Phase5-2
後ろのドアがしまる音がすると、耳に何かのざわめきが聞こえてくる。
ふらふらと音のする方へ歩いていくと、いつの間にかまわりは昔よく使った駅の構内になっていた。
「清宿駅…」
場違いな懐かしさを覚えながら辺りと見ていると、近くにいた駅員のような恰好をした女性が私に声をかけてきた。
「ようこそ、secret GARDENへ。初心者かな?」
(なに?なに??)
久しぶりに家族以外の人と話すことに驚いて視線を彷徨わせていると、その不審な様子を気にも留めていないかのように、駅員らしき女性はにこにこと話す。
「初心者なのはすぐにわかりますよ。素手で『パス』を持つ人はだいたい初心者ですからね」
「ぱ…パス…?」
訳がわからないでいると、女性はにこにこと私の携帯電話を指した。
「こちらの世界ではパスが財布となり、身分証となり、交通券でも“鍵のコード”を読み取る機械にもなります。絶対なくさないようにしてくださいね」
そういうと女性は「初心者はまず総合案内所へいくといいですよ」と笑顔で言い、少し先の案内板を指差した。
指し示す方向にとりあえず足をむけながら軽く会釈すると、女性はにこにこと被っていた帽子のつばに軽く手を添えた。
総合案内所は昔の記憶にあったものよりも遥かに大きく、ちょっとしたスーパーのようなサイズで作られていた。
ガラス張りの外側から中の様子を見てみると、そこには多くの色々な年齢層の人や人種が、上に設置されている掲示板を見ていたり、窓口のようなところでさっきの女性のような恰好をした人達と向き合うような恰好で話していたり、数人で話していたりしている姿が見える。
その案内所の入り口には電子掲示板が置いてあり、「初心者」「クエスト」「日替わり」「緊急」「討伐」など色々な内容のものに、何番カウンターやら何番掲示板やらかかれていた。
(意味がわからない…)
初心者とクエストは確か注意書きやさっきの女性の話で出てきたが、緊急やら討伐やらは見当がつかない。
しかもその緊急とかかれているカウンターはやたらとものものしい雰囲気が漂っている。
(こ…怖いっ)
ただでさえ人がこんなにいるので怖いのに、変な人に睨まれたり声をかけられたりしたらどうしていいのかわからない。
人目を避けるようにしてなんとか初心者カウンターに行き、座っていた駅員の恰好をしている初老の男性の前でどうやって声をかけようか迷っていると、その姿が目に入ったのか、男性がさっきの女性と同じようににこにこしながら声をかけてくれた。
「はじめまして、secret GARDENへようこそ」
「あの…あの…」
「まずはそちらのパスを拝見してもよろしいですか?」
「あ、はい。ど…どうぞ」
促されるまま自分の携帯をカウンターに出すと、男性はおもむろにそれをバーコードを読み取る機械にかざした。
「…はい。『ゆずる』様。登録ありがとうございます。初のご利用でわからないことがたくさんあるかと思いますので、順に説明いたします」
「あ、ありがとうございます。あの!ここはどこ…」
「まずは当サイトより荷物が2点届いておりますが、『開錠』(オープン)しますか?」
「え?ええっと…『開錠』?」
初めて聞く単語に首をかしげていると、
「わからない単語はパスに初心者用の辞書をダウンロードしましたので参照ください。それよりも実際にやっていただくことが一番早いかと思いますので、この場で開錠させていただいてよろしいですか?」
そういうとカウンターの上に置いてあった携帯電話をおもむろに開くと、私に向けてきた。
「では『開錠』と画面に向かって言ってください」
「え…おー…プン??」
私が言うと携帯電話が淡く光りそれが形を成した後、カウンターの上に1枚の封筒と2つの箱が乗っていた。
「こちらの白い箱はサイトから招待キャンペーンで登録された方へのプレゼントとなります。そしてこちらが」
そういって指したのは青い箱
「タスク様からゆずる様へのプレゼントとなります。さきほどのようにパスに届けられた情報や荷物は、自身のパスから取り出すことが可能です。また普段使わないものを『閉錠』(ロック)するとそのものはパスの中で保管されます。
保管される数はバックパック等で増やすことも出来ますが、初期値は装備品含め5となっています。入りきらないものはそのまま持ち歩くか、捨てる・売る等してください」
そう説明しながら、てきぱきと白い箱を開けていく。
「こちら初心者の方必須の『ビギナーセット』になっております。パスを腕輪化する『ハンドリング』、保管数を増やす『バックパック3』、迷いしものの森への『パスコード』、後1万分の『チャージ』と非常食となっております」
「え?ええ?」
意味が理解出来ずにいる私をよそに、男性はにこにこしながら「以上をパスにダウンロードしておきます」と言い、私を置いて話が進んでいく。
「!?」
男性が同じように機械に携帯をかざすと同時に目の前の携帯は消え、いつの間にか私の左腕に細い金属と紫色の石がはめ込まれたブレスレットがまかれていた。
「あの?!これ…」
「以降はそのブレスレットがパスになります。破壊されたり紛失されないようにご注意ください」
「それよりっ私の携帯!」
「ですからそのブレスレットがあなたのパスになります。元の場所に戻ると元の形に戻りますのでご安心ください」
(これが携帯??)
まじまじと見直すが、ただのブレスレット以外の何物にも見えない。
「それでは次にタスク様からのプレゼントを…これは…」
白い箱よりも大きめの青い箱を開けた男性が驚きに詰まったような声をあげた。
中には
「これ……」
そこには昔、匡に買ってもらった洋服が、思い出の中と変わらず畳まれて入っていた。
広げて見てみるとそれは昔買ってもらった子供用のサイズではなく、女性用のMサイズのものだったが、デザインも、色も、ブランドも、なにもかもがあの時のものと同じだった。
ずっと大切にしていた。着るのがもったいなくて、でも着るとちょっと大人になったような気がして。あれから母親に見つかってしまい、捨てられてしまった、もう戻ってくることなんてないと思っていたものが、再び戻ってきた。
「匡…」
「これはまた…豪華なものが送られていますね」
「え?」
思い出に浸っていると、服の下に入っていたものに男性は釘付けになっていた。




