生徒会から呼び出し
で、授業さえ始まってしまえばこっちの物。
幾ら奴でも授業中に来られる筈が無い。
俺がHRまで寝ていられたのは、奴は何時も遅刻すれすれで教室に向かうからだ。
だから昼休みと放課後の襲撃を交わせば被害は格段に減る。そう思うと気が楽になった気がする。
そんな風に思っていたら、HRに出て来た担任に恐ろしい事を言われた。
「おい、流山」
「はい」
「お前、生徒会から生徒会室へ来る様にとのお達しだ」
「はあぁ? マジで? うぜぇぇ…」
生徒会の名が出た途端にその楽になった物が一気に重みを増して帰って来たような感じだ。オマケに周りも殺気立っている。
はい。これで生徒会の親衛隊にも目を付けられた。明日からよりスリリングな学園生活が送れそうな予感。
「兎に角行って来い」
担任はそれだけを言うと強引に俺を教室の外に放り出した。
何でこうなるのか。
素直に生徒会室に行くべきか?
暫し考える。
よし、今の話は聞かなかった事にしよう。
サボりだサボってしまえ。
あの悪の巣窟行く気なんてまったくこれっぽっちも無い。
そのまま、今日は学園の裏に広がる森の巨木でサボろうかと考えていたら人の気配を察する。
「君が流山四紀君ねぇ~~?」
間延びした口調に微かの聞こえる金属音。これはアクセサリー類がぶつかり合って聞こえる音。
そんな奴はこの学園でただ一人、生徒会のちゃら男副会長広瀬将一か。
迎えをわざわざ寄越したな。
「………そうですが? それが何か? 俺は生憎と忙しいので先を急いでいます。失礼致します」
だが、生徒会室何かに行って疲れるだけの会話を繰り広げるのはごめんだ。急いで奴の側を通り抜けようとしたが、ガシッと掴まれた。それもかなり力強く。
普通の人間…特にこの学園にいる様な奴がそれをやられたらそれは悲鳴を上げる程痛いだろう程の力を込めて。俺にしてみたらまだまだ甘いが。
「へえ~。こんなに力入れても悲鳴も上げないなんてたいしたものだねぇ~。ふ~ん」
「だから何? 俺は忙しいんだよ。離して貰おうか」
そう言って開いている方の手でもってちゃら男の手を掴む。そしてこいつが入れた倍以上の力を込めてやる。
すると悲鳴こそ上げないものの、ちゃら男自ら手を離した。ふん。俺を平凡だからって甘く見ている奴の方が悪い。
こいつは絶対ワザと力を入れて、俺の痛がる様を見ようとしたんだろうな。残念だけどそんな生ぬるい締め付けじゃ此方はびくともしない。
奴はその成りは良い顔を痛みに歪ませ、俺と視線を合わせると、ちっと舌打ちする。
はっ。本性出てるぜ。本性が出るといくら美形でも醜いな。
「残念だけど~。君はこれから生徒会室ね~。歩ちゃんの事でお話があるから~」
「はあ? 俺には話す事、何も無いぜ。あいつの話ならご免蒙る」
「ん~でも怖い怖い生徒会長の命令でね~。君は絶対に連れて来る様にとのお達しだよ」
にへらにへらと笑っているが、目だけは剣呑な色をしている。
これは此処で逃げ切ってもまたしつこく迎えに来るな。確実に。
俺はため息を吐いた。
「仕方ねぇなぁ…」
そうして俺は魔の部屋生徒会室に行く羽目になった。
開戦の宣戦布告を受けに行こうじゃないか。
****************
悪魔の巣窟辿り着くと先に広瀬がドアをノックする。
「平凡君一名ごあんな~い」
「………入れ」
ひくーいいかにも機嫌が悪いですと言う声音が聞こえる。生徒会長の等々力の物だ。
そして広瀬が扉を開くと中から勢い良く俺に抱き付こうとしている物体が出て来た。
「四紀ーーーーーーー!!!」
予想はしていたさ。
皆川が生徒会室にいるんだろうなと言う事位。だが、俺が大人しく抱き着かれる訳がないだろう? サッと左に避けて回避する。
すると皆川は止まり切れずそのまま廊下とご対面する。その様子に慌てた様に広瀬を初め、中から出て来た連中が口々に皆川を心配しだす。
その際、それぞれが俺の事を睨みつけて行く。
「さっさと入ったら平凡」
「平凡なんかの相手してやる義理も無いけどね」
ウゼエ奴らだ本当に。生徒会役員ではない奴ら、あの番犬三人までいるじゃねーか。奴らも奴らで思いっきり俺の事睨んでくれているしな。
で、仕方が無いのでさっさと生徒会室に入る。
うわ……。人が沢山入っても余裕のある広さ。そして無駄に高級感溢れるデスクに最新型のパソコン類。
それは良いけど、部屋のあちこちに山積みの書類が散乱している。これはあれだ。こいつらがサボっている分の仕事だな。
書記の武石はいない。
きっと何処か安全な場所で一人黙々と仕事をしているに違いない。
ふっと視線を部屋の隅にやると、縮こまってソファに座っている、俺と同じ平凡を見つける。
このメンバーを察するに皆川の奴が強制的に連れ出して来たのは見て間違いない。顔色が凄く冴えない、覇気が無い。そうか彼が可愛そうな被害者第一号の吉永透か…。
そう暢気に観察をしていたが会長の鋭い視線を感じる。ラスボスその一のご登場か。
「おい平凡。何暢気にしてやがる。本来なら貴様みたいな屑が此処には入れねーんだよ。それを押してお前を呼んだ理由は分かってるな?」
「あーはいはい。そこの地球外生命体の事っすかーー」
「地球外生命体って俺の事かよっ??!」
地球外以下略の皆川が叫ぶが無視する。何だ、自分だって自覚あるんじゃねーか。
俺の物言いに気に食わなかった殺気溢れる会長と以下信者共の視線を一斉に強く感じる。これが殺気なんて何て可愛らしいもんでしょうねぇ。俺からしてみれば子供の殺気と一緒だな。
俺はやる気無く答えてやる。だって本当なら話す気も無かった。だいたい呼び出しの内容は見当付いているし。だから答えてやってるだけマシだろう?
「君は上級生相手に態度がなってないね」
いかにも不機嫌ですと微笑にどす黒いオーラを滲ませて言うのが伊集院。
「あー、尊敬できる先輩だったらちゃんとしますけど、俺、先輩方の事まったくぜんぜんこれっぽっちも尊敬していないんでー。って言うか尊敬にも値しないんで」
オマケにあくびを付けて言ってやった。
すると伊集院の鉄壁の笑顔仮面の眉間がぴくりと動く。そりゃまあ、尊敬してないって言ったしな。
「もう良いよ、こんな歩に酷い事する平凡なんか」
「そうそう、相手にするだけ無駄だよ~。さっさと話進めちゃおう」
双子も俺を睨みつける様に言う。
何だ、俺があの地球以下略を受け止めなかった事に腹立ててんのか。アホらしい。あれで抱き付かれていても平凡の癖に歩に障るなんて最低~とかほざくにきまってるんだぜ? 冗談じゃねぇぜ。
「まあ良い。お前、今日でもって退学だ」
そこに勝ち誇った様なバ会長の声が割って入った。