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カイコ  作者:
13/52

首輪と鎖

息子の嫁(仮)が攫われた。


その第一報は、息子の婚約を聞いたときよりも、ずっとすんなり頭に入った。




息子は現存する最高の蚕姫から生まれた。

高い魔力と身分、私から引き継がれた優れた容姿。

武芸にも秀で、頭脳明晰、、の色々残念な男だ。





そして、その残念な男からの次の言葉は、全く持って頭が理解を拒否した。

息子が頭を下げたのだ、その娘、嫁(仮)を捜す協力を求めて。


息子が移動陣に去った後、ありえないこの事態に、私は執事のパーシバルを振り返る。


「聞いたか?」


「、、、はい」


「あいつ!、、本物だったか?」


「、、、、、はい」


「私をだまして、どこかでのぞき見して嗤っているのではあるまいな?」


貴方様では無いんですから、、と執事が呟く。


「ぼっちゃまは、その様ないたずらなどされません。

もしなされましたら、そちらの方が一大事です。」


そう執事に云われるほど、昔と変わらぬ仏頂面の可愛げのない息子は、知らないところで、確実に変わっているのだ。

その息子の成長に、嬉しいような、少し寂しいような気がするのは、親の我が儘というものだろう。






OOOOOO






私は現在12公家の一を務め、我が国の機構も私の管轄下にある。

機構については、最近「糸」の横流しや、横領等の告発があり、内偵中だった。

蚕姫の体液から造られる魔具の中でも、最も用途が広く需要があるのは糸だ。



わたしはネーラの身請けを断られた腹いせではないが、機構に良い印象をもっていなかったので、これらの報告には熱心に目を通していた。

そこに私の愛する息子の乳兄弟、ピピンが機構で研修を受けていたりだとか、ネーラに面会した報告もあった。

ネーラに関する動向は勿論漏らす筈も無い。

私が愛だと思うこの執着は息子には受け継がれていないと思っていたが。


そこに妙な報告があったのだ。

ネーラがグレンの婚姻に祝いの品を贈る為、ピピンが宝石商と共に機構を出立したという。


ネーラがグレンに贈り物?

幼い息子の手紙にも、代筆させた簡単な返事しか送ってこなかった彼女が?




「それでピピンはどこにおるのだ?」


「それが、おかしいのです。確かに宝石商に同行して機構を出発されましたが、乗船名簿にピピン様の名前がありません。

それと、、」


ピピンは移動陣で帰ることも出来る。

だが、ネーラから頼まれた贈り物を放り出すようなことをするだろうか?



「それに、ピピン様が出立された、その夕刻に、ネーラ様へ荷物が届いております。」


「ほう」



いやな沈黙がおりた。






OOOOOO







「今、お前の城下にいる機構はあのハゲダルマだ。

確か会ったことがあるはずだな?

あいつは臭くて内偵中だ、お前は囮でここにいろ。

そうだな、母へ祝いの礼でも書いていろ。

それからピピンを迎えに行ってやれ。」


頼むと小さく云って頭を下げる息子をみやる心中は、本当に複雑だ。

もし悪い女にだまされているならば、父親として黙ってはおれん。


私は港町の神殿近くの泉へと移動陣を発動させた。






内定中の者達と合流して報告を聞く。

ハゲダルマはグレンの城下にある港町で、港に近い宿に泊まっているという。

私はこの港から「糸」の横流しが行われているのではないかと睨んでいた。

水の精霊に祝福されたこの町は魔具の取引が盛んで、機構の出張所も立は派な物である。



「何部屋とっている?」


「貸し切っています」


そりゃあ、豪勢なことだと笑いが漏れた。

他の客を入れないというのは、用心深いを通り越して滑稽だろう。


「娘が宿にいる証拠を掴むまで包囲して待つ。なくとも明日昼には踏み込む。」


短く告げて、踵を返す。

息子よ、父は頑張っているぞ。






OOOOOO






「封具が動きました」


深夜、見張から連絡が入る。

機構から宿屋へ封具が運ばれた。


「届け出は?」


「ありません」


これで、口実ができた。


「他には?」


「荷馬車が3台入りました」


「出たものは?」


「ありません」







OOOOOO







建物がみえるあたりを歩くことにした。


潮風が気持ちよい。


宿の後ろは堤防でぶらぶら歩くにはちょうど良い、朝とはいえ日差しが強いせいか、人気がなく静かだ。


いや、静かだった。


キィイイ


見上げた先で、潮風で錆びたのか、軋みながら窓が開く。


シャランッッ、、、シャラ、、


何か窓から降りてくる、、あれは、金色の、鎖?


鎖が止まると黒い長い、編んだ髪がぶらんと垂れた。

そうっと顔をだし、鎖の長さを確かめている様だ。


次ににゅっと裸足の白い脚が突き出てきた。

風にドレスがはためいた、細い腰、黒く長い髪、金の首輪、、ネーラ?


白い石でできた壁の隙間につま先をさしこみ、痛いのか熱いのか時々びくりと震える。

動くたびに鎖が光を放ち、シャランと音をたてる。


身じろぎせずに見つめている先で、少女は布をまいた手で鎖を慎重につたって壁をおり、二階の雨よけに到着した。




振り返った顔はまだ幼く、目を零れそうに見開いていた。



どうやら下にいる見張りに見つかったようだ。


、、、見つかって当然だが。



それに気づいた部下が走りだした


瞬間



窓から見張りだろう女が顔をだして叫び、下から何かが飛び、彼女は落ち


彼女を抱えた男が消えた。





OOOOOO








「ネーラ」


「ウィリアム様!」


「、、、、、、、困った人だ。」


「ウィリアム様、、」


「どうして、あんなことをしたの?」


しがみついてきた娘を強く抱き寄せて、ささやく。


「お会いしたかった」


娘は震える声で、ただそう云って震えた。


「いけない女性だね。」


娘はふるふると頭をふった、絞り出すような声で云う。


「連れて行って下さい」


「それは出来ないんだ。公家のバランスが壊れると、評議会からも反対された。」


それでも娘はいやいやと頭をふる。


「もう会うことは出来ない。だから代わりにグレンが会いに行くと云っただろう?」


いらない、、、と娘は更に呟いた。






ウィリアム、と、父の名を呼びながら、自分に縋り付く母。

ユーリと似た、でも明らかに違う香り。


母は父に会いたかったのだ、自分がいなければ父の側にいられたと、そう云って泣いた。

縋り付く相手が父ではなく息子であることに気がつかないほど、長い時間が経っていた。


ピピンは簡単にみつかった。

母は、ピピンを解放するのをただぼんやりと見ていた。






「宜しかったのですか」


母はもう50年も子を成しておらず、うまく行けば父が身請けできる筈だった。

あの男はそれを母に教えず、更に母と同じ蚕であるユーリと私の結婚を語り、母の気持ちを追い詰めた。


「ああ」


短い返事にピピンは何も云わなかった。

母を恋い焦がれた気持ちは、知らぬ間に、自分の中でとうに終わっていた。


ユーリ。お前に会いたい。

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