Phase6-2
「おれ?」
おちゃらけた様子でその指名を受け止めると、関西弁の男、國鷹はへらりと口角を持ち上げた。
「村人達は集会所に集まり、話し合いを始めました。制限時間は15分です」
かちり、と部屋の上座に置かれていた時計が針を進め出した。この15分の内に話し合いをして1人、怪しいと思われる人物を特定し、その後の“審議”にかけなくてはいけない。
この話し合いがこのゲームの最大の肝とも言える。当然人狼は疑われたくないために、嘘をついて巧みにその目標を他人に向けさせなくてはいけない。
しかし、それが過ぎて目につくとかえって怪しまれる判断材料にもなりかねない。
一方で村人は積極的に話し合いに参加して、人狼を特定しなければいけない。実際のこのゲームではどいつもNPCであるから遠慮する必要もない。
村人数人を犠牲にしても確実に人狼を当てられれば、それだけ勝利に近づく。
役持ちは自分が役持ちであると宣言すれば発言力は増すが、序盤で宣言することはそれだけ人狼に狙われるリスクも伴う。今回はおそらくよほどNPCがマヌケでない限り宣言はしてこないだろう。
(そして多重人格者…)
こいつが配置されたのは正直厄介だ。村人側でカウントされているくせに、人狼側の人間であることから、虚言をつき場を惑わせる役目になる。
ちらりと指摘された男を見る。そいつはその疑惑すら何とも思っていないかのように、このゲームを純粋に楽しんでいるような嬉しそうな目をしている。
それがそいつの気質であることはわかっているが、もしこいつが人狼または多重人格者であった場合、相当場が荒れるだろう。
「なんや、おれが疑われとるみたいやけど、どうすれば疑い晴れるん?」
「ということは君は人狼じゃないのか?」
「当たり前やん」
(どうだか)
私情を挟むのはこのゲームではご法度だが、思わず本音がこぼれる。
(どっちにしても動かないと始まらねぇな)
どちらかというと聞き役に徹している方が性には合っているが、話の流れを作らないとそれすら出来そうにない。
「とりあえず順番に1人ずつ誰かに質問しろ。そこの女から」
そう言って俺の対面に座るおさげの女を指差す。その両隣にひょろりと背の高い男と、がたいがいいくせにどこかおどおどと辺りを見回す男が座っている。
「わたしはドロシー。何言えばいいのかわからないけど…あなたは人狼なの?」
ドロシーと名乗った女が俺に質問を返したが、それには短く「違う」と答える。
時計回りに進み、順番にかかしとブリキと来た後俺の見知ったメンツになる。
「ええっと…ゆずるです。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げる仕草は本物そっくりだった。
「で、何か誰かに質問しろよ」
「あ、はい。えと…」
きょろきょろと辺りを見回し、自分と同じようにおどおどとしている人物に視線を合わせた。
「ライオンさんは…何か役を持っていますか?」
「!」
今までの会話の流れとは違う展開に驚きを隠せなかったのか、ドロシーの左隣に座っていたライオンと呼ばれた大男は小さな目をこれ以上ない位大きく広げた。
「ぼ、僕!?」
(こいつ……何かの“役持ち”だな)
それが人狼か、それとも村人側の特殊能力者かはわからないが、取り合えずのとっかかりとしては効果的な質問だ。
(ゆずるの性格からしてたまたま似たような空気を持った人間に声をかけたと考えてもいいが……)
逆に少し的確過ぎる気もする。
「わ、わからないよ。そうかも……しれないし、違うかもしれない……し」
どうにかして濁そうと答えているつもりでいるが、見る奴からしたらどう考えても怪しいのは一目瞭然だ。それでゆずるのキャラなら納得するかもしれないが、順番が悪い。
「じゃオレもそこの男に質問」
質問が終わりほっとしたような表情を見せた相手が再度ぎくりとするのに対し、ゆずるの隣に座っていたガキは、獲物を狙うような目で大男を見ている。
(まぁそうだろうな)
俺の記憶を元に作られているならそう来るのは当たり前か。
「あんたは人狼?」
「そんな!?違うよ!」
今までおざなりに繰り返されていた質問も、明確な意図を持つとその受け方は違う。特に役持ちかと疑問を投げられた上でのその一言は、ただ流れ作業の一環で言われたときとは感じ方が決定的に異なる。
「ふぅん」
「本当だよ!僕、人狼なんかじゃないよ」
(あいつ…わかりやす過ぎる)
キャラクターの特徴そのままに作ったんだろうが、他のキャラクターが全員あんな感じなら苦労せずにクリア出来そうな位だ。
(1人目は決まったな)
その後に続く俺の番になり、2つ先に座る男におもむろに「おい」と声をかけた。
「お前でも守ってもらいたいとか思ってるのか?」
「出来るんなら守ってもらいたいもんやなぁ。おれ、善良村人やし?」
続いて3人の男が無難な質問を繰り返し、最後に大男の番になる。
「ど、ドロシー」
「ん?」
「ドロシーは僕を信じてくれるよね?人狼じゃないって信じてくれるよね?」
「もちろんだよ」
明るく返された言葉にほっとして撫で下ろす姿が見えたが、それを見ていた周りの視線は疑惑の感情が入り混じっていた。
あいつはただ自分が助かりたい一心でそんなくだらない質問をしたのかと表面的には思われたかもしれないが、俺的にはなかなか的確な質問だった。そう同じように考えているのはさて、何人いるのか。
「話し合い終了。村人達は裁判により1名を処刑してください」
再度ドロシーから順に投票が行われる。流れはガキまでが見事に“ライオン”に票が集まり、俺の番になる。
ここまでで5票がライオンに集中しているため、これから1票でも票が集まればその時点でライオンの処刑が決まる。
「俺は……」
辺りをぐるりと見回して視線をそこに合わせる。
(ここでひっくり返るか……?)
それは俺の発言にかかっている。
「ドロシー、お前だ」
俺を除く数人がその発言の内容についていけないといった表情をし、GMの女と、國鷹だけが面白そうに口元を緩めた。
「理由を」
GMが短くそう告げると、頭の中で展開していた手元のカードの一枚を切った。
「おそらくそこの大男はなんらかの役持ちだ。それはだいたいの奴が俺と同じように思ってるんじゃねぇか?
だがそれを何の疑いもなく『人狼でないと信じる』と言い切ったそこの女。そこの男と“グル”で人狼か、“お前”自身が人狼か。どちらにせよお前が人狼な他に選択肢はねぇ。同じ人狼なら仲間がわかるからな」
「なるほど」
「へぇ」
「それに今選ばなくても、ライオンの役が人狼だか他の役かはそいつの言動じゃすぐわかる。それから始末しても遅くねぇ」
「ふぅん」
それなりに納得のいく説明になったのか、ライオン一択で流れていた話の流れが変わる。俺以降の奴らは全員ドロシーに投票し、一番最後、ライオンの投票を残すのみとなった。
大男は信じられないといった顔をしていたが、それとは対象的に向か合う女の顔は涼しいものだった。
(こいつ…こいつが入れない自信があるな)
こいつがもしあの女に入れれば再度投票になるが、それ以外ならライオンが処刑されることになる。そうすると役持ちを失うどころか俺の“あの”発言が不利に働き始める。
目立ち過ぎなのは自覚している。ここで外せば間違いなくミスリードを促した俺に矛先が向くだろう。
(いきなり山場かよ)
序盤から生死をかけることになるとは正直あまり思っていなかった。最初の投票は村人の誰かが犠牲になっても仕方ないことだと思っていたし、それをヒントに以降の展開を考えていたが、展開が思っていたよりも早い。
早くも1匹目の人狼を特定出来たのはうれしい誤算だったが、それと引き換えに有益な役持ちも消される天秤になるとはな。
「ぼ…僕は…」
大男は震える声で、ある人物の名前を告げた。




