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secret GARDEN- Klotho -  作者: 蜜熊
QUEST4:Over The Rainbow(オズの魔法使い)
116/226

Phase3

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----------------------


「そう、それで送信」


「はい」


未だに慣れないパスの操作を言われるがままに動かしながら、ようやく考えてまとめた文章を打ち切る。

画面に『送信しました』の文字が無事に出てくれてほっと一息こぼれる。


「なんであいつを…」


斗真くんは3人で決めたこととはいえやっぱりひっかかるところがあるようで、さっきからいつもより渋い顔をしている。

ぶつぶつと独り言もいつもより多い。


(うぅ…やっぱりわがままだったのかな)


ちらちらと様子を伺っていると、私のそんな様子にとっくに気が付いているといったように、ますます不機嫌そうな顔をして視線を外した。口はアヒルみたいにとがっている。


「お前もいつまでもぐちぐち言うな。納得したことだろうが」


「うるさいな、わかってるっつの」


「あの2人とも喧嘩は…」


相変わらずの売り言葉に買い言葉のような展開にあわあわとしていると、パスから短い音が聞こえた。

それが私宛に誰からかメールを送ってくれたことを示す合図なのがわかり、にらみ合いをしていた2人の視線が同時に私に向けられる。


視線が揃うのを確認して受信の欄を開くと、相手は少し前に私からメールを送った相手。

内容な簡素で10文字にも満たなかったけれど、その内容を見るだけで相手が私の提案を承諾したことがわかる。


「運営経由だったのにずいぶんリアクションが早いな」


「運営?」


言った意味がわからず首をかしげていると、それをみた正親さんが映し出されたメールの下の部分を指差す。


「ここ」


指し示した部分は2人からのメールだとログイン時間が書かれている最後の場所、そこには『-このメッセージはsecret GARDENメッセージサイトよりお預かりしたメッセージを送信しています -message from SG』と書かれている。


「普通フレンドメールだとログイン・アウトと“-message from SG”ってなるが、フレンド以外、お前がこの前あいつからPT承諾のメールをもらったろ。フレンドじゃない第三者にやりとりするときは、運営経由のメールになる」


野良で募集したり、イベントやチームを募集する時は主に運営を経由したメッセージが使われるとのこと。


今までメールはフレンドだけしか使えないと思っていたのが、前回の周さんとのやりとりでそうでもないのがわかっていたけど、それはあくまで運営側が必要と判断したもの、つまり募集に対しての返事のときに使われるようだ。


その時はメールの表示が少し違うみたいで、相手のログイン状況のかわりに運営経由でメールをしましたと表示される。

というのが正親さんが教えてくれた内容だ。


確かに言われてみれば周さんだけ届くメールの種類が違うなとは思っていたけど、フレンドとそれ以外の人ではそんな違いでメールが届けられるのかと感心していた時だった。


思い出の中にひっかかった“それ”は、今見ているものと全く同じものであったと。


「ゆずる?」


どうしよう、信じられない。


いきなり黙り視線だけがあわただしく地面を見つめる。


(あのメールも…同じだった…)


私がここに来たきっかけ


それはある人からのメールだった


(ママ)


「ま…ママ…」


「?」


まるで映画のシーンのように何度も何度も頭の中で再生される。




FROM: ママ


TITTLE:無題 


--------------------------------


本文:








-このメッセージはsecret GARDENメッセージサイトよりお預かりしたメッセージを送信しています -message from SG



(ママは…ママはやっぱりここに…)


「どうした?」


両手で髪の端を掴んでいたその片手に触れるようにして正親さんが下から私の顔を覗き込んだけど、それに視線を合わすことがうまく出来ない。


短い息しか吐けない口から何とかぽつりと落ちた「ママ」という単語を聞き取ってそれを聞き返してくれるけど、それにうなずくことしか出来ない。


「ゆずるのお母さんがどうしたの?」


斗真くんが心配そうに同じように顔を近づけてくれて、そこでやっと視線が上を向く。

口は相変わらずの役立たずで、使えませんとばかりに自然と口がきゅっと結ばれる。


「お母さんがここにいる…とか?」


ゆるく頭をふると、2人が同時に驚く顔をした。


「本当か?」


「め、メール…」


もう1度メールと繰り返すと、斗真くんが「メールが来たんだな」と代弁してくれたのでそれにうなずく。


「同じ…ものが…きて…私」


「…待て。メールが来たのはいなくなっていつだ」


「…?」


質問の意味がわからなくて正親さんの顔を見る。


その顔はどこか緊張しているようにも見えた。斗真くんは何も言わなかったし顔も見なかったけど、雰囲気で同じように緊張しているのはわかった。


「いいから答えろ。ゆずる、メールが来たのは“いなくなってどれ位経つ”?」


もう1度正親さんが同じ質問を繰り返す。


「い…1週間…」


「…」


「え、それって…もしかして」


「ゆずるさん」


斗真くんが硬い声を出したのとちょうど同じ頃背中側から声がして、それが誰の声なのかはわかったけど、頭は錆びついたようになかなか向いてくれなかった。


ぎぎぎと音がしそうな程ゆっくりと振り返ると、そこには制服姿の周さんが私の座っている席の後ろに立っているのが見える。


「…タイミングいいヤツだな」


斗真くんが短く悪態をつくと、正親さんから周さんへ顔を向けた。


「座っても?」


周さんのその声に、空いている自分の席の隣へ何とか顔を向けると、周さんがそれに対して軽くお辞儀してその席に座る。

ちょうど私とは左隣に周さんがつくと、隣の席が埋まった斗真くんは肩肘をつきながら体を左側の正親さんの方へ向けた。


「それで、いついくかは決まったんですか?」


「…部外者は黙ってろ」


斗真くんがちくちくと棘を含んだ言葉を口にするが、それには全く気にしないと言ったように涼しい顔をされるのが余計に斗真くんの気持ちを刺激しているようで、早くも開始2分程度で険悪な空気が流れる。


それに何とかフォローをしなくちゃいけないはずなのに、うまく頭の切り替えが出来ないでいるせいか、私は頭にこびりついてしまったワンシーンをどうにか頭の片隅に追いやることでいっぱいでそれどころではない。


キャパシティーオーバーな私の様子を隣で見ていた正親さんが、聞こえるような溜息をついて机に置かれていたコーヒーに口をつける。


おもむろにカップを置くと、心底面倒くさそうな声を出しながら周さんに向き直った。


「今週末だ」


「わかった。“配役”は?」


(配役…)


少しずつ整理をつけている頭の片隅に聞き慣れない言葉が入り込む。黙り込んでしまっている私とは逆に、いつもより饒舌なように見える周さんは2人に知り得る情報を説明し始めた。


「かかしは“頭脳戦”、ライオンは“戦闘”という情報は聞いています」


「それぞれが足りないものを補うような構成になってんだろ。知ってるっての」


ふんっと鼻息荒く言い放つと、斗真くんがずずっとカルピスミルクを一気に飲み干して言葉を続ける。


「ブリキは“心理戦”になるんだろうけど、それはどんな感じで仕掛けてくるのか完全ランダムって話もある位だし」


「リニューアルに加えてレア入手の情報もないからでしょう。プレイするプレイヤーが少ないから情報もそれほど多く集まらない」


「まぁ、今のとこ噂に飛びついたヤツか物珍しさにやるような奴らで、本格攻略って感じじゃねぇんだろうな」


「特に“ドロシー”の情報が全然ない。ゆずる、本当に大丈夫なの?」


「え…?」


斗真くんに名前を呼ばれて急激に現実に引き戻される。頭の中の引き出しは半分くらいが開きっぱなしのまま中身が見えているような状態で、みんなが説明してくれていた内容の1割も頭に入ってきてくれない。


(ええっと…配役…かかしとライオンとぶりきと…)


なんとか思い出しながら、とりあえず勢いでうなずいてみると、目の前の斗真くんの視線が呆れたように細められた。


「絶対わかってないだろあんた」


「…う…」


「4人用だから誰1人が欠けてもクエストクリアになりませんが、一番脱落者が多いのが“ドロシー”です。覚えておいてください」


射すくめられるような周さんの視線に思わず喉が鳴る。


片付かない頭でも怖くて逃げ出したいと考え始める。けれどそのがけっぷちのところで誰かが私を支えてくれているような変な感情も湧き上がる。


それが目の前にいる3人なのか、それとも別の誰かなのか、それとも誰かの意思なのか、それはわからない。怖くて逃げ出したいはずなのに、頭はゆっくりと縦に振られる。自分の体の事なのにすごく不思議で奇妙だ。


その様子を3人が見て、1人がその総意を口にする。


「…本人がいいって言ってるなら問題ないだろ。後3人誰が何をやるかだな」


「オレがかかしかブリキやるのが妥当だろうな。あんた…」


と言って頬杖をついている視線から周さんをちらりと見る。


「あんたがライオンあたりだろ」


「かまいません」


「なら俺がブリキをやるからお前がかかしをやれ。その方が確実だ」


正親さんが提案した案に斗真くんがあっさりうなずく。


「まぁ、だろうね」


配役は唯一の女性プレイヤーで条件の固定がある私がドロシー、頭がいいのは私も正親さんもわかっている斗真くんがかかし、個別の戦力では2人が太鼓判を押している周さんがライオン、一番内容が不確かなブリキを正親さんが担当することで決まった。


きっと他の誰が考えてもこの配役がベストだろうし、きっと一番成功率が高い。


最大の要だと周さんが念を押しているドロシーを私がやらなくてはいけないのが一番ネックになっているのは仕方ないところだろうけど、PTと言われた時点で私がただ見ているだけで物事が進むなんておいしい話はないんだ。

せめて足をひっぱらないように出来る限りやるしかない。


(この世界のどこかにママの足取りがわかるかもしれない)


(そうしたら…きっと匡も…)


「では今週末に」


頭の中でふと昔聞いた“虹の彼方に”がリフレインされた。

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