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長い一日の終わりもやっぱり狂信者が攻めて来た

 …がそうは問屋を下ろさないのが宇宙人関係。


 深夜にも差し掛かろうとした時刻に、突如として部屋のチャイムが鳴った。


 同時にそれぞれの個室から俺達は一斉に出ると、顔を見合わせる。


「こんな時間に…ハッ…! まさか宇宙人??!」


「いや、宇宙人はこんなに出来た行動はしない。寧ろ人の迷惑も顧みずドンドンと壊す勢いで玄関を叩く」


「そうだよな……。じゃあ、一体誰が………?」


 俺達二人がそう会話をしている間にもひたすらチャイムが鳴る。


「一体誰が……」


「兎に角覗き穴から見てみよう…」


 そして二人揃って玄関に行くと、代表で俺が覗き穴を覗く。


「げ…っ」


 視線の先には若干苛々した様子を窺わせる生徒会ご一行様がいらっしゃった。


「だ、誰…?」


「生徒会ご一行様だ」


「うげっ?!」


 油の切れた機械人形のギギギと鳴りそうな速度で俺が吉永を振り向きながら言うと、吉永も嫌そうな表情を作る。


「…どうする? このまま無視するのも出来るが………」


「無視すると更に厄介な事になりそうな気が……」


 だよな。


 こうしている間にもチャイムの音が連打で鳴り響いている。その感覚がどんどん狭まっているのは気のせいでは無い。


「兎に角出るか……」


 こうなるしかない訳で。


 俺は苦虫を潰した様な表情で玄関を開けた。


「どちら様ですか? 新聞の勧誘と宇宙人関係は間に合ってます」


 言いながら開けると、やっぱり目の前にいたのは生徒会ご一行。その中でも中心にいたのは副会長でした。


「流山四紀、話があります」


「………俺には話す事なんて何もねーんだけど」


「兎に角お前らのちゃちい部屋に入れろ」


「そーだよ」


「こんな所に僕達が本来来るはず無いんだからね! 騒ぎになっちゃうじゃん!」


「……部屋に入れる…」


 俺様何様な言い様に米神が引き攣ったのを確かに感じた。


 こいつら……!


 これ以上、俺の血管がぶち切れる前に奴等を部屋の中に入れるしかなかった。


 好き勝手する奴等を他所に此方側からは重い沈黙が支配している。吉永も敵と見定めた奴等を冷めた目で見ているし、自分の視線も鋭くなっている事だろう。


 俺と吉永の溢れ出る殺気やら何やらに気付かないままに向かい合わせに生徒会ご一行様がのさばっている。


 因みにリビングにソファやカーペットなんて気の利いた物なんて無い。でかいテレビとDVDそしてその台が鎮座しているだけで後はまっさら。


 全員、地べた座りである。


 俺はリビングを殆ど使わなかったし、吉永もソファやミニテーブル何かの類は金の無駄と言う事で置いてなかったそうだ。だから俺達は話し合って、数日後にはミニテーブルとクッション位は置こうと話はしていた。


 そんな何も無い状態で奴等は来た。呼んで何かいない。招かれざる客も良い所だ。


 奴等は入って来て、早々リビングの状態を見ると文句を言っている。


「何だ、この貧相な部屋は。俺達を床に座らせ様なんて良い度胸だ」


「センスも無いね~」


「だよねー」


「これだから貧乏人っていやーーー」


「こら、本当の事言ってはいけませんよ」


「……こんな部屋、早く出る……」


 …………………。


 こいつら、数週間再起不能になるまで殴って良いか? いや、寧ろ社会の為に抹殺するべきか。


 俺の耐え忍ぶ我慢値、この時点で既に限界値に到達しようとしていた。


 奴等を追い出すには手っ取り早く話を聞くべし。


 此方が話を切り出す事にした。吉永はこいつらが些かトラウマみたいになっているらしく、俺の後ろに隠れてしまっている。それは仕方が無い。そして口を開いた俺の声音と雰囲気に殺気が滲み出ていたのも仕方が無い事だ。


「で、あんたらは何しに来た? 文句を言うなら言ってみろ。内容によってはお前ら二週間の病院送りだからな。ああ? わかってんの? だいたいお前らこそ何様のつもりだ? 金持ちだからって粋がってんじゃねーよ。だいたい、金持ちはてめーらの親であって、お前等じゃねえ。自分で殆ど稼いだ金使った事、ねーくせに無駄口叩くな、履き違えんな。その上、人の部屋に急に押しかけた挙句、問答無用で上がって文句たれるな。思ってても言わないのが相手への配慮。坊ちゃんともなるとその辺の配慮が欠けるのか? ん? だからお前達はただの親の金にすがっているボンボンなんだよ。てめーら見たいなのが大人になったらお前らの会社、その代で潰れるね。間違いなく。……で、再度聞こう。用件は何だ手短に話せ」


 若干…では無く、だいぶ切れながら俺が言うと、口を開いたのは副会長の伊集院だった。ま、奴等の中で交渉事に向いているのは奴だけらしいからな。 他の連中は俺の殺気をようやっと察したのか顔を青ざめさせていた。


「貴方があの流山家の人間と言う事は此方で把握しました」


「今更ですか? 伊集院家の坊ちゃま?」

 

 はっ。本当に今更かよ。情報収集なんて上に立つ者程必要な事なのに、それを怠ってたってか。こいつ本当に上に立つ資格あんのかね? あ、そう言えばこいつの家って上に兄貴居たっけ。じゃあ、そっちがマシだったら良いか。

 ん? でも流山の人間って事が分かっただけ? 本家の人間って事までは調べられてねーの? …だったらこいつの持ってる人脈うっす。

 そんな風につらつら考えていると、奴の口の端がひくりと上がっている。俺の嫌味の篭った坊ちゃん呼びに気が付いたんだな。こう言う事は気が付けるのね。一応。


「貴方なんかに謝るのは癪ですが、取り合えず謝っておきます。此度の騒動に対してした非礼の数々お詫び申し上げます」

 

 全然謝っている気がしねえぇ。ま、所詮は言葉だけの謝罪。そんなの受け取らんけど。


「で?」


 色々と考えながら先を促す。さっさとこいつらを部屋から追い出したいし。


「ですが、私達は決して間違った事をしたとは思っていません。歩を傷付けたのは貴方方だ。歩は先程まで泣いてました」


「そうだ。歩の奴を泣かしたお前らを俺達は絶対に許さない」


「歩ちゃん、可哀想~」


「そうだよ。勝手に部屋まで変えちゃってさ」


「それこそプライバシーの侵害だよ」


「……歩、傷付けるな」


 どいつもこいつも揃いも揃って何なんだ。謝りに来たのか、宣戦布告に来たのかハッキリしやがれ。


「あーーー。うぜーなぁ…。歩、歩ってお前らそんな事しか言えない訳か? ああ? それだけを言いに来ただけならとっとと部屋から出てけ。お前らが居ると物凄く不快だ」


「何だと! 歩を傷付けたのは紛れも無い事実だろうがっ!」


「はぁ? あんた達こそ極一般生徒に対する集団暴行にリンチ。各々の親衛隊を使っての吉永への苛め。傷付けているのはどっちだよ」


「それは貴方方が歩に近付くからですよ」


 こいつ等もう駄目だ。死んでくれ。これからの日本の為にも。

 そしてこいつ等の言葉から俺が本家の人間だって事まで調べられなかった事も判明。まあ、俺ってば嘗められそうな外見してるもんな。

 相手の本質を見抜けない時点でこいつ等アウトだったけど。


「……もう一度その空っぽの頭に言ってやる。俺や吉永は自分から近付いて行ったんじゃない。あの宇宙人が此方の迷惑を顧みず、友達面して近付いて来てたんだよ。それを何? あんたらの目には近付いた様に見えてた訳? その時、吉永の迷惑そうな表情とかは目に入らなかった訳? それこそ頭可笑しいんじゃねーの? あ、頭じゃなくて眼か。前にも言ったけど、これももう一度言ってやる。揃って眼科行けよ。少しはマシになるぜ。 あ? でもあんた達の頭が可笑しいから眼科じゃ無理か。精神科行って性格矯正して来いや」


「てめぇ…っ!」


 言っている事を理解し、激怒した会長様が立ち上がろうとしたが、それを副会長が制する。


「流山四紀、貴方はやはり敵ですね。私は貴方を恐れません」


「へぇ……」


 いよいよ宣戦布告か。


「どんな手を使ってでも貴方方をこの学園から追い出して見せますよ」


「はっ! そいつはご苦労なこった。家の権力でも使うか? それともお前らに蔓延る親衛隊をけし掛けて来るか? 大いに結構。だが、あんた達は同時に風紀に喧嘩を売った事になるな」


「風紀ですって……?」


 言うと、奴等の顔が訝しげになる。ま、そうだろうな。こいつ等はまだ知らない。俺達が既に風紀委員だと言う事を。


「……さて、問題です。俺の制服の胸ポケットに付いているバッチは何でしょう?」


 こう言う事があるかと思い、制服の上着だけを持って来ていた。それは正解だった様だ。奴等は俺の制服の胸ポケットに付いているバッチを眼にして、驚きに見開いていた。


「まさか…貴方達が風紀委員? いや、そんな情報は…」


「ま、知らなくて当然でしょう。今日…いやもう昨日の時点で俺と吉永は風紀委員になったんだ。風紀と仲が悪いあんた達が知らなくて当然の事だ。風紀は此処最近のお前達の態度にいい加減頭にキている。風紀を乱すだけ乱してそのまま親衛隊を切り捨てる様な言動を取ったり。生徒会の武石だけが度を過ぎた仕事をしている事に対してもな。知っているか? あんた等が仕事をしないで遊びほうけている間に溜まった書類は生徒会役員でなければ片付かない仕事ばかり。それを武石が一人で頑張ってやってるんだ。今にも倒れそうになりながらな。でも止めない。何故か分かるか?」


 そこで俺は一旦言葉を切る。此処からが言いたい事の本番だからだ。


「書類が止まると、各方面の運営状況にストップが掛かり、機能しなくなる。生徒が楽しみにしている模様し物なんかもな。それが潰れてみろ? 生徒達の不満は一気に爆発。幾らあんた達でも抑え切れない最悪な事態に突入だ。現在、生徒の多くがお前らに失望を感じている。お前らに対する信仰心とやらも薄れている奴まで現れている。歴代生徒会でも武石以外、最悪の評価を持った生徒会だぜ、お前ら」


「……そんな物好きに言わせておけば良い」


「そーだよ! 僕達は好きで生徒会になったんじゃ無いし~」


「やってやてるだけ有難く思えって感じ~?」


「だよね~」


「好きでやってるんじゃ……ない…」


「私達だって一生徒です。私達を頼りにせずにすれば良いんですよ」


 …本当に駄目だな。こいつ等。


「てめーら。本当に何様? そもそもその役目を受け入れたのはお前達自身だ。トップになって置きながらそれを今更投げ捨てるだと? 愚かな考えも大概にしろよ? だからてめーらみたいなのは絶対に己の会社を潰すんだ。周りの状況を良く見やがれ! 愚か者どもがっ!! 一度受け入れたからには最後まで遣り通せ! じゃなきゃ貴様らの相手何ざご免蒙る。やる事やってからもう一度宣戦布告に来いや!」


 言い切ると俺は立ち上がった。そして玄関へ続く廊下の扉と外に続くドアを開くと戻って来た。


「とっとと帰りな!」


 そう言うと俺はまず、近くに座っていた奴等から蹴っ飛ばして部屋の外へ追い出して行く。素早く動いている為に、普通の動体視力じゃ俺の姿を見る事すら出来ないだろう。


 蹴り飛ばした際に、順番は決めてあった。一番体が頑丈な会長、次にわんこに副会長二人、そして最後にドッペルゲンガーの順だ。これで怪我も無い。何せ、そこまで力強く蹴ってはいない。会長の腹が潰れるだけだ。


 途中「ぐふっ」とか「げふっ」とか聞こえたけど、気にしない。馬鹿を気にするだけ無駄。


 そして全員が部屋の外に出たのを確認すると俺は奴等を見下すように見下ろす。その時、殺気も混ぜた。


 その瞬間、痛みに呻いていた奴等の表情が固まった。ふん。だからお子ちゃま何だよ。族だか何だか知らないが所詮遊びの延長でたかが知れた殺気しか身に付けていない奴等に本物の殺気を体験した事何かある筈がねぇ。だから俺は意図して普段は隠している殺気を込めたんだ。


 これが本物の殺気だ。今の内にしっかりとその体に覚え込んでおきな。もっともこんな殺気、俺からすれば戯れレベル何だが、お子ちゃまにはこれで充分だ。


 顔を青褪めさせた生徒会連中を俺は見下ろす。冷たい視線を向けたまま。


「一昨日来やがれ」


 それから勢い良く玄関を閉めた。勿論鍵も掛ける。奴等の事何ぞ知った事か。



 部屋に戻ると吉永が近寄って来た。


「流山、大丈夫?!」


「だああああああっ! あの連中マジウザい! 本当に死ねよ! 揃いも揃って歩、歩ウゼェェェェェ!! 気軽にトップ捨てんじゃねぇよ糞がっ!」


 今まで思っていた事が一気に吹き出た。深夜を過ぎた時間だが、防音ばっちりなので俺の声は他の部屋に聞こえはしないだろう。


「確かに…。あれは無いよね……」


「だろ…っと。お前の方は大丈夫か? 顔色、まだ少し青いぜ?」


「うん。何か条件反射になってるみたいなんだ…。でももう、大丈夫。ごめんね、何も役に立てなくて」


「仕方ねーさ。奴等にされた事を考えるとな。しかし、あいつ等のアホさ加減には本当に参った。あそこまで馬鹿だったとは正直思っても見なかった……」


「あそこまで酷いとは思って無かったんだけど…」


「ま、俺が流山の血筋ってまでは分かったみたいだけど、本家の血筋ってのまでは調べられなかったみてーだしな。情報網薄すぎて、底が見え過ぎ。正直相手すんのもかったりー…」


「これで流山の言った事が少しでも伝われば良いんだけど………」


「無理だな。こりゃあ、恋は盲目過ぎて奴等幻想世界にどっぷり捕まってる。抜け出すには刺激か何か与えないとな。だが、それこそ俺達がする事じゃねぇ。俺達は明日からの風紀の仕事に専念すれば良い。そうすればいずれは生徒会役員も武石以外はリコール出来る準備が整う筈だ」


「……そうだね」


「俺達の戦いはもう、始まってるんだ。奴等が改心しない限り、これに終わりは無い」


「流山………」


「………くっくっくっ……。楽しみだなぁ…。奴等がどんな手を仕掛けてくるのか…。場合によっちゃあ派手な反撃も出来るし、ストレスも解消出来て一石二鳥だ」


 先程の事で俺の我慢値は遠の昔に迎えていた。だからこれ位の言葉は許されるよな?


 吉永はそんな俺から一歩引き、わたわたと周囲を見回して居た様だが。


「お、落ち着こう。ね、ね、ね? 今日はもう寝よう。そうしよう。なっ!」


「そうだな……」


 こうして俺達の長い一日は終わりを告げたのだった。

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