小石
人の腕の中にいた。
ぎゅっと抱きしめて、それから顔を覗き込んでくる。
「ユーリ」
聞きたくてしょうが無かった声がした。
混乱して言葉がでてこない、嗚咽に詰まる私をグレンさんの手があやしてくれる。
「ひっっ、、、ぐ、、、、うっく、、、ぐれんっさ?」
もっとちゃんと見たいのに、涙でこみあげる嗚咽が邪魔をする。
私はどうしてもグレンさんの元に帰りたいと思っていた。
私が拐かされ、保護機構がそれを助けたとなると、グレンさんの保護者としての立場があぶない気がしたからだ。
「ちゃ、、ん、とっ、、かえろっ、、とおもた、、、です」
でも、まだ嗚咽がとまらないので、まともに話もできない。
情けない、姿にひきずられて、気持ちまで少女になっちゃったんだろうか。
OOOOOO
あの後、泣き疲れたのと、安堵感からすこーんと眠ってしまっていた。
事後処理、が終わったというグレンさんが部屋に来たのはもう日が落ちていて、人の気配に起きた私に、何か食べた方がいいと云った。
私は取りあえず、お風呂に入って着替えたいけど、一人でドレスが脱げないので手助けが欲しいと云った。
このやたらとボタンと紐の多い服は、一人での着替えを前提とされていないのだ。
彼は、わかったと短く答えて私をひっくり返した。
「ぐ、グレンさんっ?」
「少し待て」
「グレンさんが手伝うっていう意味じゃなくて、、だれか女性の方は」
「急なことで、手があかないだろう」
「、、あ、じゃあ、、もう少し待ちます、ので、、」
「動くな」
紐がひっぱられている気配に焦る。
「ちょっ、ま、待ってくださいっ」
「何か問題があるのか」
「え、だって、嫁入り前の、娘です、、、よ?」
もう既にしょっぱなから全裸見られちゃってるらしいけど、意識が無いのはノーカウントだ!
「承知している」
「脱いだら裸になりますよね?」
「他の男では問題があるな」
「、、そうです、よね」
あれ?
ドレスの下着は胸を寄せたり上げたりと、ちょっぴりセクシーなので、恥ずかしい。
「じゃ、じゃあ、お風呂、お先です、、」
「こらまて」
「こここ、これ以上はっ」
「それが一番手強そうだ」
はっとしてコルセットをみると、確かにお腹の辺りに紐やなんかなく、つるんとしてる。
全て後ろでどうにかなっている様だ、、が。
「た、たぶん、袖がとおってるわけじゃないんで、ずらして回せば、なんとか自分でっ」
「そうか」
「はっ、ハイ」
待てと云って、グレンさんが服を脱ぐ。
そのセクシーな動作にあわてて目をそらすとバサリと何かを被せられた。
そのままぐいぐいと頭がでるところまで下げてくれて、あっ、と声がでる。
「あ、ありがとうございますっ」
最初に着せてもらっていたワンピース、、じゃない、グレンさんの肌着だ。
確かに風呂上がりにも、何も被るものがないのは困るから、すっごく助かる。
ほんと気がきくなぁ。
ほにゃっとなって、お礼を云って、ついまともに目をむけてしまった裸体はすごく綺麗で、色気がとぐろをまいて鎌首をあげたような、ああ、自分でも何がなんだかわからなくなってきた。
なんとかワンピースを着れたことで、ぎくしゃくと立ち上がり、ドレスをハンガーにかけにいく。
それから、トイレで、お腹をひっこめたり、鏡に写したりしながら、なんとか後ろ前に回そうとするも、ただのチューブトップだというのに、回らない!
おかしいなぁと、確認していくと、胸の辺りがなんかおかしい。
ワイヤー?
ではない、すごく固いものが、がちっと周りを固めている。
おかしいな、別に痛かったり動きにくかったりしないのに、ずらせないなんて、、
「すいません、、やっぱりお願いします、、」
紅い顔をして、よろよろ歩いて行くと、神々しい半裸エロ星人が満足げに微笑みを返した。
「見せてみろ」
すいませんといいながら、折角着たワンピース(肌着だけど)を脱いで、背中を見せて座る、と、ぐいっと引き寄せられて、あぐらをかいたグレンさんの上にうつぶせにされた。
部屋、薄暗いから見えにくかったのかな、、でも、ネコじゃないんだから!
グレンさんの指がスルスルとコルセットの上の方を滑る。
「、、ここに魔具が使ってあるな」
加減がわからないから、痛くないかと聞かれるけれど、そんなことより、あなたの足に胸をおしつけてるこの体勢の方が気になってます。
指を差し込んで引っ張ったりしてるので、順調に何かが伸びている様子。
時々素肌に触れる、硬い指や熱を帯びた手に、落ち着かなくて黙ってられない。
「どですか?」
聞いてみると、「ああ」と返事があったので身体を起こす。
きつかったわけでもないけど、コルセットと身体に隙間を感じて開放感にほっとする。
「ありがとうございます」とワンピース(グレンさんの肌着ともいう)を被って、いざお風呂!
の前に、トイレ。
トイレで試しにコルセットを引っ張るとスルスル下がって脱げた。
魔具、、恐るべし!ってか、こんなところに使うなよ!
私が見ても、一体どこが魔具なのかわからないけど、、、ボタンがあるわけでもないし、呪文を唱えたりしないのね。
気持ちを落ちつけて、トイレからでると、グレンさんはもういなかった。まぁ、忙しい人だし。
鼻歌まじりに浴室へ入ると、蒸気があって、既に湯は張ってあるようだ。
ささっと服を脱いで髪をほどく
いざ、、、、、ん?
!!!!!
「っぐ」
湯船の端にぐでーんと凭れ、気持ちよさそーに目をとじているのは、未来の旦那様ではありませんか?
先に入るんなら、そうと云ってくれればいいのに、、
それとも云ってたのに、私の頭に血が上ってて聞いてなかったのだろうか
すごすごと浴室をでようとすると、声がかかった。
「どうした」
こっちのセリフって、こういう時につかう言葉だよ、、
「えっと、、出直しマス、、」
よろよろともどり、浴室のドアから顔だけだして返事をする。
グレンさんが湯船から上がってきた。
「わっ、いいですっ、いいです。
ゆっくりしてて下さいっ」
前とか!前とか!前を!隠さないんですか~
迫力の裸体をちら見してしまい、横をむいて返事をする。
なんか、服着てないだけで、別の人みたいだ。
水も滴るとは良くいったもんだ!
「ほら」
抱きかかえられて浴室へ逆戻りして、ざばーんとお湯をかけられる。
ももももしかして、私を洗っちゃう気ですか?
裸なんですよ!一糸まとわぬとは、いや、これ、まさに!!
慌てて身体を丸め
「いいですっ、はっ、恥ずかしいから、見ないで下さい!」
云えた!!
なんかわからないが、この良くない流れを変える一石を投じることができた!
だが!
結果でいうなら、その一石は、流れに飲み込まれ、あっという間に川底に沈んだ。
そして今川底を転がっている。
いや、転がることもなくじっとしている。
「ほら、これならどうだ?」
と目をつぶった旦那様(未来)に、かるくあしらわれて。
頭はいい。
もともと、美容室でも男の人が洗ってくれることもあったし。
でも、あぐらの上に座るこの姿勢はダメだ!
おしりにナニかがコンニチワしてるっ
そして私は今、、手で全身を洗われている。
くるくる見渡したが、タオルっぽいものも無い。
「うぅ、、そんなにっ、、、、ふっ、、、て。」
「て?」
「て、丁寧じゃなくて、、ひゃっん、、いいっ、、、です、、」
「、、いいのか?」
「ちがっ、、うぅん、、もう、、っん、いです、、綺麗に、、なり、、、ふっ、、きゃう、、まし、たっ」
「そうか」
じゃばーんっお湯をかけてもらって終了、ああ、命の洗濯って、、、すり減るんだ、知らなかった。
「み、、見ないで下さい」
「綺麗になったと、、」
「っっ!」
涙がにじむ目できっと睨み付け、そそくさと膝を降り、湯船につかる。
「ユーリは見ていいのか?」
湯船に顎と肘を乗せて、グレンさんが身体を洗うのを見物していた私は思わぬ指摘にしゃきんとした。
「はっ、ハイ、、しつれーしましたっ」
「いや、見ていい」
見ていいって云われると、さすがに、なんか恥ずかしいな。
グレンさん50代って云ってたけど、いい身体してるなぁ。
ちらちらと頭を洗っているのを見ているうちに、ふと口をついた。
「あ、あの、、、あのっ、お背中、流しましょうか?」
背中流すんだったら、グレンさんからは見えないんだし。
「いいのか?
頼む。」
あ、なんか(たぶん)嬉しそうだ。
夫婦ってまだまだ実感ないけど(いやまだ夫婦じゃないけど)、こういう感じなのかな。
「はいっ」
てくてく立って歩いて見渡すけど、やっぱりタオルとかスポンジっぽい物が無い、、
何しろここは宿屋の浴場で、グレン城じゃないんだもの、贅沢ゆってはいけない。
いや!!
グレン城でも、贅沢いってはいけない。
「タオルとか、やっぱり無いみたいで、私も手で良いですか?」
「ああ」
よしっと、手に石けんをつけて、勢いずく、これは、グレンさんに「何かしてあげる」初めての一歩じゃないんだろうか?
じんわり嬉しさが込み上げてくる。
「まいりまーす」
まず首、、やっぱり太いなぁ、、首くらいは前まで洗ってあげよう。
そっと後ろから手をまわして、こしこしこする。
こそばいのか、グレンさんはぴくんとなった。
それから肩、、
「なんか、、いっぱい、怪我がありますね、、、痛かったらゆって下さいね。」
私はどの傷がどういう傷なのかさっぱりわからないけれど、跡が残っているということは、それなりに大きな傷だったんだろう。
、、、、私、グレンさんのこと、何も知らない。
急にそんなことが気になって、しっかりやらなきゃと頭を振る。
「どーですか?
強くないですか?」
気合いいれてごしごしやってるけど、もっと優しくした方がいいんだろうか?
「いや、、、いい」
そーですかーと返事して、でもグレンさんは優しいから、あんまり上手じゃなくても文句云わないんだろうなとか、少し寂しく思う。
両方の腕を洗って、終了。
立ってもらったらお尻とかは洗えるけど、そんな恥ずかしいことされたくないよね。
「え、、っと」
終了!ってゆっちゃうのも、アレだなぁ。
「他、、、洗ってもいいところ、ありますか?」
「、、いいのか」
それって、前って意味かなぁ、、小っ恥ずかしいけど、この調子なら出来ないことはない。
「あ、、の、、目、つむっててくれたら、、い、です」
そうか、と微笑う気配がして、これでいいかとぎゅーっと目を瞑ってみせてくれた。
「ハイっ!
それとっ、、あのっ、、、、」
教えてくださいっていうべきなんだろうけど、云えない。
それは、なんだか、恥ずかしすぎる!
「とっと、と、取りあえず、わかるところから、失礼しますっ」
本当はアノアタリにタオルでもかけて置きたいところだろうけど、恥ずかしいのはお互い様です。我慢して下さい!
結構念入りに頑張ったけど、何の指示もないまま、やはり、アノアタリの番になった。仕方ない、恥ずかしいけど、やっぱり聞いてみよう。
「えっと、、どうすれば」
「同じでいい」
お、怒ってるのかな、、、実際アレとソレ達は私からみるとグロテスクなモノだけど、彼にとっちゃ身体の一部だもんね。
お、女は度胸!
えいっ
まずこっちへ突き出た方にとっかかった。
石けんをつけた手でにゅるにゅる擦る。
これは意外にシンプルなつくりだし、大丈夫そうだ。
でも先っぽもこんなんでいいんだろうか?
いやでも、同じでいいって云ったし、何度も聞いたらしつれーだよね。
「、、っ」
今、なんか声が漏れた気がする。
痛かったのかな?
急所、なんだよね、この辺。
ちがったっけ?
「い、、、たかった、ですか、、?」
ちょっとくぐもった声で大丈夫だと返事がある。
我慢してるのかも知れない、けど、早く終わらせるにはやってしまうしかない。
奥のオフクロ達にも手をのばして、ふにふに洗う。
こっちは柔らかいな、、やっぱり力加減がよくわからない、、
これは良く見えないので、洗い残しが無い様、手探りで丁寧に洗った!
「しゅ、終了ですっ」
いかがでしたでしょう?と顔を上げると、グレンさんと目が合った。
「ありがとう」
と大きな手がうっとりと頬をさする。
なんだか上手くできたみたいだ。
達成感に頬が染まる。
さて、石けんを流そうとお湯を汲みに柄杓を手に立ち上がり。
め、、目?、、くるっと振り返り、確認する。
「いまっ!目、開けてましたねっ!!」
しまった、って顔、もう、遅いですよ!
「もうっ、しりませんっっ。これでおしまいですっ」
浴室を飛び出した。
その後、恥ずかしさにのたうちまわり、水を飲んだりストレッチしたり、ひとしきりベッドの上を転げ回り、色々に疲れてウトウトした頃、グレンさんが上がってきた。
グレンさんも、お風呂大好きなんだなぁ。
先ほどの湯船で伸びていた様子を思い出し、微笑ましい気持ちになる。
「ユーリ。」
ぎゅっと後ろから抱きしめられると、本当に無事に会えて良かったと、鼻の奥がじんとした。
「何があった?」
え?
今、しみじみ良いとこなのに、それですか?
「話すと長いんですけど」
「かまわない」
「イザベルさんの猛特訓の後、宝石屋さんが来てるか様子を見てくると云って出ていったので、ちょっと一休みのつもりで、ソファに横になったんです。そしたら3人組の男の人が入ってきて、いきなり押さえつけられて、薬を嗅がされました。」
グレンさんに黙って促されたので、続ける。
「次に気がついたら箱の中で、ごとごといってて、でも気持ち悪くて声もでませんでした」
「最後に気がついたのが、宿屋さんの3階で、、、ピピンさんが悪いんだと機構のハゲ、、気味の人が云って。でも、私、その人の云うことがなんだか信用できなくて。
だって、封具の首輪をつけられて、鎖でベッドに繋がれたんですよ?」
人生初の鎖に繋がれ事件は、思い出しても腹が立つ!
グレンさんも励ますつもりか、ぎゅっと腕に力をこめてくれた。
そうそう!ここは冷静に状況を説明しないと、、
「それがピアスでの探索を防ぐものだと云って、せめてお城に連絡して下さいって云ってもダメの一点張りで。
なんかやっぱりおかしいし。
それで、、もしかしたらって考えたんです。
私が攫われて、、、機構の人に保護されたってなると、グレンさんが保護者でいられなくなるんじゃないかって、、
もうグレンさんに会えなくなるんじゃないかっ、、、って、、」
思い出して、胸がつまる。
グレンさんがそっと頭を撫でてくれる。
頬も、唇も。
それで勇気をもらって、ちょっと振り返り、グレンさんの顔を見上げる。
表情は豊かじゃなくて、怖い顔だけど、やっぱりグレンさんを見てるとほっとするな。
「それで、窓から下をみると、二階の雨よけが見えて、それくらいだったら鎖をつたって降りれると思ったんです。
この体は軽いですし。
手を怪我しないように布をまいて、靴はなかったから、ちょうど滑らなくていいやと思って。
二階の雨よけまではうまく云ったんですけど、鎖がなかなか頑丈で、切れなくて、窓枠にこすりつけてギーコギーコやってる時に、ピーター、、さんが通りかかって」
馬鹿ってゆってたな
「でも、助けを呼ぶんじゃなくて、機構の人か誰かから連絡があって来たみたいなことをゆってました。」
「連絡、、」
「上玉だというから見に来たけど、馬鹿だって、簡単に切れると思ったんです。細い金属の鎖だったから」
黙りこんだグレンさんに、ピーターに攫われた後を報告した。
「怖いものを見せられたけど、怪我も治ったし、今はなんともないです。ありがとうございます。」
「怪我?」
「壁を下りるときに、首輪がこすれて、ひりひりじんじんしてたんですけど、治ってるから、、」
あれ、グレンさんが治してくれたんじゃないの?
「、、、やつは、何をした?」
なんか、気温が下がった気がする。
「えっと、、ピーター、さんというか、犬が寄って来て、ペロペロっと、」
私を抱く腕に力がこもり、首に柔らかい物がおしつけられた。
少し伸びた髭がくすぐったい。
そのまま首筋を舌が這う。
「、、、はっ、、、、ひゃんっ、、、ちょ、、と、くすぐったいですっ、、グレンさんっ」
手で首あたりを押し返して、抵抗を示してもやめてくれない。
「あっ、、、やっ、、、ぐ、、ぐれんっっ、、、さんっ、、」
す、、、吸ってる?
さっきピーター犬に舐められた時とは違う感覚が、はっきりと下腹部にあって、身体が熱い。
首から上がってきたグレンさんの顔、目があうと、いつもと少し違うような怖い顔。
目をそらしたい様な、もっと見つめていたい様な、真剣で、怒ったみたいな顔。
胸の中、もやもやした物がすっと消えて、穏やかな、満足と、嬉しさが込み上げてきて。
好き
その言葉は、胸の中にすとんと落ちて、まるでずっとそこにいたように、馴染んでしまった。




