我慢
「い、、いくよ?」
「ハイ!」
見た目は完璧、匂いも最高、、
私の記憶では、パウンドケーキは全ての材料を1ポンドづつ入れる、つまり同じ重さになるように、卵の重さに合わせて入れれば無駄がない筈。
カトルカールはフランス語で、同じような意味だった筈だ。
今回はプレーンで、ナッツとかフルーツを入れてないし、イメージ、カトルカールだよね。
だけど、キッチン用の、今回みたいに卵一個みたいな小さい重さを計る道具がなくて、リンちゃんの感覚で測ってもらったから、、、正確かどうかはわからない。
すんすんしてるリンちゃんは、ん?と小首を傾げて私を見守る。
ああ、この期待に満ちた眼差しは、お人形さんにはないわぁ。ほんと、ない、ありえない可愛さ。
いざ、フルーツナイフで入刀、型にそってまわして一周、型をゆするとコトコト動き、上手く型から外れたようだ。
手間だけど、型にバターを塗り、リンちゃんに冷やして貰って、粉をはたいた甲斐があった。
ひっくり返してケーキクーラーに置く。
シロップをうったり、乾燥防止のラップとかは無いので、紙で包み、明日になったら食べれるよとリンちゃんに言う。
「あ、明日?」
「うん。」
「、、、」
どうしちゃったの、なんて聞けない勢いでガックリしてるリンちゃん。
そんなに楽しみにしてくれてたの?
「あの、、ごめんね、、」
「はい、、いえっ、、」
「あ、はしっこ、ちょっとだけ、味見しちゃおうか!?」
「、、えっ」
いま、幻の尻尾がブンブン見えた。
いや、リンちゃんの場合、本物かも知れない。
「わたしも、どんな味だか気になるし!リンちゃんは果汁淹れてよ、休憩にしよう。」
「それはいいですね、私も一休みとしましょう。リン、お湯を沸かして下さい、お茶にしましょう。」
「びっくりした!ピピンさん!ちゃんとノックしてくれなくちゃ」
コクコク、リンちゃんも頷く。
「申し訳ありません、ユーリさま。この上もなく良い香りがしたもので。
リン、なんでお前まで驚いてるんだ?」
「、、危なくないもの、難しいです」
「そんなことでは、、まぁ、よしましょうか。先ずはお茶にしましょう。」
「ピピンさんも一緒にお茶にするなら、テラスかな?」
「ここではいけませんか?」
「椅子が二つしかないから、、」
「お湯、できました」
ほんと便利だなぁ、リンちゃん。
「ありがとう。このポットに淹れて下さい、あぁ、それくらいで」
ピピンさんが持ってきた茶葉は何かの匂いがする。プレーンなケーキにぴったりかもね。
「ピピンさん、これは何のお茶?」
「コリの花で香りをつけたものです。ミルクにも合いますよ。」
どうぞお掛け下さいと言って、自分はリンちゃんを抱き上げて向かいに座る。
ああ、そうか、ちょっと食べにくそうだけど、その手があったね。
ああ、ステキ。
絵になるなぁ。
ピピンさんが淹れてくれたお茶を頂く。
「うわぁ美味しい!ピピンさん、このお茶に入ってる花はどんな花なの?」
「これくらいの、白い花です」
「リンちゃんも知ってるんだ!いつ咲くの?お庭にあるのかな。」
「森に咲きます。夜に」
「そぅなんだ〜、、リンちゃんは森に行ったことあるの?」
気になって、ポットを覗いてみる。うーん、お花っぽいものは見当たらないな。
「花の香りをつけますが、花は入っていませんよ、苦味がでるのです」
ピピンさん、物知りですねぇ。
よし、では、いよいよケーキを頂くことにしましょう。
リンちゃんが静かに頬張ってることから、味は悪くなさそうだ。
私がケーキに手をのばすと、ピピンさんもにっこり笑って、では私もと手を伸ばした。
フォークで切った感触は悪くない。
そっと口に近づけると、バターがプンと匂う。
そして口の中でほろりと崩れ、甘さが広がる。
「ユーリさま、、」
「、、ゴメンね、、なんでもないの」
パウンドケーキは記憶の味と同じで、それが嬉しいのか、なんだかわからないけど、胸がぎゅうっとするような、頭の奥がぼうっとする様な、そんな感覚に涙が止まらない。
「涙は我慢してはいけません。」
そう低くピピンさんが囁いて、リンちゃんを連れてでていった。
誰もいなくなった部屋で、我慢出来なくなった声が洩れる、止まらなくなった私は声をあげて泣いた。




