仕置き開始
「準備は整ったぞ」
俺はそう言いながら部屋から出る。
今出た部屋は自分の部屋では無い。武石の部屋だ。
三笠が合鍵を持っていたので、難なく開ける事に成功する。勿論、勝手に入った事なので、本人が回復したら速攻に謝るつもりだ。
今回はこの武石の部屋から出ると言う事が重要なのだ。
今の俺は武石に扮している。
そう。影武者の役割だ。しかも身長もきっちりと同じ高さで、声質も一緒。
色々と創意工夫を凝らしたこの変装は身内でも見破り辛いだろう。
部屋から出ると、リビングで待っていた三笠驚きの表情をしていた事から察して貰いたい。
「すげぇ。まんま忠義がそこに居る。それに声も一緒。流石だな」
「ああ、後はあんたが教えてくれた武石の仕草、言動も頭に入っている。問題無いだろう?」
「勿論だ。俺でさえ騙されそうだ。此処までとはやはり流山は凄いとしか良い様が無い」
「本人には事後承諾になるが…。今日の流れは分かってるな?」
「勿論」
三笠の言葉に俺は頷くと、表情を作る。いかにも生真面目ですと、そして武道を嗜んだ者が良く見せる姿勢を取ると、更に三笠から絶賛の声が掛けられる。
「さて…行くぞ、春人」
「ああ、行くか」
そうして朝の断罪場に向かう為に俺達は全校生徒が既に集まっている場所に向かう。
…特と己の愚かさを嘆くが良い。
俺達が全校集会に遅れたのには理由がある。
勿論、あほ生徒会が例の宇宙人を生徒会補佐として任命する告知するその瞬間を狙って乱入を図る為だ。
案の定、遅れて集会が開かれている体育館は既に阿鼻叫喚の声が外まで聞こえて来る。
既にその場には風紀委員達も集まっていた。
そして此方を見た委員長達も驚きに目を見開いていた。
「…流山何だよな?」
「これはまた…」
「武石にそっくり……」
委員長、副委員長、吉永の順で言葉を発する。
俺が影武者で武石になっているのだが、それが余りにもそっくり過ぎて、信じられないのだろう。無理も無い。ハリウッドの特殊メイク技術を更に応用しているのだから、当たり前と言えば当たり前だ。
取り敢えず信じて貰う為に、俺は自身の声で喋る。
「そうっすよ。まあ、体育館に入ったら驚かないで下さいよ?」
そう告げると三人とも頷く。
よし、これ重要だから。
そして俺は、武石の声と口調で、武石として委員長に話し掛けた。
「それで、風紀委員長、例の件何だが、何処まで事態は進んでる?」
「ああ、武石書記。ご覧の通り、あの宇宙人が舞台に上がったばかりだ。すぐさま例の発表はされる事だろう」
「了解した。此度は風紀にも迷惑を掛けてすまない。俺一人ではどうにもならなかった。だから風紀の手助け、痛み入る」
「武石書記は生徒会唯一の良心。それを助けないでどうする。最も、此方としてはもっと早くに助けを求めてほしかったが」
「面目ない。この借りは何れ……。そろそろ会長達が馬鹿な事を告知し始めるみたいだな…。もう流石にこれは黙って見ていられない」
「その為に準備はした。我等風紀は武石書記以外の生徒会役員を信頼していない」
「それは忠義の親衛隊の俺達だって同意見だ。やるなら今だ。俺達が全面的にバックアップしている。だから、引導をお前から突きつ付けろ」
「ああ、そのつもりだ」
そんな会話をしている合間にいよいよアホ達が宇宙人を生徒会役員補助として入れると生徒に向かって告知。
そして先程以上に体育館内は阿鼻叫喚の声で溢れていた。
これぞ、突入の合図だ。
俺達は頷き会う。
そして右側の扉を風紀委員長が左側の扉を三笠が同時に勢い良く開けた。
その音は室内に大きく響き渡り、阿鼻叫喚の声が一瞬で静かになり、舞台上にいた生徒会の奴等もアホな表情をして此方を見ていた。
「その、告知は待ってもらおうか」
武石の声でも低い、不機嫌な声音で待ったを掛けると、更に室内はシーンとなった。
だが、室内の雰囲気を物ともせずに大声を出したのは宇宙人である。
「あ! 忠義!!!! お前漸く出て来たんだな! 駄目なんだぞ! 生徒会の仕事あるのに生徒会室に来ないで仕事しないなんて!! 今日から俺も生徒会の一員だか忠義もちゃんと仕事に来るんだぞ! みんなに迷惑掛けちゃいけないんだからな!」
やっぱり自己中にそう考えてた。
…つーかやっぱり宇宙人に本当の事を言ってないな生徒会役員。
俺の視線は次第に凄みを増して、キツイ視線になった事だろう。
取り敢えず、話の通じない宇宙人より先に他の生徒会役員を見やる。
そしてまたもや低い声で会長達に告げる。
「これはどう言う事ですか、等々力生徒会長? 俺の方にそんな話一切来ていないんですが。急に役員を増やす? 今のままでも十分仕事は成り立っていました。補充は必要無い筈なんですが…。会長達が仕事をちゃんとして下さってれば」
その言葉に周囲の生徒がざわめく。
「なんだ、ただの書記のくせして俺様に楯突く気か、武石」
「いいえ? 事実を言ったまでです。ここ数週間、何故か一向に減らない書類仕事や何やらを顧問の先生と共にやっておりました。それに付け加え、取り乱す生徒がそこかしこにいて、俺は其方のフォローにも周り、余りの急がしさに先日、顧問が過労で倒れました」
実は既に顧問も過労で倒れていたのだ。
それのお陰で余計武石に負担が増したと言えた。
一層周囲が煩くなる。
が、風紀と三笠、それに武石の親衛隊のお陰で静まる。
「流石に俺も疲れが溜まって来ました。それでも休みたいのに一向に書類仕事が減らない。そればかりか各所から書類はまだかとせっつかれる。貴方方が仕事をしていないからですよね?」
「ほう? 俺達はちゃんと与えられた仕事をする為にちゃんと生徒会室にいるぞ?」
「ええ、勿論」
「そうだよー」
「そう言う忠義ちゃんの方が生徒会室に来てないって事はそっちが仕事して無いんじゃないの? 責任転換やめてよねー」
「そうそう。俺達は毎日律儀に生徒会室にいたよ? そっちこそ良い訳しないでくれるかな?」
……アホ過ぎる発言に内心げんなりだ。まあ、そう言って来るとは思ってたけどな。
ため息が出るとはこの事である。
「俺も生徒会室に何時もいた! 忠義だけいなかったもん! ちゃんと仕事してないのは忠義の方じゃんか!」
もじゃぐる、お前、毎日いてもそこのボウフラ沸いた奴等と遊んでただけだろうが。
これは最早温情も無いな。
さっさと証拠を突き付けてやるか。
「ならば、この映像を見てからでもその言葉は言えるか?」
俺は既にある場所に待機していた風紀委員に視線を向ける。するとそこにいた委員はこちらを見ていたので、頷く。
同時に、舞台上に突如として巨大スクリーンが現れる。
そして一斉に暗幕が外からの光を遮断する様に窓を覆う。
こう言う時、自動でやってくれるから便利だな。金の掛かっている学校と言うのは楽で良い。
そしてそのスクリーンに映し出されたのは…。
俺が生徒会室でも様子を隠し撮りした光景だった。




