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secret GARDEN- Klotho -  作者: 蜜熊
QUEST3: fairytale book (御伽草子:酒呑童子)
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Phase8-2

確かに男性は少しは飲んでくれたとは思う。

確かにあの酒は薬となる霊薬だろうけど、足元はそれでも頼りないものだった。

そんな状態だったはずなのに、今や男性の姿はない。


向かう先は鬼がいるであろう場所。助かるなんて希望的観念は簡単に崩れ去るようなものなのに、無駄に助けて無駄に死なせに行かせてしまったんだろうか。


どうしてかわからずにいると、それまで何にも話さなかった周さんが私の耳元のすぐ近くで「そうか」とつぶやく。


すっと徳利を支えていた手の左側が伸びて、スキルの1つらしきものが目の前にカード化して出される。


それは目の前で自然発火すると消えてなくなる。何かのカードを1枚捨てたとぼんやりとしながらも理解し、それを目で追っていると、左腕が目の前のカードに触れる。



- 星甲 ノ カード  ヲ コード化 シマシタ -



- イベント 内 ニ 星甲 ガ 消滅 シマシタ -



「やはり…」


支えが1つ減って途端に両腕にかかる負担が増えたため、またこぼれようとする姿を見てやっと思い立ったように徳利をパスに収めていると、その視界の端にパスの中に入った兜のカードを見ている姿がある。


それを見ると、その視線に気が付いた周さんが、腰に差していた鞘を一撫でし、その鞘に納められていた刀身を一瞥して溜息をついた。


「周さん?」


その行動が読めなくて思わず声をかけると、周さんはさっきまで使っていた自分の刀をすらりと抜いて『見てください』と私に勧めた。


すらりと抜かれた刀身には赤黒い染みのようなものが中央部分にべっとりとついていて、その中央には大きなひびが入っている。


「おそらく次、大きな攻撃を受け止めたら真っ二つに割れます。防御カードが手に入ったのは幸運でした」


「それと…」


そう言ってまっすぐ私を見る。


それが私がさっきしでかしてしまったことに対する非難の言葉だとすぐにわかり、顔から血の気が引いた。


「あ…」


ワンテンポ遅れて再びやってくる後悔。

しかもこれは私だけのものではなかった。それなのに本来の使い方とは違う使い方をしてしまった。


もしかしたら半分では役に立たないかもしれないなんて思いもしなかった。衝動的に近い行動だった。


「あのっ」


「どうしてわかったんですか?あのNPCが星甲専用のキャラだと」


「え…」


「クエストが始まったときにアラームが鳴りましたよね。酒と同時に必要なアイテム“星甲”。

進めていけばさっきと同じように手に入るものだと予想していたが…どうして?」


「??…え…えっと…」


周さんは怒っているというより私の奇行に驚いているようだった。

いや、奇行だから驚いてもらうのがまともな反応なんだろうけど、驚くのと一緒に、なんというか私を見る目線に感嘆も含まれているような気がする。


もしかしたらそれは私の願望なのかもしれないけど。


「あ…の…ただ…」


「ただ…?」


あんな人も物語の中にはいなかったように思う。少なくとも記憶にはない。


もしかしたらそのあたりは物語としてまとめていく内に割愛されてしまったところだったのかもしれないし、このイベント特有のものだったかもしれない。


どちらにしても私はたまたまそれを目撃し、たまたま放っておけなかっただけだ。

もう少し思慮深く物事を考えられるようであれば、おそらくこんなこともしなかったと思う。


「…少しでも…助けたく…て」


「そう…」


短くそうとだけ答えると、しゃがみ込んでいた私を支えるようにして右手を出す。


それにつかまり立ちあがると、目の前の人物がゆるく、ゆるくだがほほ笑んだような気がした。


「それが偶然だとしても…あなたはすごい人ですね」


「周さん…?」


「いえ…なんでもないです」


はっとして顔を正すと、くるりと背を向けてしまった。

言葉も少なかったし、何がどうすごいのかわからなかったけど、周さんの言葉少ないけど的確な言葉が下手にたくさん言ってもらう褒め言葉よりもずっと私をうれしくさせてくれる。


武器は後1回しか使えない、そう言われているのに、前を向いて歩く周さんのまっすぐとした背中を見ていると、不安よりも頼もしさの方が勝っていく。


その背中を見失わないように坂を上っていくと、むっとする気配が坂の上から漂ってくる。


「行きます」


「…はい」


もう一度、見失わないようにその背中を見つめた。

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