表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カイコ  作者:
51/52

我慢


「い、、いくよ?」


「ハイ!」


見た目は完璧、匂いも最高、、


私の記憶では、パウンドケーキは全ての材料を1ポンドづつ入れる、つまり同じ重さになるように、卵の重さに合わせて入れれば無駄がない筈。

カトルカールはフランス語で、同じような意味だった筈だ。

今回はプレーンで、ナッツとかフルーツを入れてないし、イメージ、カトルカールだよね。


だけど、キッチン用の、今回みたいに卵一個みたいな小さい重さを計る道具がなくて、リンちゃんの感覚で測ってもらったから、、、正確かどうかはわからない。



すんすんしてるリンちゃんは、ん?と小首を傾げて私を見守る。


ああ、この期待に満ちた眼差しは、お人形さんにはないわぁ。ほんと、ない、ありえない可愛さ。


いざ、フルーツナイフで入刀、型にそってまわして一周、型をゆするとコトコト動き、上手く型から外れたようだ。

手間だけど、型にバターを塗り、リンちゃんに冷やして貰って、粉をはたいた甲斐があった。

ひっくり返してケーキクーラーに置く。


シロップをうったり、乾燥防止のラップとかは無いので、紙で包み、明日になったら食べれるよとリンちゃんに言う。



「あ、明日?」


「うん。」


「、、、」


どうしちゃったの、なんて聞けない勢いでガックリしてるリンちゃん。

そんなに楽しみにしてくれてたの?


「あの、、ごめんね、、」


「はい、、いえっ、、」


「あ、はしっこ、ちょっとだけ、味見しちゃおうか!?」


「、、えっ」


いま、幻の尻尾がブンブン見えた。

いや、リンちゃんの場合、本物かも知れない。


「わたしも、どんな味だか気になるし!リンちゃんは果汁淹れてよ、休憩にしよう。」



「それはいいですね、私も一休みとしましょう。リン、お湯を沸かして下さい、お茶にしましょう。」


「びっくりした!ピピンさん!ちゃんとノックしてくれなくちゃ」


コクコク、リンちゃんも頷く。


「申し訳ありません、ユーリさま。この上もなく良い香りがしたもので。

リン、なんでお前まで驚いてるんだ?」


「、、危なくないもの、難しいです」


「そんなことでは、、まぁ、よしましょうか。先ずはお茶にしましょう。」


「ピピンさんも一緒にお茶にするなら、テラスかな?」


「ここではいけませんか?」


「椅子が二つしかないから、、」


「お湯、できました」


ほんと便利だなぁ、リンちゃん。


「ありがとう。このポットに淹れて下さい、あぁ、それくらいで」


ピピンさんが持ってきた茶葉は何かの匂いがする。プレーンなケーキにぴったりかもね。


「ピピンさん、これは何のお茶?」


「コリの花で香りをつけたものです。ミルクにも合いますよ。」


どうぞお掛け下さいと言って、自分はリンちゃんを抱き上げて向かいに座る。

ああ、そうか、ちょっと食べにくそうだけど、その手があったね。


ああ、ステキ。

絵になるなぁ。


ピピンさんが淹れてくれたお茶を頂く。


「うわぁ美味しい!ピピンさん、このお茶に入ってる花はどんな花なの?」


「これくらいの、白い花です」


「リンちゃんも知ってるんだ!いつ咲くの?お庭にあるのかな。」


「森に咲きます。夜に」


「そぅなんだ〜、、リンちゃんは森に行ったことあるの?」


気になって、ポットを覗いてみる。うーん、お花っぽいものは見当たらないな。


「花の香りをつけますが、花は入っていませんよ、苦味がでるのです」


ピピンさん、物知りですねぇ。


よし、では、いよいよケーキを頂くことにしましょう。

リンちゃんが静かに頬張ってることから、味は悪くなさそうだ。


私がケーキに手をのばすと、ピピンさんもにっこり笑って、では私もと手を伸ばした。

フォークで切った感触は悪くない。

そっと口に近づけると、バターがプンと匂う。

そして口の中でほろりと崩れ、甘さが広がる。




「ユーリさま、、」


「、、ゴメンね、、なんでもないの」



パウンドケーキは記憶の味と同じで、それが嬉しいのか、なんだかわからないけど、胸がぎゅうっとするような、頭の奥がぼうっとする様な、そんな感覚に涙が止まらない。


「涙は我慢してはいけません。」



そう低くピピンさんが囁いて、リンちゃんを連れてでていった。



誰もいなくなった部屋で、我慢出来なくなった声が洩れる、止まらなくなった私は声をあげて泣いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ