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カイコ  作者:
12/52

受難 ピピン視点

グレン様がユーリ様を。


それを知った時、嬉しさと苦い気持ちがあったことは否めない。


グレン様は、自分から母上を奪った保護機構を、嫌悪してらっしゃったから。

自分は蚕姫を借り受けることは無いとおっしゃっていた。



形骸化したその風習。

魔力に優れた子を成す蚕。


だが、我々の期待と興奮とは裏腹に、彼女達は静かだ。

浮かれもせず、泣きもせず、ただ彼女達の上を滑り落ちていく物事を見、ただじっとやり過ごす。


グレン様は許された面会の度、母上に話しかけ、悲しみをもって戻られた。

付き添う私からみても、美しく儚げなその女性は、グレン様を見ていなかった。

優しく微笑み、優しく頷くのだけれど、つよく抱きしめることも、別れたくないと泣くことも無い。


グレン様は10の時に、面会を止め、手紙も出さないとおっしゃった。

ギルフォード様は了承し、ただ済まないと、そして他に妻を娶られなかった。


思い出しても鮮やかな、金の首輪と黒い髪。





OOOOOO







「研修は以上です。」


機構へ来て一月ばかり、やっと重苦しいこの建物から出られると、開放感は否めない。

修了証を得て、晴れて主の婚姻の立ち会い人となる為、城に帰る。


ここへは、約40年ぶりだったか、もう二度と来たくないものだ。



「あの、失礼します。」


感慨深く部屋で荷物の片付けを行っていると、部屋を担当してくれていた小間使いの少年がやってきた。


「何かな?」


「これを、、ネーラ様より預かりました」


ネーラ様


「ありがとう」


そういって、世話になったと小遣いを渡し、手紙を受け取る。

そこには、もうしばらく会えないのだから、せめて息子の様子を教えて欲しいと、短くしたためられていた。


一つ息をついて、考える。

私はそれなりの身分と魔力を持つ成人男性であるが、主持ちなので蚕に魅せられることは無い、だから今回の任務も適任とされたのだ。

よって面会には問題はないが、気が重い。


婚姻の報告もかねて、行くべきだろうと、ここでの最後の仕事だと、自らを叱咤して身なりを整えた。








「大きくなったのね」


あなたは、かわらない。


「グレンはどう?あなたより、少し小さいのかしら?」


金の首輪をつけた黒髪の乙女。

幼い記憶と変わらずに、穏やかに微笑んでいる。


魔力の高さ故になかなか孕まず、グレン様より他に御子はいらっしゃらないという。

金額も高い蚕姫を、孕みにくいのを承知で借り受ける者も、そう無いということだ。


ギルフォード様は身請けを申し出たが、機構最高の魔力をもつ彼女を手放す筈が無かった。


「グレン様は18のあたりで成人されましたが、私より身体は大きくあられます。」


そういえばそうだったと思い出しならが云う。図体も大きく、老け顔なのだ、主は。


「そう、、」


儚げに呟いて、、沈黙が降りる。




やはり用件だけ済まして、とっとと帰ろうと切り出した。


「グレン様におかれましては、この夏、婚姻されることが決まりました」


返答はない。

既に聞いているのだろう。


「花嫁となられるユーリ様は22歳、立ち会いは私がつとめさせて頂く所存にございます」


やはり言葉は無い。


物思いにふけられたネーラ様をおいて、別れの口上を述べ、そっと席をたった。







OOOOOO







ユーリ様を初めてみた日の感情が去来する。

長い黒髪に不安げな黒い瞳。


グレン様の心の傷をえぐるのでは無いかと懸念したその色彩。


グレン様はやはり、彼女を保護するとおっしゃった。

私も機構へやるのはあまりにも忍びないと思った。


更に彼女は異界の記憶持ちだという。

まったく常識が欠けていて、だが会話と簡単な文字は解した。


そんな彼女に私たちは、更に機構へやるのは危険だと判断し、彼女の存在を隠し、気持ちが落ち着くのを待った。


私は、家庭教師をひきうけ、何度も彼女に質問をしては、嘘がないことを確かめた。

機構その他の回し者かも知れないと、それを懸念したからだ。


そして、彼女に嘘が無い、少なくとも私に見破れる嘘は無いことを確認しおえた頃、あの水柱事件があった。

どれだけの力を秘めているかわからない彼女に、更に精霊の加護が示され、蚕であることが示された。


現場に駆けつけた主と共に、原因究明と警備の確認に追われたその夜更け、確信を得たような顔の主は爆弾発言。


なんとユーリ様に求婚されたが、動揺して即答できなかったという。


執務室に他に人がいなくて良かった。

いろんな意味で残念な主だが、それにひけをとらないだろう自分の馬鹿面はさすがに人様にお見せできない。


どこのガキがほざいているのかという青臭い主の様子に、全力でイラツキを隠して慎重に問いただすと、どうやらあの巨大水柱はユーリ様の仕業だと思われるという。


再度確認するから朝、立ち会って欲しいと云われ、早朝にもドカンと一発かまされた。

そして、どうやら求婚成立したらしい。


その後の立ち会いの場では、欲望を正直に認めたのか、あらぬ痴態を見せつけられた。


羞恥にそまったユーリ様のお顔、涙無くして語れない。

あれは、視覚的に犯罪だ。


主が鬼畜なのではなく、すこし感情の機微に疎いのだと説明差し上げたかった、、、が、今様何もいわない方がいいだろう。




だが昼には正式に婚約を発表され、夜にはピアスまで着け終わるという決断と行動の早さに、主への敬愛を深めたのはいうまでも無い。


ピアスの色は、黒も緑も目を奪われる程美しく輝いている。

ユーリ様も口ではああ仰っていたが、双方の強い合意は誰がみても明らかなのだから。







OOOOOO







姫達の館から部屋にもどり、ようやく城に帰れるとほっとした。


城門へ歩いて行くと、もう又かと嫌な顔がこちらを向いている。


「やぁ!こんな所でお会いするとは!

お疲れ様でございましたな。」


先日城へ来た機構の男だ、短く挨拶して早々に立ち去ろうとする。


すると更にねちこい声が私を呼び止め、グレン様へネーラ様から婚姻の贈り物があるから、届けて欲しいという。



うっとおしい。

近くにいるだけで、気温が上がるような気がする。



「ネーラ様には、先程ご挨拶に伺いましたが」


そんなことは何もおっしゃってられなかった。


「うっかり忘れてられたと!

ご子息の婚姻で、舞い上がってらっしゃるのでしょう」


舞い上がる?

彼女に最も不釣り合いな言葉だ。


だがこの男と話していても仕方がない。

第一不愉快でしょうがない。


城門で機構出入りの宝石商が待っているので、一緒に城まで連れて行って欲しいという。


物を確認すると、ネーラ様の封印と魔力を感じる。

舞い上がってでは無いだろうが、本当に忘れていた様だ。


移動陣で一気に帰ろうと思っていたが、私に魔力が使えることは報告していなかったので、しぶしぶ同行を引き受けた。

主宛の正式な祝いの品であるならば、預かるわけにもいかない。


どこかの宿で一度先に戻って報告し、迎えの者をやろう。



荷車が2台あるというので、私の荷物も便乗させて、馬車に乗り込む。


港町まで半日、これから始まる苦痛な馬車旅に滅入る気持ちを奮い立たせた。





宝石商はうちの城に来るのは初めてだという。

だから一緒に連れて行って欲しいと云うのだろう。

今一番賑わう城下で、少しでも商いを広げたいのだろう。


最近ネーラ様がご贔屓の商人らしい。

彼女が宝石に興味を持っているとは驚いた。

勿論彼女は宝石を買うなど造作もない程資産があるだろうが、そうではなく、彼女が何かに強く惹かれたり、興味を示す様を想像できないのだ。


女性にとって、花と宝石はやはり別なのか。







OOOOOO






そうして、夕刻。

出発が遅れたせいで、もう日は落ちていた。

商人は急ぐので森を抜けていくといい、谷間にさしかかった途端襲撃を受けた。



「何事だ!」


何事かは十分にわかっているが、取りあえずそう叫び、馬車から身を乗り出す。


襲撃者は10人足らずで、護衛と戦闘になっている。

魔術師はいない様だ、追い剝ぎか。

荷物を置いて逃げるのが楽だが、グレン様への祝いの品だ、追い剝ぎにくれてやるのは勿体ない。


振り返ると商人は荷物をごそごぞ漁っている。

馬がやられては厄介だ、助太刀して来よう。


「ここにいて下さい、私は様子を見てきます」


声をかけると、怯えた様子で待ってくれという。


「ここ、、これを!

ネーラ様よりの贈り物にございます。

これだけは!」


先程の箱を抱えて差し出してくる。怯えているように見えたが、見上げた精神だ。

相当な上得意なのか。


「預かろう」


手を差し出した瞬間、身体に衝撃が走る。

箱を抱えた男が、嗤っている顔が見えた。


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