Phase5-2
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「よし」
影に刺さっている杭がまた1つ抜かれて、右手が自由になる。利き手が使えるのと使えないのだとだいぶ違う。
自由が利いた右手を何度か動かし、特に異常がないことを確認出来た。
よし、これでかなり楽になった。
残りの杭は後2つ、パスで時間を見ると予定よりは少し早い方かもしれない。これなら考えていた心配事も杞憂で終わりそうだ。
結構歩いてきたような感覚があるからこれで後ろを振り返ったら自分が今どこにいるのかきっとわからなくなる。
パスには方向がわかる機能はついていないし、ふりだし以上のことになりそうだ。
まあそもそも別に戻る必要もないんだが。
1本道の森の中を歩いてもうそこそこ経つ。相変わらず景色は変わらないし、特にめぼしいイベントもない。
本当にかかしのイベントは頭脳戦、つまり謎解きなんだと思うとほっとしていいのかつまらないと文句を言えばいいのか、微妙なところだ。
「敵の1匹位出てもいいのに」
ただ歩いて1人で謎解きというのもつまらない。
(それにオレも人の事言えないし)
あいつにはレベルをあげろと言っているのはいいものの、オレだって決してレベルが高い方でもない。
制服野郎のレベルは中級者の中でも上の方と言ってもいいレベル帯だったのを知ったし、メガネはそもそもほとんどの情報がロックをかけていてオレのパスでは解錠出来ない。
持っているものの多さと豊富さから、少なく見ても中級者以上なのを薄々わかる程度で、本当の実力は未知数だ。
戦っているところを見る限り決して偏って攻撃タイプというわけでもないようだけど、燃費のいい格闘タイプだし、ほとんど疲れたところを見ないところからもしかしたら体力寄りのスタイルなのかもしれない。
(ゆずるは…)
何なんだろう。突出して高いものなんてないと思うけど、なぜか入手制限のあったスキルコードを取ることが出来たり、実力者からやたらと目をつけられている感じはある。
運とここぞというときの勘は働くけど、能力として大きく目立つものがないのが素直な感想だ。
(それともオレが知らないだけか?)
隠し事がおそろしく下手そうなあいつに限ってそれはないと思っていたけど、もしかしたらもしかするかもしれない。
じゃなきゃどう考えても格下のゆずるを、あの優男がわざわざ指名して仲間に入れてくれなんて言わなさそうだ。
ここのところゆずるに付き合ってレベル帯が低めのクエストばかりやっていたけど、合間を見てレベルあげもする必要があるかもしれない。ここのところ明確な目標があるクエストを立て続けにやっているから、余計にレベルの必要性を感じるし、そんな気持ちにさせられるのかもしれない。
(足手まといとか絶対やだし)
そんなのになるつもりもないけど、こっちにも多少なりともプライドはある。頼ってみせろなんて大仰なことは言わないけど、それなりの立ち回りは出来ないと自分が許せない。
「…なんだこれ」
することもないのでとりとめのない思考の波を流れていたら、足元にこつんとぶつかる衝撃。
拾い上げてみるとそこには12時ちょうどで止まっている置時計が落ちている。
後ろにはゼンマイ式の時計らしくねじまきが刺さっていて、それを巻くことで針の表示が変更出来るようになっているようだ。
ねじまきが壊れていて動かすことが出来ないのを確かめると、次に本体を振ってみる。
(なんだかさかさと何か音がする…紙か何かか?)
それが、時計の下に小さく作られている小箱のような場所に入っていた紙切れの音なのはすぐに分かったけれど、そこに小さなひもが1つ紙に巻きつけてあるように結ばれて読みにくい。
ようやくほどいて中身を見たが、そこに書かれていた文字は仰々しく巻きつけられていたわりにあっさりとしたものしか書かれてないし、それ以外のものは入っていない。
Wake up time set
S 90
Z 270
Z 180
S 48
突然かちりと音がして12時を指していた長針と短針が外れる。
その2本をしげしげと見てみるが、やっぱり針にも変わったところはない。
「Wake up time set…『起床時間』をセットしろってことか」
ヒントはそれと4行の英語と数字。SとZだ。
何度か試してみたいところだけど、これで1回だけのトライだったら失敗になってしまうし、試してたまたま答えがわかるのも面白くない。
時間をセットするということは、12時間表示の場合1時から12までの12通りと、0分から59分の60通り、60の12乗通りあるわけだ。
しかし最初の3つの0まではおそらくきちんとした数字になるだろうけれど、最後の48はもしかしたら細かい数になるかもしれない。
(あてずっぽう防止のつもりかよ)
「S…Z」
2通りしかないからきっとこれのどっちかが“右”でどっちかが“左”または、1週を回す“single”と2週を意味する“zecchin”か・・・。
でもそれではSが1週だとわかる人に対して2だとわかる人が絶対的に少ない気がする。それならまだ右と左で表現してある方がフェアか。
ひとまず答えを保留にして数字の方を見る。
「90…270…」
まず数字が分表記となると一番小さい48なら範囲に入るが、270分だと6時間30分になる。
時間と分を交えていいなら確かにこれで一通りの答えにはなるとは思うが、それが必ずしも正しいとも言えない。
(何か1つ確実なヒントがないとこれ以上思考を進められない)
他に何かヒントになるようなものがないか改めて置時計を見ると、紙切れが入っている小箱の引き出しの下の部分、閉めてしまえば見えなくなってしまう場所のところに何か別の文字が見える。
12-3=Z90
「…なるほど」
これでヒントは揃った。
一見ゴミかと思っていたこの紐にも意味があることがこれでようやくわかり、出てきた答えと一緒に納得する。
12時から3時までの角度は90度、そしてその角度は右へ90度、つまりZは右にあたる。
それと同じ法則でネジを巻けば答えが出ると言うことか。
時計の針を長針から時計にはめ込み、次に短針をはめ込む。
最初と同じようなかちりと音がすると、影に刺さっていた左足の杭が消える。これで残りは心臓のあたりに刺さっている1つだけだ。
(Z巻とS巻なんて…確かにRとLだとすぐにわかっちゃうけどさ)
変なところで変な知識を出さなくてもいいと思う。そんな巻き方を知っている人なんてロープを使うような職業の人か、かなりの知識人位だと思うけど。オレは知っていたけど。
時計は12時52分で止まっている。
起床の合図をするかのように、時計の奥から『Over The Rainbow』が鳴り響いていた。




