Phase7-2
こいつからわかるような情報はその程度だ。後は実際に戦っているシーンやシンボルでも見てみないと何とも言えない。
中には自分のシンボルの発現が出来ないままのプレイヤーがいるって噂も聞いたことがある。多分ゆずるもわかっていないんだろう。偉そうなことを言ってるオレ自身だってそれがわかったのはつい最近の話だった。
自分が回復タイプのシンボルだとわかったのは本当に偶然だった。野良で唯一の攻撃の要がやられ危うく全滅しかけた時、初めて聞いたことがないアラームが響いた。
- シンボル ヲ 使用 シマスカ? -
藁にもすがる気持ちで、そのときは何も考えず答えを出した。
その後にまさかあれほど頭の痛みが起こるとは思いもしなかったけど。
それから何度かクエストをこなしていく内に、最初の部屋で言われた言葉を思い出して、その言葉の意味を理解した。
それが自分の“シンボル”、つまり『象徴』であると。
世の理 を 追求 し 分解 する 汝に『再構築』 する 力を
再構築・・・つまり失ったものを文字通り『再構築』(復元)させるのがオレの力。
シンボルについては極端に記載がなかった。当たり前の話だ。誰しも自分の奥の手は公開したくはない。
それが万が一リークでもされたら、誰だって回復役を欲しがったり、強力なシンボルを持つプレイヤーと仲良くなりたくなる。逆にそいつから殺そうとしたりするのもまたしかりだ。
それがどのゲームだって共通事項だし、奥の手は相手に見せないからこそ奥の手と言うことが出来るわけだし。
ただ、タイプとして大まかに『回復』『攻撃』『防御』『回避』の4タイプと、これは自分の意思では発現出来ないが『箱舟』というものがある位のことは書かれていた。
回復、これでオレは自分のシンボルの形をはっきりと自覚した。オレのタイプはこれなんだと。
メガネとゆずるはまだシンボルを見たことがないからわからないけど、『箱舟』という特殊なシンボルではないとは思うけど。
箱舟、その能力は自分の意思では発現出来ないが、一度発現すると他の4つタイプを凌駕する力を持っていると言われている。タイプの細かいものまではわからない。もしかしたら箱舟タイプの中にも攻撃とか回復とかあるのかもしれない。
その『力』は見たことがないし想像の域を出ないが、その発現者はOS(原罪)とSA(犠牲)の値が多く必要で、その2つの値を得るためには文字通り、現実世界で大きな『犠牲』と『罪』が必要らしい。
その2つの値をここの世界では特に重要視しているのか、『犠牲』になることによる補助・回復能力の上昇やら、『罪』に対する『罰』を受けることで、攻撃力が増すといったおまけまでついている。
その負荷は、当然強いもののようで、OSとSAの高い持ち主しか使えず、使用者は、だいたいがイカレた狂人か、自分を捨てた聖人か、そのどちらかになるなんて話がある。
ましてどちらも高いとなるとどんなヤツなのか、想像もしたくない。
(そんなヤツがもしクエストに参加していたら)
あのゆずるならきっと一撃でやられる。
(出来ればゆずる達の動きが見たい…)
しかしビュー切り替えとなるとそれなりの金額がかかるのは覚悟しなくてはいけなくなる。
特に今のところ至急に手に入れなければいけないものはないが、考えればきりがないほど欲しいものはあるし、手出しが出来ずただ見ているだけの観戦料に大量投資できるほど資金面に余裕があるわけでもない。
画面の切り替えをしますか?という選択肢に迷っていると、隣に座っていたヤツからとんとんと太ももを叩く気配。
そちらへ向くとゴーグルをかけていても笑う顔がはっきりとわかる顔が、相変わらずにやにやと笑いながらゴーグルをとんとんと叩いている。
- 國鷹様からビュー共有の申し出がありました。了承しますか? -
(…むかつく)
見透かされている気がするのは面白くもないが、使えるものは使った方がいい。
そう気持ちの折り合いをつけて軽く会釈すると、「はい」と選択する。
オレのさらに隣にいたあいつはすでに切り替えをしているのか、微動だにしてない。
切り替わった画像は川のほとりに女の影が2つ。
内1つがゆずるが着ていたワンピースだったから、おそらくあれがゆずるなんだろう。
もう1人はくたびれてはいたが豪華な着物を纏っていることから、NPCであることがわかる。
その2人の前で盾になるように立つ制服姿の男らしき影と、それを取り巻く腰の背程の影。あれが敵なのだろうが、2人が見つめる視線はどことなく厳しいものに見える。
敵が一斉に間合いを詰めて襲いかかろうとするが、それよりも早く動き出した男が一撃で敵を切り伏せる。
敵は確かに数が多いが、味方側も2人だけという訳ではないようで、少し離れたところに別のPTだろうか、2人組と1人の女性の組み合わせになっているPTがちらほらいる。
(読めた、あのNPCを守るってのが目的か)
小鬼のような敵はバカみたいに直線攻撃ばかりと繰り返し、数でものを言わせた戦い方をしているが、それではあの男には敵わないだろう。
そう思っている内にそいつが持っている刀みたいなもので的確に攻撃をし、みるみる数を減らしている。ゆずるはと見てみると、河原で拾った小石を投げたりして応戦している。
あれでも本人はきっとまじめなんだと思うけど・・・応戦つもりなんだろうか。思わず気が抜けるその行動に、男に何かを言われてはっとしたように左腕を見つめると、今度は何かセリフを言っている。
どうやら音声までは拾わないようだ。
左腕が光ると、男の頭上に戦旗のようなものが浮かび上がる。
それは獅子と乙女のマークをかたどったような模様のもので、それが風になびくかのようにはためくと、男の体が淡く光り出した。
その次の一手はさきほどまでみた男の攻撃とはまるで別物のように、完全に相手が事切れているどころか、その後ろにいた敵すらも同様に剣撃を受けているようで倒れ込んでいた。
その攻撃をした男もびっくりしている様子で、ゆずるの方を振り返っているが、その当の本人もぽかんとしているようだ。
(おいおい…)
隣で大きく噴き出すような声が聞こえてその方を向くと、笑いをこらえきれないかのように大げさに口元を覆いながら、それでも余りある感情を自分の太ももをばしばし叩くことで表現している。
どうやらゆずるの行動がツボに入ったのか、体が小刻みに揺れている。
(何なんだこいつ)
こいつのビューを便乗しているから、こいつが見たいのはゆずるだというのはわかるが、それにしてもこいつみたいなプレイヤーの中でもお世辞なしに上級のこいつが、よりにもよってゆずるを気に掛けるのは不思議な話だ。
確かに経歴からしたらおかしいところはあるし、見た目を好みに思うって可能性もあるだろうけど、こいつがそんな理由で片づけられるとは思えそうにない。
かといって本当の理由なんて思いつきもしない。
ただゆずるの様子をずっと映しているのを見ると、それなりに気にかけているのは当たっているのは確かだけど、それがどっちの意味でなのかはわかりようもない。
そのとき短い舌打ちが聞こえて、向いて方向と反対の方へ顔を向けると、同じようにゴーグルをつけていた口元が不愉快そうに歪んでいる顔が見える。
こっちの画面では特にゆずるがピンチになっているとか襲われているとかそんな画面ではないはずだが、何でこいつは面白くなさそうな顔をしているんだ?
オレの視線に気が付いたのか、ゴーグルを外したあいつの顔には今でも面白くなさそうに皺が寄っている。
そのゴーグルからちらりと見えた画像、そこには黒づくめの影と、周りに大勢倒れているプレイヤーらしき影が見えた気がした。




