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secret GARDEN- Klotho -  作者: 蜜熊
QUEST3: fairytale book (御伽草子:酒呑童子)
110/226

Phase10

(確かに一筋縄ではいかないか…)


まして今相手に喧嘩を売るのは得策ではない。

準備も不十分な状態でどうにかなると思っている程自分の力を過信しているつもりはない。


過信、と思い立って彼女の存在に再び辿り着く。彼女は過信というものにはおそらく一番縁遠い位置にいるだろう。


自信なさげに揺れる瞳には多くの悲しみと絶望と、そしてその感情を抱えても消えない光を映す。


お世辞にも強いとは言えない。言えないが、言いようがない見えない力に導かれている。

そう、例えるならば一番最短の攻略ルートを、無自覚の内に探し当てられる嗅覚に近いものを持っている気がしてならない。


(あの『本』も知っていたのか?それとも無自覚か?)


あの本…このクエストが記載されていた御伽草子に行き着くのにずいぶん時間がかかった。


最初はそれを指している意味すら理解出来ずにいた。

それなのに彼女は“あの場所”にいた。


何冊もある御伽草子の中で、その物語がおさめられていた1冊だけを探し当てた。


導かれたといっても語弊がないと、彼女の目を見ると思ってしまう。

根拠は何もないにも関わらず。


最初は“あの場所”で出会った女性が彼女だと気付かずにいた。

そもそもほんの数分にも満たない1度きりの出会いで覚えているようなこともない。


気が付いたのは、ストーリーが始まり、物語が始まってからだ。


時折妙に聞き分けがよく物語の流れを掴んでいるかと思っていたら、急に動揺して道に迷った子供のような目を向ける。それが物語だけを知るものの行動だと結論付けたら、点と点が線で結びついた。


ただ物語“だけ”を知るものにしては理解不明な行動をとることもしばしばあり、それは大いに困惑せざるを得なかった。


薫物たきものはサイトの予想でも上がってこないようなマニアックなものだったし、それをおそらく初見であろう彼女があんな複雑な香りを調合できたのも理解出来ない。


支援系であったのは最初の段階でわかっていたし、攻撃出来そうなスキルも持ち合わせていなかったにも関わらず、あの得体のしれないランカーから警戒されていたし、唯一持っていた支援系のスキルもかなりレア度の高いものだった。


初心者のようにしか見えなかったのに、そのカテゴリーに全くあてはめることが出来ない。不可解としか言いようがない。


困惑していたのは確かだったのに、なぜか不愉快と感じなかったのは今でも腑に落ちないでいる。


他人など、考えが把握出来ない不愉快なものであるはずなのに。


今考え得る自分の考えをまとめ、その上で再度目の前の2人に対し問いに答えるかを逡巡しゅんじゅんする。


「…端的に3つ。それ以上は答える義理がありません」


「てめぇ」


少年が敵意を持って睨むのがわかったが、それがこちらに出来る譲歩の範囲だと判断した。それを曲げるつもりはない。


「こいつがお前を指名してクエストに出たのか?」


「はい」


「お…おい!」


慌てたように少年がメガネの男を見やるが、目だけで短くそれを黙らせると、もう1つ加えた。


「こいつがお前を誘った理由、お前は察しがついているな、何だ?」


(…この男)


別に外見や立ち振る舞いでその人間の内面までを見透かすようなことはしていないつもりでいたが、この男、思っている以上に勘がいい。

そして、自分よりもおそらくこの世界について知っていることが多い分類の人間だ。


そう言った人間に対し適当な嘘をつくのは得策ではない。一番いいのは沈黙を守ることだったが、それも自分が提案した譲歩によって退路が断たれている。


それを全て見越した上で、私にこの質問を投げかけてきている。


「…あるところで偶然彼女と会った。目的はともに『御伽草子』だった。おそらくそれを彼女が覚えていたんでしょう」


「…」


質問に対する答えをじっと聞いていた男が、後ろに背負っていた彼女をちらりと見て溜息を1つ。


「ぁー…なるほどな。おい、後の1つはお前が聞け」


男はそれ以上興味がないと言ったようにあくびをかくと、彼女を背負い直した。彼女は眠っていたようだが、人形のように白い肌と心細い四肢をだらりと預け、固く目を閉ざしているその姿は、まるで死んでいるようにも見える。


「相変わらず自分勝手なヤツだな…」


男を呆れたような目で見ていた目が、彼女を見てそのきつい視線を緩める。


私がそれを見ていた視線に気が付いたのだろう、敵意をあらたにしたが、その興奮を抑えられる分別はあるようで、最後の質問を考えるべく口を閉ざした。


「…御伽草子…」


かすかに提示されたヒントをもとにフル回転で最も効率的な一手を考える。そう言った方が的確な気がした。


(おそらくこの少年も的確についてくる)


それは勘のようなものだったが、男といいこの少年といい、的確に退路を断ってくる。

そしてそれは嘘をついても意味がないことを示す。


「あんたが『御伽草子』を調べようとしたのは何が根拠だ」


やはりという気持ちがあったせいか、今度はそれほど構えるでもなく答えが出た。


「…『最速の攻略者』…」


「最速の攻略者と噂がある“ジョン=ドゥ”の管理サイト、『ソロモンの鍵』に記述があった。クエスト総数すらわからないこのゲームの『最後の扉』の手がかりになると思った。根拠はそれ位です」


『ジョン=ドゥ』と『ソロモンの鍵』、そしてこの世界の終りでもある『最後の扉』この3つのキーワードに導かれてこのクエストを受けた。

それが私の今回のゲームの動機の全てであることは間違いないが、まさか動機の全てを話すことになるとは思っていなかった。


どれもこのゲームではいずれ耳にするキーワードには間違いないが、例えそれに辿り着いたとしてもそれを結び付けて解けないプレイヤーになら特に問題はない。


しかし、それを解けるプレイヤーの場合、それは敵がまた1人増えることを意味している。


彼らは今の段階で敵となるかはわからないが、敵となりうる知識と判断力を持っているのはこのやりとりだけで十分に伝わった。


そして、今水面下で広がりつつあるある『噂』、それもまたソロモンの鍵に記載がある“あるクエスト”と関連があるのはわかっている。


「もういいですか」


言葉を切ってこれ以上の質問を許さなかったが、相手はもうこれ以上質問してくる気はないようだ。


それに少しほっとして、足早にその場を立ち去ろうとしたが、意志に反して足が思うように動かない。


「…彼女に」


「…皆守さんによろしく伝えてください」


その呪縛を振り切るように、彼女の顔は見ないでおいた。









業務日誌 


○月*日


午前:通常業務


午後:業務後全員で葬式参加



今日朝館長から鍋島さんが亡くなったことを聞かされた。


突然図書館を辞めちゃったし元気にしてるかなと思っていたのに、まさかお葬式で会うことになるなんて・・・。



最近は眠そうにしてること多かったけど、本が好きだったしわたしの話も呆れながらもなんだかんだで聞いてくれたし、同じようにこっそり利用客にお目当てのコがいたこともあってか仲間みたいに思ってたからすごくショック。


部屋で亡くなっていたみたいだけど特に事件性もないとか。

飼ってた犬がうるさく吠えて苦情にならなかったら、死んで数日経って発見ってパターンになってたのかなぁ。


なんでも眠るようなとかそんな話を警察がしていたみたい。


もしかして今都市伝説みたいになってるSBS(眠り姫症候群)なのかな・・・。


やっぱりあの噂、ホントなのかも。



“『secretGARDEN』は呪われたアプリケーション”って噂は。

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