SAVE9
Phase9
天国の、ほんの少し手前に「虹の橋」と呼ばれるところがあります。
この地上にいる誰かと愛し合っていた者達は、 死ぬと『虹の橋』へ行くのです。
そこにはあらゆる苦痛から解放され、彼らは暖かく快適に過ごしているのです。
病気だったものも年老いていたものも、傷ついていたり不自由な体になっていたものも、元の体を取り戻すのです。
まるで過ぎた日の夢のように。
その場所で待つ者はみんな幸せで満ち足りているけれど、ひとつだけ不満があるのです。
それは自分にとっての特別な誰かが、残してきてしまった誰かがここにいない寂しさを感じているのです。
やっとその場所へたどりついたあなたは、愛しい者の瞳をもう一度のぞき込み思い出す。
あなたの人生から長い間失われていたけれど、
その心からは一日たりとも消えたことのなかったその瞳を。
それからあなたたちは、一緒に「虹の橋」を渡っていくのです。
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「ギィッ!」
「ひゃっ!」
思わず倒れ込みながら“それ”を目の前にかざすと、広がったそれはふわりとしたフォルムからは考えられない硬質な音を立てて、目の前の敵と私との間に立ちはだかった。
“それ”が武器として相手にダメージを与えられないのは、使ってみてわかったことだったけど、“それ”が思いかけず私を守ってくれるものだとわかったのも実際に使ってみてわかったことだった。
ITEM: 破天の詩歌
ANALYSIS RESULT:weapon
CATEGORY:Shield
悪魔を滅するのではなく、悪魔を退けたこの武器は、神の慈悲が宿ると称された。
ES・DS(攻撃力)が低い程その硬度は増す。
POSSIBLE LENEL:over 20
RARE RANK: 3
(よ……よかった……盾があって……)
斗真くんには逃げろと言われていたし、正親さんからは出会った時に貸してもらった虹色のローブ(これは相変わらず調べようがないから正しい名称がわからないけど)を借りて来たのはいいけど、この不思議な世界ではその特殊な能力が全ての敵に効くわけでもないようで、途中で鼻をひくひくとさせた不気味なサルとも犬ともとれる敵が隠れているハズの私の姿をピンポイントで見つけた。
それは私が走るよりもはるかに速いスピードであっという間に取り囲むと姿勢を低くして威嚇し始めた。
ローブを頭からかぶりながら他に使えそうなものを考えたけど、全体的に持ち物が少ない中で、そのほとんどが今の私では使えないものだったり、ちょっとしたストーリー補助のようなものだったりで。
回復薬すらも疲労回復剤位しか持っていない持ち物から探そうとすること自体がちょっと無理な提案だったわけで。
襲いかかってきた敵にパスで無我夢中で“身を守れるなにか”を懸命に心の中で考えながら貰ったばかりのアイテムの名前を唱えていたら、目の前が突然白く光り出した。
(日傘……なのかなこれ……)
繊細な刺繍が全体的に施されている黒い日傘は、広げると心強さも手伝ってか大きく感じる。
それが目の前に開かれると同時に、黒い視界を隔てた少し前方、鋭く風を切る切断音が響いたけど、それを全て風のいたずら程度に受け止めた日傘は、今も傷1つ入っていない。
それを感じた敵が数歩の間合いを取ってじりじりと近づいてきたが、それに反するように私がじりじりと後退していく。
根本的な解決にはなっていないけど、一応の安全が計れる位置をとりながら、不思議な攻防が繰り返されてすでにそこそこの時間が経つ。
途中曲がり角や障害物があればそこに駆け込みたい気持ちはあったけど、悲しいかな1本道はどこまでも続いているようで、開けた場所に出る気配すらない。
日傘の取っ手を握りしめる手に無駄な力が入り、両手にじんわりと汗をかいているのはわかったけど、これを元に戻してしまえばそれこそ襲い掛かられてしまうのは明白だし、かといって目の前の敵を一掃出来るスキルカードもなければ、呪いのせいで使えもしない。
今出来る事といったら、とりあえずこの間合いを保ったままどこにあるかも辿り着けるかもわからないゴールまで後退していくことだけだ。
(みんな……)
無事だろうか。きっと私なんかよりずっと強い3人だから、私の心配なんていらないだろうけど、それでもさっきから鳴っているメールの受信すら確認出来ないこの状況では、心配するなという方が無理な話だ。
すぐに合流できると思っていたのに、誰1人として、トト1匹ですら合流出来ず、低く唸られる敵に背を向けないようにしながら足を進めるのは心細い。
さっきはバランスを崩しても何とか立て直して大したことにはならなかったが、それ以上に不安が襲い掛かってくるようで、体がさっきからだんだんとうまく動かなくなってきている。
目の前に開かれる日傘が頼もしいのと同時に、視界を奪っていくため、それがさらに不安としてやってきて、泣きそうになる気持ちを何とか奮い立たせることで精一杯だ。
(頑張らなきゃ)
みんなだって大変な目に遭ってるのは同じなんだから。頭を使ったりボスがいないだけましだと思わなきゃいけない。
ふるふると頭を振って、少しでも不安を振り落すと、足を後ろに後退させる。
私が1歩足を進めると、周りの敵も1歩足を進める。
その横でローブの力で私の姿が見えていない別の敵が素通りしていく。きっとローブがなかったらもっと大変なことになっていた。
そこにほんの少しだけ安堵する。
- アイテム 『魔法の水』 ヲ 共通コード化 シマシタ -
「え」
パスからガイダンスが聞こえて、それで“誰か”が個別ミッションのクエストをクリアしたことを知る。
(誰かクリアしたんだ)
胸の内が温かくなっていく。よかった、誰のことかまでは見ることが出来ないけど、1人はクリア出来たんだ。
(よかった)
頑張らなきゃ。きっと他の2人もすぐにクリアしてくれる。きっともうすぐ合流出来る。それまで何とか少しでもゴールに近づけるように頑張らなきゃいけない。
取っ手を握りなおして後ろに下がる。
相変わらず敵は低く唸っていたけど、飛びかかってくる様子もない。
自分で自分を励ましながら、くじけそうになる心を何とか立たせて後ろに下がる。
それがどれ位繰り返されたのだろうか。
体感的には1時間位はそうしているような気持ちだったけど、多分それほど時間は経っていない。
それはわかっていたけど、ガイダンスはそれ以上新しい知らせを流してくれない。
払拭したかったはずの不安に新しい要素が生まれる。
(もしかして他の2人は……失敗しちゃった……とか)




