将棋の駒
「これ、なんですか?」
「移動陣です」
ふぅん?
「港町の神殿、ギルフォード様のお屋敷、森の精霊の泉、それぞれへ繋がっています」
ピピンさんが三つの丸を指しながら説明してくれる。
「これは、ギルフォード様とグレン様、およびその契約者で魔力をもっている者のみが使えます」
なるほど、私は使えないんだ。
「そしてユーリ様。
本来貴女様もグレン様と契約がなされましたので使える筈でございます」
筈?
つまり予定外に使えないということ?
「ええ。
ユーリ様は魔法の使い方をご存知でいらっしゃいませんから。」
「魔法、、使えないんじゃないんですか?」
「ええ」
うむ?
「われわれは、指の動かし方、口の動かし方、そんな風に魔力の使い方を知っています。しかし、ユーリ様は魔法を知らないので使えない、魔力を知らないので感じることが出来ないのだと思われます。」
ふうん?
「練習すれば出来るようになるんですか?」
簡単なものならば、、と微笑んで魔法の概念を根気よく教えてくれた。
魔力は泉に湧く水の勢いの様なもの、人により大小あるが、私の魔力は最大級。
コンコンと湧き出てるらしい。
魔法を使うには、一定量の魔力が必要、つまり水を湛える泉の大きさで、これも人により大小あるが、魔具などで補える。
私の容量は普通、つまり山を動かし、海を割り、、みたいな魔法は使えません。
通常の人は、その容量に比べて湧く量は少なく、溢れるなんてありえないらしい。
そして肝心の使い方、これは云うならばイメージ力と集中力といったとこだろうか、、
「その様なわけで、先日移動陣で帰るのは危険と判断し、馬で帰ったということなのですよ」
わかってませんね?という顔でピピンさんが微笑む。
なんか、なんか最近、チラチラ黒いモノが見えるんだよね、ピピンさん。
「はい、、、すいません」
「つまりですね。
もし移動陣でユーリ様が、ぼんやりうっかり別のことを考えると、どうなるかわからないので、止めたんですよ?」
ぼんやり、うっかりって、棘を感じます。
え、あ、はい、、、
すいません、、
「わかってますか?」
いえ、あんまり、、というか、サッパリ。
「つまりですね。
ユーリ様は魔力はあるが使えないので、グレン様が一緒にお運びすることになりますが、その時ユーリ様によっては、どこへ跳ばされるかわからないということなのです。」
わ~、、アヴァンチュール。
「つまりですね。
命の危険をともなうのです。わかってませんね?」
ピピンさんが、「つまり好き」だってことが良くわかりました。
OOOOOO
「何をしている?」
「将棋倒し?」
沈黙がおりる。
そりゃそうだろう。
私は今、部屋のテーブルにひろげられた碁盤みたいな枡目の上の駒みたいなのを、狙って倒す訓練中だ。
この駒みたいなのは、魔道具で、私の魔力?というのか、私の実感するところだと意志を汲んで、起き上がったり倒れたりするので、そうやって思考の指向性を訓練するんだそうだ。
だじゃれではない。
だが難しい。
一個一個に文字が書いてあるので、ピピンさんがだした宿題にある綴りの順に頭に浮かべるのだが、全部倒れたり、倒れなかったり、飛び散ったりだ。
また、倒れても、それを一々また立てるのが一苦労。
いや、立てる方がむつかしい。
これが結婚式までに出来ないと、馬車で神殿に行くことになるらしく、結婚式のパレード的な何かを想像するに恥ずかしいので、それは避けたい方向で、だけど、さっぱりうまく行かない。
ピピンさんに云われ、まず試しに一個をテーブルの上に載せて、倒したり起こしたりはなんとか出来るようになった。
私はそれでも自分で動かせたことに大変感動したけれど、ピピンさんの反応は大変そっけないものだった。
それだって、くるくる回ったり、よろよろパタンと倒れたり、なかなか思うようには動かなかったのだ。
そして、これが何個もならんでいて、その内の一つに照準を合わせるとなると、これは難しい。
「かしてみろ」
グレンさんが横に座って、見る間に駒が整列した。
整列もできるのか!
私は一個一個手で並べていたのに!!
すると今度はポテン、ポテン、と駒が倒れて起き上がる。
その動きを目で追うと、しんぱい、と綴られた。
「心配?」
どういう意味だろうかと、グレンさんを見上げた。
グレンさんはすっと目線を碁盤にもどして、するな、と綴る。
心配、するな。
そっと抱き寄せて、髪や背中をさすってくれる。
この優しい腕に、私の胸にからむゴム紐がきゅっとなった。
OOOOOO
魔道具、というのは、案外色々な所にあった。
今私は、館内散策中である。
毎日、自習と確認のテストだけなので、午前中にすべて終わってしまいます。
そしてそれも今日で最後だったのでした。
後10日となった結婚式の準備が忙しいらしく、お庭も調理場もお手伝いはダメと云われているので大変暇なのです。
ここ最近でぎゅっと入ってきた知識の一環に魔道具というモノがある。
あの将棋の仲間だ。
グレンさんの領地では、この魔道具製造業が盛んで、あの港付近の市場では、盛んにやりとりされている様だ。
館内にもいたるところに活用されていて、どうやってあんなところに?系のモノはほとんど魔道具だった。
天井の灯りとか、庭の灯りとか、池の中の灯りとか、、
つまり、この世界の人は多かれ少なかれ、皆魔力を持っているということらしい。
私は面白いので、いろんな所の灯りをつけたり消したりしながら歩いています。
それくらいのターゲットなら、さすがに外しません!
そして、魔具がどれかなんとなく分かるようになったので、魔力も感じれているらしいです。
どうせなら、魔法の杖みたいなのを振りながら歩くと楽しいかも。
というか、魔女の服もあるといいな。
本当は部屋でゆっくりしてればいいんだろうけど、私も落ち着かないんだよね。
将棋の駒も、不器用そうに、でも、なんとか狙った場所が倒れるようにはなったし、パレード的なアレは回避されそうな雰囲気なので、私の気持ちは比較的穏やかだ。
これは、警備上の問題もあるから、色々とみなさんが反対して下さったらしい。ありがとう。
ただ、恒例らしい、神殿の窓からこんにちわ。と、お城での披露宴は決行されるみたいで、それでお城は準備におおわらわなのだ。
今日からはお城に宿泊されるお客様もいらっしゃるらしい。
なんと、ギルフォードさんも独身だったので、このお城で結婚披露宴が開かれるのは、それこそ、お爺様の結婚式以来で、350うん年来の大イベントとなったらしい。
ギルフォードさんの部下達は、グレンさんが生まれたことで結婚のお許しはもらっているから、少子化には至っていないらしい。
他人事だけど、よかったね。
私のダンスの腕前は、まぁ、アレなんだけど、代々蚕の皆様は小柄なので、高いヒールを履くことになり、そんな理由から単純な動きの1曲だけで許してもらえるらしい。
そのダンスはグレンさんも練習しなきゃなので、まだどんなのか知らないけど、簡単だから大丈夫だそうだ。
新郎新婦は他の人と踊らなくてもいいので、まぁ、ダンスの問題はなんとかなりそうだ。
ふぅとため息を一つついて、お庭にでも行こうかなと、きびすを返した。
OOOOOO
着替えて、ダンス教室会場となっているホールに到着すると、多分正装に近いグレンさんが待っていた。
いつものすっきりとした服と違って、いろいろ光り物とか飾り紐がついていて、髪の毛も後ろに流していて、、、正視するには危険なオーラが漂っている。
大人の色気ってこんな?
視力ばっちりの目でそれを確認した、だけど、なんだろ、なんか怖いくらいにガン見されてるんです?
目をそらすのも失礼かもしれない。
だけど、近づくと動悸息切れしちゃう、こんな人と今から手を繋いだり、見つめ合ったり(ただのダンスですけど)なんて、正気の沙汰とは思えない。
足がすくんで動けなくなっている私にグレンさんは情け容赦なく近づいてくる。
め、目をそらして、呼吸をととのえないと、やられちゃうかもしんない、、
肉食動物に睨まれたことはないけど、もしそんなことがあったら、きっとこの時を思い出すに違いありません。
「ユーリ」
屈んで、顔を覗き込まれ、私は白旗を揚げた。
「、、、あの、、ちょっと休憩していいですか」
よろよろ隣の部屋に向かう。
控え室みたいに、ソファなどが小さい部屋にこじんまりとセットされている所で、呼吸を整えようと思った。
それから、手の平に人と書いて、かぼちゃに見えるように暗示をかけて、足踏みして、鈴をならして、胸をたたいて、、、
やることは沢山ある!
ソファに腰掛け、そっと息を吐く。
「はんそくだ、、不意打ちでアレは、倒れるかとおもった」
意識しすぎだ私、ううう、でも、一度意識しちゃうと戻ることは出来ない、この病は不可逆反応、エントロピーは増大するのみ、、
そっとドアが開いて、イザベルさんが入ってきた。
「ユーリ様、お水をお持ちしましたわ。
コルセット、お緩めになられますか?」
あ、なるほど、この息苦しさはコルセットの、、
「あ、ち、違うんです。
ちょっと、あ、、」
違うのはわかっていたので、すぐバレる嘘をつく必要は感じなかった。
イザベルさんは心配そうにかがんで目線を合わせてきた。
「あ、あの、ですね。」
これ云っちゃうか、これはすっごく痛い子と思われるけど、云ったらすこしは楽になるかも。
すこし手招きして、その耳に口を寄せて。
「ぐ、グレンさん、かっこよすぎて、その
、、、、、、、、、、気絶しちゃうかと、おもいました」
自分で云って、それはどうよ、、と思う。
かなり痛い発言だ。
でも、免許取り立ての私がフェラーリをプレゼントされたような、恐れ多さと自分の無力感を感じていた。
イザベルさんは、口に手をあてて、まぁと小さく呟いて、私をぎゅーっと抱きしめてくれた。
笑われてもいいと思っていた反面、イザベルさんは笑ったりしないとも思っていた。
そのまま、よしよしと背中をなでてもらうと、あの生き物と向かい合う勇気が少しだけ湧いてきた。
「すいません。
もう大丈夫だと思います。
忙しいのに待たせたらいけないので。」
優しい腕にそういって、別れを告げて、恥ずかしいからそっと、ありがとうございますと囁いた。
話してくれて嬉しいと、優しく微笑む彼女に鼻のおくがツンとした。
グレンさんは、まだ衣装の微調整があるから、ゆっくりしていいと、気分が落ち着く特製紅茶を淹れてきてくれると微笑んで、勿論チェリータルトも約束して、イザベルさんがでていった。
私もなんだか、一人つまならいことで大騒ぎしてしまった恥ずかしさみたいなのから、少し緊張がほぐれ、ちょっとトイレでも行ってこようと席をたった。
ホールの方にぬけるのは、やっぱり気まずい気がして、隣の控え室にぬけるドアから部屋をでる。
そこかしろが騒がしく、でも、皆いきいきして、しんどそうでも、嫌そうでもない。
いろんな所で話し込み、時々きゃーっと、女性の笑い声も響いてくる。
突然の様に頭に入ってきたそれらの景色。
本当はずっと私の周りは温かく、優しい人たちでいっぱいだったのに。
こっちにきてから、なんだか色んなことを人任せにして、なんていうか、逃げてたなと急に思った。
だから焦る気持ちが空回りして、自分のことじゃないみたいに感じてたんだ。
ちゃんと皆私を見て、話を聞いてくれていたのに、何でちゃんと向き合ってこなかったんだろう。
なんで解ってもらえると思わなかったんだろう。
どうして、私はこの世界で独りきりだと思ってたんだろう。
自分で伝えなきゃ、伝わるわけ、ないのに。




