幕間1 被害者Aの狂わされた日常
SIDE???
俺は朝からため息しか出ない。
それと言うのもこのクラスにやって来た転校生のお陰だ。
最初に見た時は今時こんな格好して来る奴いるんだ…何て感心して見ていた。時代が古いよ。どこのベ●ゾーさんだよ!! 頭も鳥の巣みたいだし…。一言で言うなら不潔に見える。うん。もうちょっとまともな格好でこられなかったのかな? とも思って見た。
だけれど、それは間違いだったとすぐに気が付かされた。
「皆川歩って言います。皆、よろしく!!」
黒くもじゃもじゃとした髪型に厚いレンズのぐるぐる眼鏡を掛けたオタク外見とは違い、元気一杯にそう言ってのけた彼は見た目と中身が合っていなかった。そんな彼の姿に周りはこそこそと何あいつ、キモいとか美形崇拝らしい言葉を吐いている。
だよね。美形しか受けられない学園にこれって悪目立ち過ぎる。それにどう考えても変装にしか見えないけど、クラスの奴等全然気付いて無いよね。
あれ? 観察眼が美形しか受け付けなくなってるから見抜けないのかな?
そんな風に暫く観察してそんな状態だけまら良かったんだけど、そこにクラスの災いの火種を振りまく様に拍車を掛けてくれた人物がいた。夜の店にいそうな雰囲気でワイルドでかっこいい、抱かれたい等と騒がれている美形の担任、西沢嵐が徐に転校生の肩を抱いた。その瞬間、クラス内にざわめきが上がる。
「良いかお前ら! 俺の可愛い歩を苛めんじゃねーぞ!!」
更に悲鳴が上がる。最早絶叫と言っても過言では無い。そこで俺は気が付いた。即座にこの人間には関わってはいけないタイプだと。
けれど運命って残酷だ。
皆川は西沢の俺の発言に口では嫌がりながらも、クラス内に蔓延した空気に全く気が付く事無く、西沢とイチャついて見せ付けると、席へと移動する。それが俺の後ろで、クラスでも人気者の美形で親衛隊持ちの橋の隣だった。更に周囲は阿鼻叫喚となる。
それだけならまだしもあの爽やかスポーツタイプイケメン橋が転校生を気に入ったみたいで、クラス内は混乱を極めた。一時限目の授業の先生がクラスに入って来たのは良いが、その光景に戸惑ってなかなか授業が思う様に進まなかった位だった。
転校生は疫病神に違いない。
しかもその効力は転校生の前に座っていた俺の方にまで飛んで来た。
奴は遠慮なく俺の肩を叩く。ポンっと置かれたのでは無く、バシバシっと力強く。これでは振り向かない訳にはいかない。振り向きたくないけれど。
「なあ、なあ、あんた名前は。俺、さっきも紹介したけど皆川歩。歩って呼んでくれよな!! であんたの名前は??」
無邪気に笑いながら親しげに名前を聞いて来る。か、勘弁してくれ。皆川、隣の奴の視線に気が付けよ。何か俺が凄い勢いで睨まれているんですけど。あれか? もしかして橋はこの皆川に惚れちゃった? 一目ぼれってやつか?
「なあなぁ」
俺が考えている最中に無邪気に問いかけて来る皆川。そして更に視線のキツさが増す橋。
ああ。俺はこの学園でも平凡でチキンな奴なんだ。ちょっとは勉強出来るかも知れないけど、クラスでも最後から数えた方が良い、成績なのに!!
周囲の視線も痛い程に突き刺さる。中には橋の親衛隊もいる。これは完璧に孤立した。だけど、小心者の俺は皆川のしつこさと橋の視線の強さに名前を教えない訳にはいかなかった。
「………吉永透…です…」
「透か!! これから友達として宜しくな!!」
答えてすぐ、友達認定された。…終わった。俺の人生は終わった。被害が俺の所にまで来るのが確定してしまった瞬間だった。
それから皆川は学園中の美形という美形の人気者に気に入られ、ますます親衛隊に目を付けられ、その中に皆川に友達認定された俺は美形達からも嫌がらせを受ける事になる。
……本当に勘弁してくれ。