SAVE8
業務日誌
○月#日
図書館業務…は今日が最後だ。
クエストで生計のめども立ちそうだ。図書館は好きだったし本も好きだけど、正直この世界の史実・歴史クエストをしていた方がそれよりもずっと面白い。
その中に知識を問うようなクエストがあって、その報酬がまたいいもんだから笑いが止まらない。
ついにイベントの中身が公開された。
どれも歴史好きにはたまらない国宝の5本だ。
中でも『童子切安綱』は夕弦ちゃんが見ていた御伽草子の中に出てくる鬼だ。
これは運命なのか?ゲームで仲良くなった奴と一緒に参加を申し込こもうかな。
当日が楽しみだ。
Phase8
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「もし、お怪我はございませんか?」
頼光が尋ねると、その女が答えました。
「ああ、旅の方ありがとうございます。私は都の者ですが、ある夜、鬼にさらわれてここまで連れてこられました。
このような情けなき思いをしているのを哀れと思いくださいませ」
女は流れる涙をおさえながら、さらに語りました。
「ここは鬼の岩屋といって、決して人が来るような所ではありません。あなた方は、何故おいでになったのですか? 」
「貴女は、鬼に連れてこられたのですか?」
頼光が尋ねると、女は答えました。
「私以外にも10人ほどが捕らわれています。この前にも中納言様の姫君もさらわれてきました。
鬼どもは、酒と称して血をしぼりとり、肴と称して肉をそぎとり、それを飲んだり、喰ったりしているのです。 その血のついた着物を、私が洗うとは悲しすぎます」
女の話を聞いて、頼光は言いました。
「私たちは、鬼どもを退治し貴女方を都へ連れて帰るためにやって来たのです。鬼のすみかのことを詳しく教えて下さい」
「この谷川をもう少し上って行くと、鬼のすみかがあります。鉄で塀を築き、鉄の門を建てていて、入口には鬼が集まって番をしています。
中には、鉄の御所と名付けられた鉄でできた舘があり、牢の入口には手下どものうち4匹の鬼、四天王が番をしています」
「酒呑童子は、いつも酒を飲んでいます。何とかして忍び込み、酒を飲ませて酔わせ、思う存分に討ち取って下さい」
女性の周りを囲んでいた大勢の小鬼を倒すと、女性はさめざめと泣いていた。
足元には血で真っ赤に染まった着物が多く残っていて、それがさっき言っていた、食べられてしまった人達のものだと思うとやり切れない気持ちになる。
そんな怖い思いをしている女性がまだたくさんいるというのだ。
「わかった」
周さんが肯定の言葉を言うと、女性は泣きながらもぺこりと頭を下げる。
その髪の毛は着物とどうようにぼさぼさになっていたけど、その所作は洗練されたもののように見えた。
- 神便鬼毒 ノ 定数 ガ 上限 ヲ 超エマシタ -
- プレイヤー ガ 鬼ノ御所 ニ 到着 シマシタ -
「!」
「思ったより出遅れているな…」
その言葉は思っていなくても私の胸にずしりと響く。
遅れている原因はわかっている。私が戦力として意味を成していないからだ。
2人組で両方とも同じ程度の実力があったなら、あんな敵もこんなに時間かかることはなかっただろうし、さっきちらりと見えた他のPTのように、適度に切り上げて逃げ出すことも出来ただろう。
ただそれが私達には選択肢としてないせいか、出会ってしまったら相手の戦意が喪失するか、全滅させるか、するまでその場に留まらなくてはいけなくなってしまう。
それは時間との戦いの場合において、とてつもなく不利な状況になる。
「すみません…私がもう少し戦力になれれば」
なれもしないことに対して謝るのは意味のないことだけど、ネガティブな気持ちからどうしても謝りを口にしたくなってしまう。
それが卑屈にとられてしまう可能性はあったけど、口をついて出てしまった本音はひっこみがつかなかった。
その言葉にさっきと同じように少しだけ驚いたように瞬きを何回か繰り返していると、相手の顔がほんの少し不愉快そうに歪められた。
「皆守さんは少し謝り過ぎだ。私はそういう事は一度も口にしていない」
「すみません…」
(ああ…また)
変な言い方をすると謝り慣れてしまっているからなのか、指摘されてもその言葉は繰り返し私の口からこぼれる。
「また」
「はい…」
直接顔を見るのが怖くなってきて、うつむいて髪の端をきゅっと握る。
いやだなと思ってそれが治ることならどんなにいいことだろう。
「…いや…」
私がそんな態度をとったからだろう、そう言って声色が申し訳なさそうになる。
(気を遣わせちゃったよね…どうしよう)
その気持ちの変化を感じ取ることは出来てもそれに対してどうすることも出来ずに、相変わらずうつむいたままでいると、短い言葉がいくつか聞こえる。
「女性にはその…」
「接し方があまりわからなくて…」
顔は見えなくても言葉から相手が戸惑っているのが十分伝わる。きっと表情もすごく困ったような顔をしているのだろう。
しばらく沈黙が続いたけど顔は相変わらずあげられないままでいると、足元に見えていた影がゆっくりと屈んだのが見えた。
「怖がらせてしまったら…すみません」
謝罪の言葉に思わず首を勢いよく振る。
「支援型だと最初からわかっていましたから気にしていません。それより…」
そういって言葉を区切った沈黙に、そろそろと顔をあげると、最初見た印象のまま、そこには静かな湖面のような瞳がまっすぐ私を見ていた。
そこには最初感じた冷たい、感情を落としたような氷のような膜の奥、そこに静かな激情をたたえたものがあることに気づく。
「あなたのスキルはとてもすごいものだと思う。自信を持っていい」
「あ…」
胸がドキドキと鳴っているのがわかる。正親さんや斗真くんに初めて認められた時と同じように、胸の奥に火がともって温かくなっていくのがわかる。
「ありがとう」と言葉にしたくて、それでもやっぱり口をついたのは言い慣れていた「ごめんなさい」の方だったけど、今度は嫌な顔をされなかった。
少し困ったように噛みしめるようにして笑う顔は、この人の控えめな感情表現の中でも肯定的な感情だと読み取ることが出来た。
「また謝る」
仕方ないと言ったように言うその言葉は、そんな私でもいてもいいと言ってくれているようで、その感じた気持ちを何とか表現したくて、歪に笑って見せる。
周さんはそんな私を見て、同じように少しだけ笑みを浮かべてくれたかのようにゆるく目を細めた。




