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プロローグ

 はっきり言ってうぜぇ…。


 そんな感情がこみ上げていた。



 俺流山四紀ながれやましきは全寮制私立新堂学園に所属する二年だ。右を見ても左を見ても良い所のお坊ちゃん連中しかいないそんな学校。

 偏差値も高く、進学率もほぼ100%。良家の子息達の間ではこの学園を卒業する事が一種のステータスになっているらしい。

 そしてここは学校と言う名の社交場でもある。

 権力の弱いものは強いものとの繋がりを持とうと、日々奔走する。

 そう言った事はまだ良い。むしろ将来の為にそうしとけと、思う。

 だが、この学園の特殊性はまだ終わらない。

 此処は中等部からエスカレーター式でしかも全寮制。

 考えても見ろ?

 下界と切り離されたこの学園にははっきり言って男しかいない。

 思春期の奴らにそんな檻の中だけで過ごさせて見ろ。此処では男が男を抱く事になるのだ。

 確かに昔、戦国武将は戦に行く時は男の小姓つけては夜伽の相手をさせていたと言う話もある。

 だからと言って、男に走らなくてもいいんじゃねぇ? って言うのが俺の感想だけどな。

 何せ夏休みや冬休みは実家に帰れるんだし、それに日曜日だけは下界へと行けるバスも出ている。

 会おうと思えば幾らでも女の子と会う機会だってあるんだ。

 此処までくればお分かりだろう。

 そう、この学園には9割の確立でホモやバイがいる。そして俺の様なノーマル思考はほんの1割程度。

 俺は自分に火の粉が降り掛からないのなら男同士でも好きにいちゃついていてくれと言う考えの持ち主なので偏見は無い。

 そんな学園なので、かなり特殊な校風だ。

 俺はこの学園に中等部から放り込まれた。家長の命令で。

 じゃなきゃあこんな下らなくてアホらしい学園何かに来るつもりはなかった。

 俺がこの学園に来る羽目になった理由。

 それは俺の”君主”探しに原因があった。

 そもそも俺の実家は戦国の時代から今の現代まで脈々とその血を受け継いで来た歴史の長い家系でもある。 それが更に特殊で、現代に子孫何ているのか? 何て疑問を持たれるであろう家業の末裔。

 そう。現代に生き残る忍者なのだ。

 もはや珍種の部類に入るが、生き残っているのだ。

 しかも数は少ないが俺の一族以外にも家系が何箇所か残っている。

 俺は直系の四男とは言え、後継者を継げる位置にいる為に、忍者になる為に幼少の頃より厳しい修行や、術の使い方、更には現代の文明の利器を使った情報収集といった事をスパルタ教育で受けた。そりゃあ、血反吐を実際に何回も吐いた。そのお陰でその技を身に付けたのだが。

 忍術は元々暗殺をも請け負う為、より早く、より迅速に人の命を絶つ術も持っている。

 この平和な現代にそんな事が必要なのか。

 否そう言った依頼は未だにあるから恐ろしい。昔に比べたらそうした依頼も減ったがそれでもある。

 だから暗殺のプロにとって学園内の喧嘩自慢とかはまだまだお子ちゃまにしか見えない。

 話がそれたがそんな忍術のプロフェッショナルとして鍛えられた俺がこの学園に来たのは俺が仕えても良いと思える主探しの為だ。

 俺は更に特殊な事情があった。確かに俺は本家の血筋を引いている。だが、上に既に三人兄おり、更に俺の下にはは妹と弟もいて、俺は当主を継ぐ機会は巡って来ないだろうし、一応の予備軍とは言えお気楽な立場に生まれた。

 …にも関わらず厄介な事に、我が家の血筋に時折生まれてくる異能力を持って生まれた。

 しかも過去振り返っても類を見ない程の高い能力を誇っているらしい。

 我が家の血筋には確かに陰陽道の一族の血も流れていたから出ても可笑しくはない。けれど何故俺にそんな能力が発現してしまったのか理解に苦しむ。ごく普通の忍者でありたかった。

 能力を持った俺は一族の中でも主君と言うのを絶対に見付けなければならない。それは掟。

 それは主従の契りを交わすと同時にもし、俺の能力が暴発した時、止められるのが主となった者だけだからだ。

 相手に能力があろうと無かろうと、主の命によって暴発を押さえ込めるのだ。

 だから俺は他の一族の者達と違い主君を見付けなければならない。

 そしてこのお陰で俺は学園に放り込まれた。主君を見付けて来いと。

 確かにこの学園の連中だったら血筋が確かな奴や上流階級に属する奴が沢山いるだろう。

 だが、俺の主探しなんぞ中等部に入学した当初で止めた。

 何故ならこの学園にはまともな奴がいないのだ。本気で仕えたいと思える様な奴がいない。

 親友とか友達とはまた別問題なのだ。

 だからそう言った事は早々に放棄し、今は流されるままに高校二年になるまで過ごして来た。

 平和な物だ。

 学園内での俺は影の薄い存在で…意図してそう言う風に装っているが、クラスにそんな奴いたっけか? って言われる程影が薄い。それに己の容姿は極々平凡で、この学園の連中が目に付ける様な顔なんてしていないのだ。それも幸を奏したのだろう。

 それこそ親しい友人なんぞこの学園にはいないが、悠々自適な快適生活を送れるのだからおれは平凡な容姿に生まれた事に感謝した。

 この学園のおかしい特色その2。

 学園に在籍する奴らは総じて美形が多い。

 それも多種多様の。

 特権階級の奴らは得てして何故か美形が多いのだ。平凡舐めるな、こら! と言いたいがそれは物事を有利に運ぶ為には最大の武器にもなる。くのいちが己の体を武器にするのと同様に顔は特権階級の奴等にとっても命だ。

 此処は男子校の筈なのに朝から手鏡を持って唇にリップグロスを塗る女の様な容姿をしたチワワみたいな奴。もう一度言おう。此処は男子校だ。何故に男子校でリップグロスを見なきゃならんのだ。

 そんなチワワ達に媚を売るマッチョな男達。顔は普通だがその体格に物を言わせる奴ら。

 そして普通に美形な者ども。

 はっきり言って日本の何処にこんだけの美形がいたのだろうか。そうか此処は異界だったか。

 そして痛い事に…。

「きゃああああああああああああ!!!」

 クラスに女子の悲鳴みたいな声が上がる。

 ああ、もうそんな時間か。

 彼らが悲鳴を上げ、見つめているその先にはこの美形が集う学園の中で更に華やかで特権階級の頂点に立つ奴ら…通称生徒会のお出ましだ。

 周囲は奴らを恍惚した表情で見ている。

 俺からしたら同じ男をそんな表情で見るなだが、この学園はホモやバイの巣窟。

 そんな奴等からしたら生徒会等格好の餌食。

 辺りを見回すと興奮しきっているチワワみたいな野郎。そしてハアハアと気色悪い息を吐き頬を染めつつ見やっているムキマッチョ共。こいつらは皆、生徒会の親衛隊の奴等だ。

 親衛隊。

 痛い事その3。

 この学園の生徒会は世間で言うアイドルグループ。学園アイドル達なのだ。そんな奴らには必ずと言って良いほどファンが付く。しかもかなり粘着質。遠くのアイドルより身近なアイドル。

 画面越しで見る、手の届かない本物のアイドルよりも近くにあって、その上家柄も財力も確かな奴ら。運が良ければ見初められ、学園を卒業した後も付き合いが約束される。

 なので、それぞれが生徒会の奴等に近付こうと大奮闘。

 しかし親衛隊には厳しい罰則がある。

 一言で言うと抜け駆け禁止。

 破った者には制裁と言う名の暴力。酷い時にはリンチされた上にレイプされ、学園を退学して行く様だ。

 しかもそれは本当に些細な事で、生徒会の方々から直々に話しかけられた。しかも容姿が劣ってる許せない…ってな理由だけで始まる物だからたまった物では無い。

 痛い。本当に痛々しい。

 見た目以上に性格がブスな奴らが山ほどいるこの学園で主を探せと言われてもはっきりと無理と言おう。生徒会の奴等だって容姿とその手腕は見事な物だが、決して褒められた様な性格をしていない。人間誰しも欠点はあるが、それとは別次元の問題だ。何より俺の中に流れる血が奴らとこの学園の殆どの奴らを拒否している。

 そんな理由で俺は己の存在をひたすら隠しながらこの学園を卒業する日を待っている状態だった。

 家からは早く主を見つけろと言う催促が来ているが無理と一筆書き、無視している。

 こんな所で生涯仕える主を決めてたまるか。

 だが、そんな平和で目立たないひっそりとした生活が突如壊される事になるとはこの時の俺には想像も付かなかった。

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