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secret GARDEN- Klotho -  作者: 蜜熊
QUEST3: fairytale book (御伽草子:酒呑童子)
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Phase9-3

飲むことで胃にたどり着き、それからアルコールは分解される。

それが例えば直接目や鼻、敏感に感じる粘膜に辿り着いたら?


斗真くんならそんな理科学的な根拠や考えをもってもっとスマートにやったかもしれないけど、そんなかっこいい考えがあったわけじゃない。


ただ目の前でお酒に酔い始めている姿を見てもう少し飲ませることが出来ればと思った。


ただ目の前に酒を差し出しても、交戦状態となった今ではそれを素直に飲んでくれることはないと思った。


あの徳利の重さは持ってわかっていた。だから自分の力じゃない“何かが”運んでくれればどうにかなるかもしれない。


それしか考えていなかった。


(だったら…っ)


毒の風は今の鬼にとっては動けなくさせる猛毒の霧を乗せて拡散していく。

ある鬼はその毒で、ある鬼は相乗された毒によって、カエルがつぶれたような悲鳴を上げ始める。


大した考えもなく起こした行動は、結果的に功を奏してくれたけど、もともとうまくいくなんて考えがなかった私は、それを見ていても機敏に動くことは出来なかった。


「皆守さん…君は…」


周さんに声をかけられて、そこでやっとはっとする。


「は…早く、スキルを…解除して…ください」


目の前に飛び込んできた顔はその毒にあてられたかのような真っ青な顔をしている。

その顔が小さくうなずくと、向けられていた数本の刃と、外側に向かって展開していた無数の刃がその風にさらわれるかのようにして消えていく。


「お…のれ…」


支えた合った体の先、薄赤い体の酒呑童子は錫杖を杖のようにして片膝を立てて何とか姿勢を保っているような状態で、着ていた大格子の着物はところどころ破け、その奥にある身からは体よりも赤い血がいくつも出ていた。


私が放った霧を避けるようにして姿勢を低くしていた他のプレイヤーがそのすぐ近くにしゃがみこんでいて、剣先には同じ色の血がついている。


「客僧達よ。お前達の言葉を信じたのにこの仕打ちか!我々鬼は卑怯なことなどしなかったのに!」


ぎりぎりと歯をこすり合わせるも、体中に力が入らなくなってきているのか、その表情と気迫で何とか私達を威嚇する以外のことは出来ないようだ。

それを私よりも早くに把握したプレイヤーが他のプレイヤーに宣言するかのように叫ぶ。


「酒呑童子を倒すのはおれだぁああ!」


「させるか!」


討伐が目前になったのを理解し、まだ動くことの出来るプレイヤーがその首を狙って駈け出す。


目の前の巨体は意識はあるものの完全に沈黙していて、後1撃誰かが致命傷を与えれば倒れてしまいそうだった。

それを誰よりも先にやろうとプレイヤー同士が刃をこすり合わせる。


本当ならそれに参加して早くクリアしなければ、ここまでやっていたことがまるで無駄になってしまうのに、私は相変わらず左腕と頭位しか満足に動かせず、その左腕と動かない体で何とか周さんと支え合っているような状況だった。


周さんの方も同じように考えているハズだけど、未だ呼吸が整わない自分の体を持て余すように、私に寄り添うようにして支えてくれている。


ちらりと先に折れてしまった武器を見ているから、多分私と違って動くことは出来るだろうけど、無理して動かしたその先に続く一手がちゃんとした結果を残さないものだと意味がないと、そこまで考えて機会を待っているのかもしれない。


「ここまできて…」


その心情がぽろりと零れる。

その後に続く言葉も想像出来るけど、それを聞いてもどうにも出来ない。


(本当にどうにも出来ないの…)


体は相変わらずの倦怠感で、さらに無理してスキルを使ったからか、少しずつ回復してきたように思っていた体が鉛のように重たい。

気を抜いてしまったらここで気を失ってしまいそうな位体が眠気を訴えている。


(ダメ…)


動けない1匹の大鬼の周りで耳障りな衝突音が響く。

それが鳴り終った時、本当のクエストの終了になってしまうけれど、早くこの耳障りな音をどうにかしてほしい。

他人事のような願いが浮かぶ。


「酒呑童子!覚悟!」


それは耳障りな衝突音に交じって、聞こえた人は少なかった。

運よくその声を拾うと、大鬼の目の前に鎧姿の男性が立ち尽くす。


少し前に見たその姿は最初の頃よりはよくなっているように見えたけど、それでも立っているのが不思議だと感じる位顔色も悪く、そしていいようのない怒りに満ちている。


「妻を…妻をどうした!」


その武士が口にたまる血を吐き出すのと同時にそう叫ぶと、目の前の大鬼の口が億劫そうに動く。


「ふん…知らんわ。おらぬのなら…喰ってしまったまでのことよ…」


「貴様ぁ!」


まるで自分の魂ごと相手にぶつけるようにして恫喝どうかつすると、一直線に鬼に向かって突進していく。


目は目の前の憎い敵をそらすことなく睨み、その足取りは最後の命を燃やしているかのよう。


その男性の今の状態からはありえない高さまで跳躍したかと思うと、鬼の首の根元に向かって白銀に輝く刀身を鞘から抜いた。


「覚悟ぉぉぉぉおお!」


「周さん!?」


その声を合図にしていたかのように、支え合ってた体が、何かを目標にして動く。


男性の刀身が首に届くより前に、振り向かれた首から伸びてきた大きな牙がその体に食い込む。


「ぐぁあああああっ」


骨が軋む音と、周りで鳴り響く怒号と武器の擦れる音、それに絶叫。

全てが耳を刺激して、意識を飛ばすことを許してくれない。


ただ見ていたくない意識とは無関係に命令された瞬きが1つ


目を閉じ、そして十分な瞬きをした視線の先には、断末魔を残し力が抜けていく体。


ただその断末魔が事切れるより前、男性の手からするりと抜け落ちた刀を地面から掬い上げるようにして持ち直した影が、さっきの男性と同じようにふわりと空中に浮かび上がると、さっきは届かなかった首元に閃光が走る。


そこで瞬きがもう1つ。


閃光を伴ったそれはすとんと音もなく振り下ろされ、血しぶき1滴滴ることなく鈍く輝く。


ずうんっと鈍い地響きとともに大きな影が空中から降ってくる。

大きな影のその口元にはゆるく笑みをたたえた鎧姿の男性の姿が1つ。


その顔は苦痛だけの顔から、責務が全て解放された人の表情に変わり、口元が少し持ち上がっているそれはどこか誇らしささえ感じる。


「討ち取った…り」


最後に瞼にかかっていた力が抜け、完全に沈黙してしまった男性と入れ替わるように、その場にいたプレイヤーのパスから一斉に機械音が鳴り響いたかと思うと、空から声が降ってくる。



- クエスト ヲ クリア シマシタ -




『イベント報酬を獲得したプレイヤーが出現しました。ただいまを持ってイベントを終了いたします』


それっきり辺りは静寂に包まれた。


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