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平和を乱す奴がやって来た

 それは五月のある日の事。

 季節外れの転校生がやって来た事から始まった。

 最初に見た時の感想。

 何だこのお粗末な変装をした謎の未確認物体はだった。

 頭は鳥の巣のように黒くてもじゃもじゃとした鬘を被り、目は今時何処で売ってんのそんなぐるぐる眼鏡に顔の半分以上を覆われている。

 オタクとも言えない。根暗でもない。外見と中身が一致していないとは奴の為にある様な言葉。

 むしろうざったい程に元気が良く、子供子供した奴。

 案の定、美形しか受け入れないこの学園の奴らは陰口を叩きまくっている。

 しかも、そんな奴らを助長させるかの様にもじゃぐる眼鏡は周囲の空気を物ともせず学園の人気者の美形達と仲良くなり、反感を買った。

 俺は奴とは幸運な事にクラスが違っていたのが何よりだったが、最悪な事に同室なのだ。今まで運良く一人部屋だったのに、何故か同室になってしまったのだ。と、言ってもこの学園の寮の部屋は金を掛けている事もあってか2LDKの作りで個人の部屋が存在する。しかも個人のプライバシーを守る為に共有スペース以外の自分の部屋に入る入り口は鍵が付いており、簡単に入れない様になっている。

 俺は奴が寝た後に風呂を済ませ、奴が起きる前にさっさと部屋を出て、食事を取ると言う生活を実践していている。平均睡眠時間は約4時間。別にそれ位の睡眠時間でも平気だ。こんな事にあの厳しい修行の効果を試せるとは思っても見なかったが。

 そう言う訳で同じ部屋だと言うのに未だに接触は無い。向こうからコンタクトを取ろうと機会を窺っている様子はあったが、それに答えてやるつもりは勿論無い。

 何せ奴のお陰で部屋にいる事がろくに出来ない。何故なら学園の人気者の中にはあの生徒会連中も入っていて、奴らは黒もじゃぐる眼鏡を巡って日々争奪戦を繰り広げている様なのだ。そんな奴らは自然に部屋にまで押し掛けて来る。そんな中に巻き込まれるのはたまったもんじゃ無い。

 皆川は口では嫌だ嫌だと言いながらも奴らの言動や行動を見ては嬉しそうにしている。自分が愛されて構われて当然と言った態度だ。甘える事が当たり前。

 俺の付き合いの長い友人にその事を電話越しに話したら意味不明な叫びが返って来た。

 その友人とは女なのだが、そいつを果たして女と言う項目に入れて良いのかすら不明だ。何せ奴は今流行の腐女子と呼ばれる類の人間なのである。

 日々妄想に忙しく、俺がこの学園に放り込まれると決まった時から煩く、報告を寄越せと言って来たのだ。俺が面倒くさくて拒否るが奴の方が上手。報告しないのならセクハラじみたBL小説のしかもどぎついシーンをメールやら手紙やらで大量に、でなければ電話で何度でも番号を変えて見せたり聞かせたりしてやると脅しを掛けて来たのだ。

 奴にとってこの学園は正に萌えと言う名の楽園らしい。

 だからそんな学園の報告を俺にしろと言って来たのだ。

 で、その一環で転校生の事を話した時の奴の興奮具合は凄まじかった。


「ああ~~ん!!! 王道萌えーーーーーーっ!! 何なのその王道展開! 前から王道染みた学園だとは思っていたけど更に王道じゃない!! やだ! どうしようっ!!」


 興奮して言葉にならない意味不明な叫びがこの後三十分も続いたが割合しよう。

 要約すると様子が楽しみだからますます電話の頻度を増やせとの事だった。一週間に一回の割合での報告が一気に二日に一度になった。迷惑な事この上ない話だ。

 因みに奴は俺と同じ一族の人間でもある。したたかな女の代表たるくのいち。したたかなのは納得行くが、先程も言った通り、女の項目には組み込みたくない。だが、奴は奴でくのいちとしては優秀な奴だったりする。優秀な奴ほど何処かが変なのは最早常識なのだろうか。

 で、そんな騒がしくなった日々を過ごす間に俺は奴等の事を纏めて見た。

 まず季節外れの転校生で黒もじゃぐる眼鏡の新堂歩しんどうあゆみ

 苗字が示すとおり、この学園の理事長の親類であの新堂財閥の次男坊。ああ、学園内ではそれがうっとしいって事で母方の姓である皆川を名乗っているが。

 腐女子曰く王道の転校生。両親の急な海外転勤で、日本に残る事を所望した奴は叔父である理事長が運営するこの学園に来る事になったらしい。その叔父も皆川を溺愛。目に入れても痛く無い程に可愛がっているらしい。あの外見だけは良い、腐れ理事長が。

 …おっと個人的な感想も入ったが、兎に角理事長の甥でもある皆川のあのうざったい姿は勿論変装である。叔父の入れ知恵らしい。

 変装の下にはそれはそれは女の子の様にそしてビスクドールの様に可愛らしい容姿が隠れている。この学園の中でほぼトップに近い容姿なのではなかろうか。

 そんな皆川の容姿に不安を覚えての変装促しだったが、はっきり言って変装しない方がマシ。地味にさせる変装だったら幾らでもあるのに何故に鬘にぐるぐる眼鏡。感性もおかしい。

 まず、鬘の下にあるピンク色に染めた髪を黒くしろ。自前である翠の瞳はカラコンでごく一般的な茶色にしろ。その上で黒ぶち眼鏡を掛けろ。眼鏡によってそして黒い髪の毛の印象が先行してそこら辺にいるただの美形になる。

 オマケにこの学園に来る前は族の族長何ぞもしていて、族の仲間の間ではあゆみ姫何て痛々しいあだ名で呼ばれていたらしい。本人もそれを承知しているので手に負えない。喧嘩も強いらしく、絡んでくる親衛隊は悉く返り討ちにあっているらしい。親衛隊には嫌われ、学園の人気者には人気急上昇。奴の性格がお気に召した奴らはどいつもこいつも親衛隊持ち。人気者…または美形ホイホイ。

 性格は単純で気が短い。典型的なお子ちゃまで純真無垢。人の話は聞かない、湾曲してその頭に入れる。

 此処までくると逆に癇に障るな。成績は満点合格を叩き出したと言うのに馬鹿と天才は紙一重を地で行く。テストの成績と頭の作りが一致しない見事な見本の様な奴だ。


 次はそんな皆川に群がる皆川狂信者共。


 初めに皆川と同じクラスメイトになり、運命的に席が隣となった爽やかスポーツマン系イケメンでチワワ系男子に人気の橋竜矢はしりゅうや。橋の家は多くのスポーツマンを排出する有名なスポーツマン一家。外見が示すとおり、スポーツ系たる陸上部に所属し、インターハイでも好成績を叩き出した期待の新人。そいつはこの学園で友達がなかなか出来ない事を嘆いてて、俺からしてみれば上から目線の皆川の台詞「だったら俺が友達になってやるよ!」の台詞で落ちたらしい。


 次に一匹狼で不良しかも実家は外見に似合わず有名医師…世間では神の手を持つ医者を両親に持ち、本人の成績も必ず上位に食い込む程良い小松原雄一こまつばらゆういち。この学園の風習が気に食わないで一匹狼にになっていた様だが、外見はこれまた美形。しかし本人が醸し出す怖さも手伝って表立って誰も話し掛けられない所に、皆川がそんな小松原の雰囲気に臆する事無く話し掛け、その皆川の性格を気に入って惚れ込んだ。


 次に無口無表情の温室の番人で、これまた神秘的な美形で大柄な大型犬を思い起こさせる泡島直也あわじまなおや。父親が警視庁のエリート時期幹部。母親は華道の家元。人嫌いでなかなか人前に姿を見せない泡島は偶然皆川が見付けた泡島のテリトリーたる温室に近付き、一目会っただけで泡島が皆川に懐いたと言う。彼も同じ三人と同じクラスだったが、それまで教室に来なかったのが、皆川が同じクラスと知るや否や、教室に来る時間が増えた。

 この三人は皆川の番犬と化し、皆川に近付き、話し掛ける者を悉く睨み付けていると言う。全く持って勘違い甚だしい嫉妬に塗れた視線を寄越す。


 そして此処からが大御所達の出番である。


 生徒会会長で俺様何様な性格で大財閥等々力の御曹司等々力知幸とどろきともゆき。痛々しいランキング、抱きたい・抱かれたランクで抱かれたいランクNO1に輝いた鍛え抜かれた体に高身長、そして野性味溢れるフェロモンを垂れ流しの美形。彼の親衛隊は全員セフレ。日替わりで親衛隊の綺麗所を抱いている。俺から言わせて貰えば下半身の権現の下半身男だ。皆川が転校して来た初日に食堂にて皆川に一発殴られてその性を気に入り、全校生徒の前でキスをぶちかまし、あまつさえ俺の物宣言してくれた。その時は周囲が阿鼻叫喚の渦に巻き込まれた。


 次に副会長で学園きってのプレイボーイと名を馳せ、そのちゃらちゃらした派手な外見の広瀬将一ひろせしょういち。髪も金で目には青のカラコン。赤のピアスを耳に付け、腕にはお洒落な腕輪や時計。指にはシルバーのアクセサリー。これらは勿論広瀬の実家の広瀬ブランドの物。広瀬の家は世界的に有名なデザイナーを両親に持つ。こちらも抱かれたいランキング堂々の2位に輝き、生徒会入り。オマケに会長と一緒で下半身男。彼のセフレは教師陣にまで及ぶ。そんな彼も皆川の言動に引かれ、気に入ったのか至る所で皆川を口説いている。


 そして同じく副会長で学園の奴等の大半は気が付いていないが腹黒で偽りの笑顔を貼り付けている伊集院昇いじゅういんのぼる。伊集院財の跡取りで、周りからは微笑みの貴公子なんて呼ばれている。あれか、奴はキムチの国の芸能人と一緒か。が、奴はキムチの国の貴公子とは異なる種類の笑みを浮かべているだろう。腹黒さが滲み出ているのに何故気が付かない。伊集院は皆川が転校して来た初日に案内役として出会い、その時にこれまたムカつく「そのうそっぽい笑顔止めろよな!」と指摘された事で皆川を気に入ったそうだ。本来なら愛想笑いをしてやって不愉快な思いをさせないと言う配慮に対しての侮辱だが、伊集院はそうとは受け取らなかった様だ。


 此処まで来ると面倒だが次は生徒会会計の二名ドッペルゲンガーの様に瓜二つの双子で可愛らしい容姿の割にはかなりの毒舌で、チワワ容姿がごつい奴等に人気の狩野秋・かりのあき・ふゆ。両親は主に大御所の弁護を勤める敏腕弁護士。彼らはその可愛らしい容姿を生かし、親衛隊を顎で使う。それに喜びを見出す奴らが親衛隊には多い。俺には訓練によって奴等の違いが分かるが、一般の奴らには彼らの区別が全く付かない。それを楽しんでいる節があるが、そんな彼らを皆川は野生の勘でもって見分けを付けた。それ以来、彼らも皆川を気に入った。


 以上が皆川の熱狂的で狂信的な信者連中である。


 奴らはどいつもこいつも親衛隊持ち。

 此処数週間、この学園は荒れに荒れている。

 美形達が皆揃って黒もじゃぐる眼鏡に入れ込んでいて、あの会長とちゃらい副会長が揃ってセフレを切った事にも起因している。アホだ。自分達で撒いた種の後始末もせずにそのまま野放しとは。現に切り捨てられたセフレ達は揃って狂乱に陥り、リンチやレイプが頻繁に起こっていた。


 だが、捨てる神あれば拾う神あり。


 先程の中に上げた無かった生徒会書記の存在。

 武石忠義たけいしただよし

 硬派で男前。剣道部所属で実家も剣道場を営む根っからの硬派で生真面目な存在だ。彼だけは皆川の美形ホイホイの魔力に引っ掛からず、むしろ他の生徒会役員の仕事を生徒会顧問と必死にこなし、尚且つ、バ会長とちゃら男が切り捨てた親衛隊セフレ達を宥めに回っている。要するに後始末をしているのだ。

 お陰で武石は此処数週間ですっかり痩せた。生徒会顧問も同様だ。武石の親衛隊は穏健派で、見ているだけで幸せと言う奴が多く、武石に話し掛けられただけで制裁を受けたりはしない。だが、その親衛隊達も此処数週間で見事に痩せてしまった武石の様子に不安を覚えているらしく、彼の体調の安否を気遣う声が随所から上がっている。

 そのお陰かどうかは知らないが、他の生徒会役員の親衛隊達の混乱は徐々に落ち着きを見せている。が、まだまだだ。先に武石がぶっ倒れる方に一万円掛けても良い。そして落ち着きは見せているものの、より多くの悪意が皆川に向かう事になるのだろう。堂々巡りだ。

 武石は可愛そうだが、頑張れと心の中で呟く事しか出来無い。

 何故なら渦中に飛び込みたくない。目立ちたくない。今でさえ、直接的被害は無いものの、確実に皆川からの被害は間接的にでも受けているのだから。

 これだけ詳しい情報を俺が持っているのは、家業の修行にもなる情報屋を顔を見せずにやっているからだ。面白いくらいに学園内は皆川関連の話ばかりしか入って来ないが。

 だから本来なら知り得ない筈の情報まで持っていたりする。皆川とかの情報を知っているのも当たり前だ。

 だが、それを抜きにしても奴の変装位、皆分かれよ。見ただけで丸分かりだろ。あれか、目先の事しか目に入らないのか。そうか。この学園の奴らには揃って将来に不安を覚えるぞ。

 そんな騒がしい日々が続くある日。俺はとうとうあの黒もじゃぐる眼鏡に捕まった。

 いや、奴の方から来やがった。面倒事がお手手を繋いでやって来たのだ。奴は特進クラス2-Sの筈だ。

 そんな奴が何故2-Bまでわざわざ来るのか。

 理由は簡単。会おうと思っても中々会えない同室者たる俺に痺れを切らして自ら直接教室にまで会いに来ると言う行動に移したらしい。そんな事しなくても良いのにな。

 奴が狂信者共を引き連れてやって来た時、教室内は一気に静まり返った。皆川の後ろに控えている番犬どもは揃って周囲に睨みを利かせている。

 そして空気の読めないキングオブKYな皆川は事もあろうに俺の名前を教室内にいる全員に聞こえる大きな声で呼びやがった。


「流山四紀って奴いるかーーーー?!!」


 ご丁寧にフルネームだ。

 その声にチラチラと俺に視線が向けられ始める。くそっ。こんな事なら瞬時に姿消しをしておけば良かった。

 しかし時既に遅し。


「流山~~?! いないのかっ!!」


 徐々に皆川がわめき始める。それと同時に背後の信者達の目付きも険しくなる。彼らの心内は読める。皆川にわざわざ呼びに来られて姿見せないバカはどいつだ。とっとと姿を見せやがれだろう。

 ああ、確実に死亡フラグ立ったな俺。今までの平穏が懐かしい事になりそうだ。だが、呼ばれたからと言って返事はしない。取り合えずそ知らぬ振りを通して見る。が、皆川は諦めを知らない奴だ。


「流山~~!!」

「おい! どいつだ!! 歩がわざわざ呼んでやってだぞおらぁ!!」

「そうだね。いい加減に出て来なよ」

「…出て来る……」


 番犬共が痺れを切れ出した。

 それに恐怖を覚えたのかクラスの誰かがぼそりとあっちと言いながら俺の方を指差しやがった。


「お前が流山か!!」


 知るや否や、他クラス教室だと言うのに堂々と嬉しそうに笑みを浮かべながら俺の方までやって来る。来るな、いや、来るんじゃねぇ! だがそんな俺の心の叫び何ざ奴には届かない。


「お前が流山四紀だろう? 同室の!! 此処に来て数週間だけど、未だにお前の事部屋で見掛けた事無かったから喜一にきいたんだ!!」


 喜一…。寮長の菅山喜一すがやまきいちの事か。あいつもホイホイに捕まったのか。しかも年上なのに呼び捨てかよ。ってか寮長だからって勝手に人の情報教えるんじゃねぇよっ! …俺も人の事言えねーけど、寮長ははっきり言って個人的感情からだろう。忌々しい。今度奴の嫌いな雨蛙を大量に布団の中に放置してやる。

 俺が忌々しげに思っている間も皆川の言葉は続く。


「俺皆川歩って言うんだ。歩って呼んでくれ! 宜しくな!!」


 俺は宜しくなんかしたくねーんだけどな。


「なあなあ、四紀って何で部屋に何時もいないんだ? 俺ずっと挨拶したかったのにお前、何時見てもいねーんだもん。部屋に帰って来た形跡とかあるのにさぁ」


 早速名前呼びかよ。こいつうぜぇ。俺は一言も喋っていないないのに勝手に友達認定されてる気がするぞ。


「でもこれで会えたもんな!! 同じ同室だからこれから友達として宜しくな!!」


 はーい。って言う訳ねーだろうが。何でお前みたいな自己中と友達にならにゃあいかんの。それにお前には既にお友達と言う名の番犬が三人いるだろう。奴等とだけ楽しく遊んでろよ。俺を引き込もうとするな。

 案の定皆川の後ろでは嫉妬感丸出しのきっつい視線を俺に向けてくる信者共。今にも殴り掛かって来そうな雰囲気だ。


「なあ、四紀お昼まだだろう?! 一緒に食いに行こうぜ!! 友達になった記念にさ。俺、奢るぜ!!」


 ………いい加減付き合いきれない。

 俺が無言で立ち上がると皆川が嬉しそうな顔をする。そうか、俺が一緒に食堂に行くと勘違いしているな。だが、断る。お前等と一緒の昼なんぞ食っても美味くないだろう。

 無言で皆川と信者共の横を通り過ぎる。


「わっ! ちょっと待てよ四紀!! そんなに嬉しいのかよ!! 食堂は逃げないって!!」


 もう我慢ならん。忍者は忍ぶ者と書く。だが、その忍耐の忍も今の俺には我慢出来ない。仕事なら我慢するが残念ながら此処での俺は素の俺だ。よって我慢する必要は無い。

 勘違いも甚だしい台詞を吐く皆川の方を向き、今まで黙っていた分を吐き出す。信者共に目を付けられようがもう知った事じゃねぇえ。信者如きのあまちゃんなんぞ怖くも何とも無い。面倒が増えるだけだが。


「残念ながら俺には既にこの先の予定は既に満員御礼だ。卒業してからもな。それからお前と友達になる気は毛頭無い。同室だからといって気軽に友達になるなんて持っての他。それから何時俺が下の名で呼んで良いと言った? 勝手に呼ぶな。そして他のクラスを自分のクラスと同じ様に堂々と入って来るな。しかも大声出して人の名前フルネームで呼びながら来るんじゃねぇ。部屋にお前が起きている時間に戻らないのははっきり言ってお前が齎す被害に会いたくないだけだ。お前ら幾ら防音の効いてる部屋だからって騒いでんじゃねーよ。うるせえ」


 その俺の言い様にショックを隠せない様子で俺を見る皆川。目には微かに涙まで浮かべている。こいつ本当にウザいな。後ろの狂信者共がそれを見て何かを切り出す前に俺は更に言葉を放つ。


「高二になっても涙目になってんじゃねーよ。それから後ろの奴ら。勘違いも甚だしい視線を向けてくるな。いい加減にしろ。お前らがやってる事の矛盾に気が付け。恋は盲目と言うが行き過ぎだ。男の嫉妬も見苦しいだけだな。お前等には見えないのか。俺の迷惑そうな顔が。そうか、俺は平凡だからな。なら仕方が無い。だがそんな表情も分からない程お前らの目は悪いのか。眼科行け」


 ああ。言い切ってスッとする。

 俺は満足して言い切ると奴等に背を向ける。


「っ! てめぇっ!!!」


 先に我に返っただろう小松原が俺に殴り掛かろうとする気配が伝わる。だが、遅い。忍びを舐めるな。俺は小松原の拳が降り掛かると同時の瞬時に教室の外へと移動すると気配を消し去り、一気に校内を駆け抜ける。普通の奴らには俺がその場から突如として姿を消した様に見えるだろう。そして走っている俺の事を周囲の奴らは認識出来ない。その様に訓練を積んだんだから当たり前だ。

 このまま先に寮の部屋へと戻ろう。あの様子では理事長専用カードやら寮長専用カード何かを出して来て個人の部屋にまで押し掛けて来そうだ。そうなる前に部屋のキーの少々手を加えよう。俺の持っているカードでしか開けられない様に。…力技でドアも蹴破られそうだけど念の為にこんな所で力の無駄遣いはしたくないし、力は極力使わない様にも言われているが、そんな事言っている場合ではない。術で結界も張っとくか。

 これをやっとくと一般人には手出しが出来なくなる。こんな事に術の無駄遣いはしたく無いが仕方が無い。


「…しっかし明日から憂鬱だな…」


 今ので狂信者に完璧に目を付けられた。きっとこの事は生徒会に伝わるんだろう。奴らは権力に物を言わせて俺を退学処分にするかもな。だが、やれるもんならやってみろ。俺には生徒会の奴等の権力もそして理事長の権力も効かない。

 生徒が勝手に生徒を退学処分するには理事長の印が必要だ。幾ら甥に激甘の腐れ理事長と言えどもこればかりは出来ないだろう。何せ俺の家を敵に回すと言う事は身の危険を更に呼び込むと言う事になる。何より腐れ理事長は俺の一族の当主であり、俺の祖父でもあるじじいには頭が上がらない。

 俺としては家の権力を利用するつもりも全く無い。が、向こうが勝手に俺に手を出すとヤバイと思い込んでいるので構わないだろう。

 家の一族を少なからず他の家も知っているだろう。特にバ会長と腹黒副会長の家は間違い無く。そして俺の一族の存在意義を。別段、家の事を隠していた覚えは無いし、今は本名を名乗ってるんだ。それ位将来トップに立つ奴は分かっていても良いは筈だ。そうでなくても俺の一族はこの学園に蔓延る奴ら以上の家柄との繋がりが面倒な事に沢山あるのだ。だから俺の一族を敵に回すと言う事は身を滅ぼす事になる。

 もっとも俺をこの学園から退学にした所でじじいが動く事はまず無いな。特になる事以外には個人的感情も含まないじじいだし。まあ、俺としてはこの学園を退学になっても未練は微塵も無い。むしろ清々する。 

 一人だけ騒ぐ腐女子がいるかも知れないがこの際はスルーだ。

 しかし、今はそんな問題など些細な事に過ぎない。

 あの場には生徒会やら人気者の親衛隊もいた。皆川に向けられる憎悪の余波がこれで俺の方にまで来る事が決定した。今までは同室だが、目立たないと言う事もあってかそう言った標的にされる事は皆無だった。それが今回の事で決定打だ。

 ああ。制裁とかうざぇ。もの凄くうぜぇ。そしてめんどくせぇ。

 今日からは上履き持ち帰りだな。教科書の類は鍵付きロッカーに詰め込んである。もっともロッカーの外観は酷い事になりそうだが。教室には机と椅子があるのみだ。明日の朝には綺麗なデコレーションが施されている事だろう。きっと陳腐な台詞付き。ついでに花瓶に菊が添えられている。間違い無く。

 下駄箱も昔の悲劇のヒロインの苛めの様になる事だろう。下駄箱も空いている所を使おう。うん。勝手に山田って名前の札を貼ってそこを使用しよう。下駄箱はそのまま放置だ。悪臭塗れになるのはその周辺を使っている奴等の上履きだ。恨みは無い。だが、これ位は巻き込ませて貰う。

 そう言えば今は昼休みだったか。今日はもう五時限目までだがサボりだ。任務でもないのに疲労感が激しい。と、言うより任務の方が物凄く楽な気がする。だから今日は教室にすら戻る気は無い。部屋に戻ろうと思っていたが、まずは体力回復の為に食料調達だ。食堂には行かない。奴らが来るのを分かっていてワザワザ行く事も無い。よって残りの選択肢は購買である。

 決めると購買に向かう。もう昼の大争奪戦は過ぎ去り、悲しい物しか残っていないだろう。基本的に何でも食べるから俺は気にしないがな。売れ残りのコッペパンやらと缶コーヒーで昼食を済ませよう。それ位でも体は持つには持つ。夕食を早めに食堂で取る事にしよう。迷惑な奴らが姿を現す時間帯は把握している。用心の為に気配も消して置こう。

 そして予想通りに売れ残ったコッペパンと珍しくカレーパンが余っていたので缶コーヒーを一緒に買い、学園の外れにある巨木まで来ると、その天辺間近にまで二、三歩で飛ぶ。これ位なら我が一族では当たり前だ。そして枝や豊富な葉が己の姿を隠してくれる。

 そこからは学園の校舎を含む敷地内全体が見通せる。

 忍びらしく視力も良い。

 パンを口に運びながら校舎を見やる。すると何故か窓越しに黒もじゃぐる眼鏡ご一行様が目に入る。傍から見ても凄まじい落ち込みっぷりを披露している皆川に三者三様に慰めの言葉を掛けている。

 曰く


「あんな平凡の言う事気にするなよ」

「そうだぜ。あんな奴は歩には似合わないぜ」

「…歩、傷付ける…近付かない方が良い」


 だそうだ。

 因みに声は聞こえない。だが、口の動きで分かる。読唇術だ。

 更に各々が言い募り、ようやっとあの黒もじゃぐる眼鏡は機嫌を浮上させた様だ。奴が有難うと言うだけで三人は頬を染めている。傍から見ると本当にコントだな。そうして一行の姿は此処からでは見えない学校の死角へと入って行ったのだった。この分だとこれから食堂か。

 きっと非難の嵐だろう。

 何処まで行っても本当に災難しか呼び込まないな皆川は。

 昼食を終えると早速部屋に帰った俺は自分のパソコンでもって学園のシステムにハッキング。痕跡は勿論残さない。そして自室の部屋のドアのプログラムを少し改ざんすると、カードキーも同じ様に少々手を加える。これで部屋には入って来れないだろう。

 兎に角一仕事終え、自分の仮の住まいと言うべき部屋のベッドに寝転ぶ。この部屋で目立つものと言えば持ち込んだパソコンと辞書や参考書の類が机の上に数冊並んでいるだけ。クローゼットの中には着替えと代えの制服のみ。


 生活感を一切感じさせない様になっている。これはもう昔から叩き込まれた習慣の様なものだ。

 仮の住居には痕跡を一切残さず。

 この学園で別段気にする事は無いが、用心に越した事は無い。

 そう考えながらうとうとして来たので、少し仮眠を取る事にし、素直に意識が闇の底へと引き擦り込まれて行った。

 そして数時間が経った頃、部屋の外の騒がしい気配を感じハッと目が覚める。そして瞬時に気配を消す。同時にあの黒もじゃぐる眼鏡が信者を引き連れて帰って来たのだ。俺はさっき言ったよな。煩いの連れて来るなってはっきりと。

 気配から察するにあの番犬三人プラス生徒会の二人。聞き覚えのある声の持ち主はあの双子会計の様だ。


「ねえ、歩~。歩に失礼な事言った平凡ってこの部屋~?」

「平凡なんか相手にする事無いよ~」


 他人に言わしめればそっくりの声。だが俺にしてみれば僅かな声質の差が感じられる。最初に口を開いたのが狩野冬で、次が秋だ。だが、そんな二人の声に皆川は信じられない自論を展開してくれる。


「あの時はいきなり俺が押し掛けてっちゃったから、四紀が恥かしがってあんな事言っちゃったんだと思うんだ! だからその事謝ったら友達になってくれると思うんだ!」


 何 で す と ?


 俺はあれですか? 今流行のツンデレのツンでもってあの言葉を言ったと……?

 んな訳あるかっ!! どんだけ自分に都合の良い処理されてるんだあのもじゃぐる!

 噂に聞いていた以上の酷さだ。

 そんな皆川の言葉に信者どもは流石歩とか優しいと口々に褒めたたいている。…本当に馬鹿ばかりだな。恋は盲目どころじゃない。恋は妄想・幻想だ。

 そんな事を考えているとどんどんっと部屋のドアが思いっきり叩かれる。その衝撃で扉が壊れそうな程だ。


「四紀~~~~~?!! いないのかぁ~~~~?」


 どんどんどん。

 しつこく叩かれるドア。だが無視する。奴は相手にするだけ疲れるのだ。

 だが、一向に鳴り止む気配が無い。

 こんだけ叩いても反応無けりゃあいないって思うだろう普通。しかし奴には普通が通じない。

 そして10分程経った頃、不意にドアを叩く音が止んだ。諦めたか…? そう思ったのもつかの間、予想斜め上を行く台詞が聞こえた。


「も、もしかして! 四紀!! 部屋でたおれてんのか?! 大丈夫か??!!」


 言葉も出ないとは正にこの事である。

 そして焦った声が更に大きくなる。と、そこへ。


「歩、大丈夫だよ~~。ほらこんな事もあろうかと、僕寮長にカード借りて来たの」

「えっ?! ほんとうかっ?! だったら早く開けてくれよ秋!!」

「秋ってばずるーい!!」


 狩野秋が余計な物を持っていた。ってか寮長いい加減にしてくれ。私情挟むな。幾ら生徒会とは言え、個人のプライバシーを率先して破るようにカードを貸し与えるな。

 しかし、奴らには常識と言うものが無いのか。勝手に人の部屋に入っちゃいけませんって幼稚園児でも教わって理解出来る事だろうが。


「これは通せばいいのかな?」


 そう言って橋が狩野秋からカードを受け取ると、皆川の代わりにカードをカードキーに差し込む。だが、その途端、ドアは開かず、エラー音が鳴り響く。マスターキーをも拒否した音に先程のプログラム改ざんが上手く行った事にホッとする。


「あれ…? 開かない?」

「可笑しいな? 狩野、これ、マスターキーだよな?」

「そーだよ。寮長から借りて来た正真正銘のマスターキーだよ? ちょっと貸して!」


 そう言って橋から奪い取ると、今度は狩野秋が通して見る。だが、先程と同じで今度もエラー音を出す。ついでに機械音声でその鍵では開きませんって声も聞こえた。


「あれれ? 開かない~~。秋ちゃん、これ不良品じゃないの~。寮長使えない~~」

「え~。本当に~? …っちあの顔だけ男」


 双子の文句が聞こえる。顔だけ男だったらお前らもなと声に出して入れたい。が、今、声を出すと今までの我慢が水の泡だ。

 そして此処に来て登場したのが一匹狼の小松原と温室の引き篭もり泡島が名乗りを上げた。どう考えても皆川に対しての点数稼ぎだろう。


「どいてろ、歩」

「……ドア…開ける……」


 これはまさかの蹴破りか。

 アホか本当に。器物破損すんな。

 だが残念だがそれは不可能だ。

 二人がタイミングを合わせて蹴破ろうとした瞬間、二人の体がその場に崩れ落ちる音が聞こえた。


「なっ!?」

「……っ?」


 そう。この部屋のドアを意思を持ってしかも強引に開けようとすると、その開け様とした人物は体中が感電した様な痺れに襲われる仕掛けにしておいたのだ。

 二人は見事に術中に嵌った。


「大丈夫か?! 雄一、直也!!」

「あ、ああ…」

「…大丈夫…」

「良かった……」


 ほっとした様な声を出す皆川。その表情に慌てて心配させない様に返す二人の気配が伝わってくる。


「けどぉ~。何か気味悪い~~」

「本当。歩、平凡はいないんじゃない? それより食堂いかない? お腹すいちゃった~」

「そうだな。彼はいない様だ。歩、食堂に行こう? もしかしたらそっちにいるのかもよ?」

「…だよな。そうだよなっ! うん食堂に行ってみよう!!」


 そうして誘導された皆川を先頭に、一向はぞろぞろと出て行った。気配とあの騒がしい声が遠のき、ようやっと一息吐けた。これまでに掛かった時間およそ一時間に渡るものだった。

 正直毎日は勘弁願いたい事である。


「明日から攻防戦の幕開け…か」


 嫌な戦いだ。


 ******************


 そしてその日の夜、あの黒もじゃぐる眼鏡を仕立て上げた張本人で、皆川の叔父である理事長、新堂義則しんどうよしのりから理事長室まで来る様にとのお達しが、携帯に直接掛かって来た。正直かったるい。無視してやっても良いが、それがどんどんしつこくなるから、行ってやる事にする。

 理事長室に行く時は隠密行動で、姿を隠しながら行く。理事長室に入る時は声だけが本人に聞こえる様にする。勿論その声も声音を変えている。変態の所にわざわざ本来の姿とそして声を聞かせる為に行く訳では無いのだ。隠しカメラ、ボイスレコーダーで録音されて、それを素材に脅しを掛けられるなどもっての他だ。

 もっともそれをやっても瞬時に破壊するので無意味だが、用心には用心を入れるに越した事は無い。

 理事長室に姿を消しながら入ると、声音を掛けて声を掛ける。

「おい、理事長こんな時間に何の様だ」

 俺がこうする事が毎度の事なので向こうも慣れた様子で動かしていた手を止める。


「ああ、来たんだね。待ってたよ」


 名前は出させない。それもいつもの事だ。


「理事長、良くもあんな面倒なのと一緒にしてくれたな」

「面倒??! 酷いよ!! あの子は目に入れても痛くない程可愛い子じゃないかっ!!」

「てめーの感想なんてどうでも良い。で、本題は?」


 取り乱した様に言う理事長に見えていないだろうが冷ややかな視線を送る。


「君は何時もそっけないな…。そうそうとある生徒に対して生徒会から退学申請処理の書類が届いたんだけど…」


 やっぱりな。行動力だけは無駄にありやがるな生徒会。そう言った事に気が回るなら自分の仕事位、自分でしやがれ。


「で…?」

「勿論、却下したよ。彼は我が学園にとって必要な人材だ」

「ふん。どうだが。どうせあわよくば…って言いたいんだろう? だが、血は拒否した。それだけだ」

「あの子が相応しくないって事かな?」


 一瞬にして理事長のまとう雰囲気が変わる。あの皆川を溺愛しすぎだろうこの男。だが、普通の奴ならうろたえるであろう雰囲気も俺は鼻で笑ってやる。


「あれは却下だ。俺が駄目なら他の奴らも駄目だ。変な事は考えるなよ。もっともあのくそじじいを相手にするんだったら止はしねーけどな。俺はその光景を嬉々として見ている。が、その後の責任は自分で持てよ」

「そうかい……」


 理事長の雰囲気がまた変わる。こいつも皆川と一緒で忙しない奴だな。甥っ子と共に精神科で人格矯正でも受けて来やがれ。そうしたら少しはその性格もマシになるってもんだ。


「それだけなら良い。俺は行く」


 言い切ると俺は理事長室を出た。悔しそうに臍をかんでいた姿など知った事か。


「あんのくそ理事長めっ!」


 吐き捨てると、帰る道すがら人気の無い裏庭に行く。此処が今現在の俺の避難先だ。皆川の奴が眠るまで俺は此処で過ごすのだ。昼間や夕方は此処をラブホ代わりに人の迷惑も顧みずいちゃいちゃするバカップルが時々いるのだが夜は暗い事と不気味さが手伝って、人なんて来ない。ので俺は安心していられるのだ。一応手近で尚且つ身が隠せる木の上に上る。身を隠すには木の上が一番。ある程度の太さがある枝に座ると携帯を手に取る。

 素早く電話したい相手の名前を表示させるとコールを鳴らす。すると二回も鳴らない内に相手が出る。


「きゃあああああああ!! 待ってたわよ! 四紀!!」


 ハイテンションで電話に出たのは俺の友人で腐女子もとい優秀なくのいちたる流崎静音。名前とは正反対の奴である。因みに俺の一族には挙って流の文字が苗字に入る。流山は本家にしか名乗れない苗字だが。


「お前は夜なのにうるせぇな。もうちょっと静かにできねーのか」

「そんな悠長な事言ってらんないわよ! 身近にとっても美味しい話があるってのに興奮せずにいられない訳ないでしょうがっ?!!」


 その言い分最早ため息しか出ない。


「分かった、分かった」

「もう!! ちゃっちゃと話なさいよ!! で? 今回は??! ついに、あんたと王道君達接触しちゃった??!」

「………最悪な事にな…」

「はいっ!! キタコレーーーーーっ!!」


 そしてハアハアしながら意味不明な言葉を騒ぎ立てる。俺はそんな興奮中の言葉を右から左へと聞き流す。

 何時もの事だが、正直こいつと携帯で話すだけで料金が爆発的に跳ね上がった。一月に四万はねーだろ。 

 もっともこれは静音が報酬として…俺には報酬でも何でも無いが、払っているので別に良いが。

 この報告を元にイベントに出す本のネタにして売り捌いているらしい。しかも結構な売り上げになるそうだ。

 仕事に学校、そしてこの趣味に費やす根性は忍びとして生きる為に叩き込まれた筈なのに、その優秀さをちょっと道を外した場所で発揮している事にため息を何回吐いた事やら。

 もっとも仕事の方も優秀にこなして、したたかな女くのいちとしての本領を発揮しているのだから文句の言いようも無いのだが。

 三十分程好きな様に喋らせていたら漸く落ち着いたのか、俺でも理解出来る言葉を喋り出した。


「…はあ、これでまたネタのストックが増えたわ…。ムフフ。しっかし王道君がそこまで王道君なのには驚いたわ。ネタとしては観察対象だけど、当事者にはなりたくないわ~」


 こいつは腐女子をやっていて、ネタとしての王道たる皆川を見るのには良いが、性格は頂けないらしい。

 まあ、俺と根本的な所で似ているからこいつがそう言った事を言ったのには別に驚きはしない。

 っつーかだいたい俺の一族は根底が似ているので俺が皆川を拒否ったって事はくそ理事長にも言った通り他の奴らも拒否るだろう。それは静音も同じ事だ。


「勘弁してくれよ。俺は明日から巻き込まれライフだ。奴には人語が通じない。猿以下だ。周りの奴らも幻聴と妄想入りまくり」

「あははは。すっごい王道! これからの報告がますます楽しみだわ。私を楽しませる為にもっともっと巻き込まれなさい」

「てめぇ…っ。今すぐ俺と入れ替われ」

「無理。私は女であんたは男。別に学園なんて簡単に入れるけど、これは客観的に見て楽しいのであって巻き込まれて当事者になるのはごめんよ」


 くそ。やっぱりここら辺はしたたかだ。


「…もう良い。そろそろ切るぞ。報告には満足したろうが」

「勿論。あ、次の二日後の報告を楽しみにしてるわ。ファイトー四紀!」


 奴はそう言って携帯を切りやがった。


「…………くっそ。最悪だ」


 転校生が来てから尽きる事の無いため息がまた出た。

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