだろ」
顔をあげてみると、涙で視界がゆがんだ瞳に、ゆがんだ笑みを浮かべている男が3人、私の前に立っていることに気が付いた。
「へー…顔はかわいいじゃん」
「どれどれ…お、洋服はちょっと子供っぽいけど顔は‥マジでかわいい方だ」
「なんで泣いてんのー?俺らが話聞いてやろうかー?」
その声色にぞっとしてよろよろと席を立って歩こうとすると、左腕をつかまれた。
「おいおい、逃げなくてもいーじゃん」
「はな…してっ」
「君さっきインフォーメーションカウンターにいたっしょ?みてたよー」
「っ!?」
体がぎくりとしたのに気をよくしたのか、3人組は値踏みするように私を見る。
その視線が気持ち悪くて視線をそらすが、左腕は強く掴まれていて力を入れても外れそうもない。
「大事なものはまだコードのままかなー?見せてほしいなー」
「俺もみせてほしーなー。『女神の吐息の指輪』」
「そうそう、そのかわいい口でいってほしいーなー『開錠』ってさ」
間違いない、この3人は駅員の男性が心配した通り、あの場所にいた人達だ。
狙っているのはレアと言われていた指輪。だけど出すことは私にしか出来ない。だからそれを狙っているのだ。
「君かわいいからあまり手荒なことしたくないんだけどさー。俺らもそれ、超ほしいのよ」
「そうなのよ。譲ってくれると助かるなー。どうかな穏便に2万くらいでさ」
(気持ち悪い、怖い)
「はなしてっ」
「だから逃げないでほしいって…ば!」
左腕を押さえていた男性がさらに私の左腕をひっぱると、その反動で通路に這いつくばるような姿勢で倒された。その勢いで、私の背中が露わになる。
「うわ!なんだこいつ…」
その私の背中を見て男の1人が声をあげた。慌ててまくれ上がった洋服をただすが、それも遅かった。
「背中あざだらけじゃねーかこいつ…気味悪い」
「こいつマジでなんなの?気味悪いから早くやっちゃわね?」
「だな。オレ今『赤ずきん』のクエストのパスコード2つあるし、そこで『PK』すれば合法だろ」
「よし、さくっといってこい」
離れていた男の手が再び私に迫ってくる。それが気持ち悪くて怖くて逃げなきゃいけないはずなのに、逃げられなくてももっと大きな声出せばいいはずなのに、あからさまに向けられる『悪意』に体が反応して動こうとしない。
「やだ…」
「おとなしくしててねー、ちょっと俺と旅行しようぜー」
「やだ…だれか…」
覆いかぶさってくる悪意にぎゅっと目をつぶったとき、横からふわりと風がよぎった。
「ぐあっ」
「お、おい!」
2つの短い悲鳴が聞こえてそろそろと目を開けると、目の前にはすらりと伸びた1筋の影。




