表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

3.帰り道

 都の人たちは竜の山から、少年が無事戻ったのを見て驚きました。

 竜を追い払ったという彼の話を聞いてまた驚き、そして疑いました。

 けれど竜が飛び去って行くのを見た人が多くいたのと、兵隊が山を登って本当にもう竜はいないのを確かめたので、少年は一躍英雄になりました。

 王様は少年と都の人々を王宮に招いて宴を開き、そしてその席で言いました。


「勇敢な若者よ、素晴らしい若者よ、私に仕えてはくれないか。そしてゆくゆくは娘と結婚をして、この国の王になってはくれまいか」


 王様の言葉に人々はわっと快哉(かいさい)を叫びました。お姫様はただ静かに微笑みました。


「わかりました」


 とうとう断りきれなくなって、少年は頷きます。


「僕の出来る限りをやってみましょう」




 それから少年は身をすり減らして働きました。立派な身分に見合った、立派な働きをしようと思ったのです。

 彼は何でも解決してしまう英雄であったので、誰からも頼られました。誰からも頼りにされ続けられました。誰もが少年に寄りかかりながら、けれど誰一人、彼を支えようとはしませんでした。

 皆の為にと言い聞かせ、求められるまま歩いて歩いて歩き続けて、とうとう少年は疲れ果ててしまいます。


 そうしてある夜、彼は自分に訊きました。


 ──世界を見て都へ上って立派になって。それで僕は、どうしたかったんだっけ?


 いつかの竜の言葉を頭を過ぎりました。

 故郷の森が、魔女の顔が、懐かしく、とても懐かしく浮かびました。

 一番に喜ばせたかったのが誰なのか、少年は思い出しました。


「僕はここを出ていきます」


 ()くる朝、少年は都の人々と王様とお姫様に言いました。

 どうして、と皆は泣きました。行かないでください、と(すが)りもしました。

 けれど少年の心はもう固く、とても翻す事はできませんでした。


「あなたは英雄なのに。皆の人気者なのに。何が不満でここを去ろうというのですか。ここを離れてどこに行こうというのですか」

「僕の故郷(ふるさと)へ。僕が僕でいられるところへ」


 人々の問いに、少年はしっかりとした声で答えます。

 それから囁くように付け加えました。


「そこにはきっと、まだ僕を待っていてくれる人がいると思うんです」


 ただお姫様だけが、少年の背を優しく押して頷きました。

 そういうふうにして彼は、森へと歩き出したのでした。




 *




 魔女は少年が(こみち)をやってくるのを見つけると、おかえりなさいと微笑みました。

 彼女はちょうど昼食の支度をしているところで、どうしてかそれはちゃんと、二人分の量があるのでした。まるで離れていた時間など、少しもないかのようでした。

 少年は招かれるまま食卓について、これまでの旅路を語ります。

 そうして最後に訊きました。


「ねえ、僕は一体何なんだろう」


 彼女は少しだけ考えてから答えました。


「あなたは忘れようなく人形で、

 だけどそれ以上に人間で、

 愛されてやまない偶像で、

 頼られてばかりの英雄よ。

 そしてそのどれにもまるで関りなく、大好きな私の友達よ」


 それを聞くと少年はにっこり笑って、ただいまを言いました。

 


 それから二人がどうしたかって?

 勿論、前よりもずっと仲良く楽しく過ごしたに決まっています。

 いいえ、いいえ。

 ひょっとしたら今もまだ、幸せに暮らしているかもしれません。






 話中の切り絵は全て、桜月りまさんの手になるものです。美しいイメージを描いてくださった事に衷心よりの感謝を。

 よって当然ながら、桜月さんご自身の許諾を得ない転載等の行為はご遠慮下さい。

 

 桜月さんは『これ見て「よしやろう」とは思わないかもしれないけど、可愛い女の子を借りてきりました』という切り絵の企画を展開されていらっしゃいます。

 切り絵にする可愛い子、ペットを募集されているので、興味を持たれた方は以下へお運びいただければ、色々いい事があるかもしれません。


http://ncode.syosetu.com/n8996bn/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
[良い点] 帰ってきたときに、旅していた時間などなかったかのように馴染んだこと、魔女さんは別れた後もずっと同じ毎日を送っていたのでしょうね……。 英雄をまつりあげるのでなく、ただ友として遇するのは本当…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ