Phase5-1
「Some …where …over the … rainbow」
一人ぼっちの森に対してうまくもない声が響く。それを鼓膜が敏感に聞き取ってさらに顔が熱くなっていく。
(まだかよ!?まだ歌うのかよ!??)
「Way up …high …」
恥ずかしい、恥ずかしくてたまらない。
しばらく辺りを見回してみたが変化はない。それが導く答えがわかる自分がうらめしく感じながらも、この後悔羞恥をどうにか終わらせたくて息を吸い込んだ。
「And the dreams that you dreamed of …」
「…lullaby …」
早く終われ終われと繰り返しながら次のセリフを劇中のときより早めに歌うと、途中声が裏返った。
くそっ、かっこ悪すぎる。
ふと両足の戒めが弱くなり、思わず両膝が地面につく。
心臓は恥ずかしい程ばくばく鳴り出しているし、顔を確かめなくてもとんでもなく真っ赤になっているのがわかる。
(くそくそっ)
Sの上に書かれているGでSONG・・・つまり歌だというのはわかった。この本で有名な歌と言えば途中でドロシーが歌う『Over The Rainbow』であったのはすぐにわかったが、まさかそれを歌えなんて言われるとは予想外著しい。
しかもなんでそれをゆずるじゃなくてオレが歌わなきゃいけないんだよ。
(もう…絶対やらない!!)
(屈辱だ…こんな罰ゲーム…っ!)
ドンドンと両足で地団駄を踏むように地面をたたきならしながら何とか自分の中の感情をコントロールさせる。
(落ち着け……落ち着け、もう終わったんだから)
大きく息を吐き、後ろを向きなおす。そこには右足の杭が消えていて、残りは3つになっていたが、なぜか左足だけでなく右足も体も動く。
「次は探せってことか…」
まだ少し早い息を整えるようにしながら長く続く緑の風景を歩く。相変わらず何にもない1本道で、目印になるようなものもない。
「ん…?」
とりあえず進行方向らしき方向へ向かって歩いていると、目の前に一枚の立て看板が見える。それを起点にして4つの方向へそれぞれ道が伸びている。
2なら0 5なら5 10なら2
それは常に己は負けてはならない
それを3人で行う場合、相手の合計が4であるならば0であればよい
さてここで場に7が示された
正しき道をすすめ
NE:1
SE:2
SW:3
NW:4
方向は全部で4つ、それぞれ北東・北西、南東・南西に伸びていて、あたりにはそれ位しか道がない。
その道の先にそれぞれまた鬱蒼とした森が伸びていて、その先に広がっている光景が想像できない。
(ここで間違えるとアウトか)
と言ってもさっきの方がまだ精神的に大きな負担があったな、と思いながら看板を再度眺める。
それは3人でやる“何か”で“負け”てはいけない。
(何かの数字の隠語なんだろうけど…素数とかの類じゃないな)
いくつか候補を浮かべてはそれを瞬時に消していく。
こういうとき、こういうときにだけ自分が中学生っぽい・・・とは過小評価でも言えない知識を持っていたことを少しだけうれしく思う。
少し前はこれこそが嫌でたまらなかったものだったはずなのに。
だから象徴が自分と縁のある場所から発現されるとわかったときは、うれしい気持ちよりも複雑で、あまつさえ嫌悪感すら抱いたほどだった。
今となっては、ほんの少しだけそれを受け入れようとする気持ちがなくもない。
(あいつが…バカみたいにオレのこと当てにするから)
そう考えるようになったかもしれない。
『斗真くんすごいね』
その言葉はオレが常に聞いてきた言葉と同じものだったのに、含まれる気持ちはオレが今まで聞いたことないものだった。
『正親さんすごい、じゃんけん負けなし』
『確率おかしくない?だいたい1/3の確率なのに』
不意に先日3人でプレイしたクエストが思い返される。
確かにあれは理不尽だった。イカサマでもしているんじゃないかという位何回やっても勝てなかった。
『お前が弱いんだよ』
あのメガネ、絶対何か隠してやがる。帰ったら絶対に訳を聞いてやる。
その様子をうれしそうに見ていたあいつの顔が思い浮かぶ。
時々どうしようもなく切ないような苦しいような表情をするのは気になっていたけど、それでも最近オレ達と一緒にいる時は相変わらず下手くそながらもうれしそうな表情をすることが多くなった気がする。
最初はとんでもなく頼りなくて受動的な奴だと毛嫌いしていたけど、あいつの隣は変な気持ちがする。イライラしてもどかしいけど、同時に感じたことない気持ちが生まれる。
きっとあいつは言わないんだろうけど、オレが考えるよりもつらい目に遭ってきたんだろうな。だからだろうか、あいつは誰も傷つけないように自分を傷つける。
それを見ている内に、その痛みが少しでも少なくなればいいのにと、らしくない感情が生まれる。
その感情が、もやもやしてイライラして、そしてちょっとだけあったかい。
『もう1回やるのか?』
『斗真くん、が、頑張ってね』
思い出して腹が立ったりちょっとむずがゆくなったりしていると、ふいに自分の手を見つめる。
「…あ」
答えが出てしまえば理論を逆立てするのは驚くほど簡単で。
(じゃんけんか)
迷うことなく南東の方角へ走り出した。




