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3-4

 

 セレイガは右手でこめかみを押さえながら、必死で気持ちを鎮めていた。

 立川の目の前で無様にしゃがみ込んで、変に思われたかもしれない。


 ただ、興奮が、喜びが抑えきれなかった。


 守ってください、と立川に言われた。

 守ってと頼まれたのだ。


 初めて許可を得たのだ。

 セレイガのユニコーンを守る許可を、得た。

 はじめてセレイガは堂々と彼女を守ることができる。


 セレイガは彼女の足元に跪き、隠しながらも歓びに震えていた。

 初めて立川と出会い、彼女に跪いた時から、セレイガは彼女のために何かを成すことを許されたことは無かった。立川のためにしたいと思ったことは全て拒否された。


 彼女は何もしない。


 セレイガに対して、何もしない。

 ののしることも、憎むことも、許容することも気付くこともしない。ただ柔らかな風のように、つかみどころなくセレイガの全てを拒否した。


 彼女はいつでも、自覚なくセレイガの存在を無視する。彼がどんなに強く彼女を意識していても、パテリュク王朝が彼女に迷惑をかけても、彼女は一瞬だけちらりとこちらを見て、そしてすぐに忘れる。

 風のように、憎しみや執着のような重苦しい感情を、持ち続けることを拒む。


 セレイガはこんな状況でありながら、体を張って立川を守れることに、喜びが抑え切れなかった。


 セレイガがしゃがみ込んでいる目の前の地面には、今まで立っていた立川の足跡が残っている。体重がないかのように、かすかに彼女の小さな靴の形に、地面はへこんでいる。

 セレイガは、彼女の靴に口付けることすら許されたことがない。

 先程まで彼女を抱きしめるように浮き魚に二人乗りしていたが、緊急事態でもなければ彼女に触れる機会すらない。


 まだ彼女の、小さな体の柔らかさを覚えている。いつでも後ろから見ていた、ふわふわの彼女の栗色の髪の、感触をまだ覚えている。

 セレイガは立川がこちらを見ていないことを確かめてから、膝を付いて地面に顔を近付けた。


 地面の立川の靴の跡に、そっと顔を近づけて。


 美しいものにそうするように。

 貴いものにそうするように。

 そっと、そっと口付けた。


 そのわずかな接触に、彼がどれほど重くてドロドロと熱い感情を込めているか、彼女が気付くはずもない。


 セレイガは余韻に浸るように小さく微笑むと、立ち上がって立川の方へ向かった。


「立川君、何か手伝おう」


 彼女は浮き魚を覗いて何かを確かめていた。セレイガが呼ぶと、はっと振り向いてにっこり笑った。

「セレイガさん。もう大丈夫なんですかー」

「ああ、大丈夫だ。すまない」


「浮き魚、木とかにぶつけちゃったんで、壊れてないか見てたんです。

 多分何ともありません。どこもへこんでないんで、浮き魚の衝突防止装置が上手く働いたみたいです。流石にすごいなー、学園のハイテクは」


 立川はにっこり笑って言ってから、表情を一変させて心配そうにセレイガを見た。

「セレイガさん、よく見るとたくさん怪我してますよー。ごめんなさい、私自分のことで精一杯で気付かなかったんですー。ここまで来る途中、森の中で水面が光るのを見たんです。今、この近くに池か川があると思います。とりあえずそこで、手当てをしましょう」


「俺は、大した怪我ではない。そんなことは、気にしなくていい」

「セレイガさん」


 立川はわがままを言う子供にするように呼んで、困ったように笑った。

「なんにせよ、水は必要ですよ。水筒も空っぽに近いし。

 もしかしたら先生達は私達を見張っていなくて、私達はここで遭難して、しばらくここで暮らさなきゃいけないかもしれませんよー。怪我だって、少しでも早く手当てしないと」

 立川は笑いながら言った。


 セレイガははっと頷いて、何も考えていなかった自分を恥ずかしく感じる。


 セレイガはこれまで怪我をしたことは何度もある。大怪我をしたことだって、何度も。

 しかし治療について考えたことは無い。

 故郷に居たころは側仕えや家臣が大慌てで治療をさせるし、学園では教師の指示に従えばよかった。セレイガは周りに言われるまでは痛くても我慢して、黙って待っていれば良かった。


 殺伐とした暗殺事件には慣れていても、自分の面倒を自分で見ることに関しては、セレイガは全くのお坊ちゃん育ちだ。立川にまで尻拭いをさせて、本当に恥ずかしい。

「了解した。迷惑をかけてすまない」


「セレイガさんの怪我は私を守ってくれたせいなんですからー」

 彼女が笑ってそう言うと、セレイガは慌ててこめかみを手で隠した。


「セレイガさん?」

「……いや、何も」



 立川が浮き魚に乗り込むと、セレイガは出来るだけそっと彼女の肩に掴まり、その後ろに立った。浮き魚はふわりと浮き上がると、かなりゆっくりのスピードで進み出した。



「立川君、ここは、何だろうな」


 セレイガは浮き魚を運転している時は、必死なので話すことも出来ないが、立川は平気で話す。セレイガは柔らかい彼女の肩に動揺しながら、気を紛らせるように話しかけた。


 豊かな森だ。

 人の手の入った、程よく間隔を空けて植えられた木。木には見たことは無いが食べられそうな実が成り、平和そうに鳥が鳴いている。こんなに豊かな森なのに、大型肉食動物の気配が無い。小動物も、人間に怯える様子が無い。

「妙な動物が多いですよねー。って、え? あっ」


 二人の目の前を鳥が横切っていった。



「と、鳥?」


 その鳥は、宝石で出来たように透き通っている。キラキラと真っ赤に輝き、飛んだ軌跡にチラチラと、輝く光の粒を残して去っていく。


「なんだ、あれは」


 セレイガもしばし、呆然とした。

「メルヘンですよねー。兎には羽が生えてるし、狸だかアライグマだかには何本も尻尾が生えてましたし」


「ああ、あの兎には驚いた。あんなに大きな兎は見たことが無い」


「え? あの兎、そんなに大きかったですか。むしろ小さいくらいだと思いましたけど」


 かみ合わない会話に、セレイガは少し考えながら答える。

「世界によって、動物も様々みたいだな。学園の敷地内に居る動物も、俺の知っているものとは少し違う」


「学園の敷地内に居る動物は、多分どの国出身の生徒がみても、あんまり驚いたり怖がったりしない動物を選んで飼ってるんでしょうねー」

 セレイガはそうかもしれない、と思った。


 地球世界出身者は、妙に教師や学園側の思惑に対して、うがった見方をする。


「ということは、ここは、学園の所有する動物園というか、牧場ですね。どこかの国出身の生徒が見れば、すごく驚くような動物がここで飼われてるんです」

 セレイガはもう一度、そうかもしれない、と思った。



 二人の乗る浮き魚はスムーズに走って、目の前がぱっと開けた。

 目の前に広々とした水辺が広がった。水面がキラッ、キラッと光を反射する。そこは池というよりも湖だった。それも、美し過ぎる程美しい。


「あっ!」

 立川が突然浮き魚を方向を変えた。ゆっくりしたスピードのまま、方向を変えて森の中に戻ろうとする。


「どうした、立川君」

「あそこに、大きな竜が居ます」


 湖には様々な動物が水を飲みに来ていた。その中には、どっしりと緑色のトカゲが寝そべっている。人間が五・六人乗れそうな体格で、立派な大きさだ。


「立川君、あれは草食だ。大人しいし、怖がることはない」

「セレイガさん、知ってるんですか?」

「ああ、人間が乗るような安全な生き物だ。竜じゃない、単なるオオトカゲだ」


 そろそろと立川はまた方向を変えて、湖の淵に沿って走った。


「竜じゃないって、セレイガさんの国には竜が居るんですか?」


 竜は、小さいものでもあの大トカゲの十倍はある。馴らすのが難しいが非常に速く飛び、大トカゲよりもずっと高価な乗り物だ。

「竜は居るが、立川君の世界には居なかったのか?」

「はい」


 大トカゲとは湖をはさんで反対側に降りるつもりらしい。浮き魚は湖に沿って、大トカゲから離れていく。


 地球に竜が居ないのならば、なぜ彼女は大トカゲを恐れるのだろう。


「セレイガさん。ここって、虎とか居ませんよねー」

「虎が居たら、困るのか?」

「え、その、襲われたりすると怖いですよー」

 セレイガは虎を嫌う女性を見たことが無い。


「おそらく、ここに居る動物達の様子だと、危険な獣は居ないだろう」

 掌に乗る小さな愛らしい形から、虎は女性に大人気の愛玩動物だ。セレイガは虎を嫌う女性を見たことが無い。


 世界によって動物も様々なのだろう。



 湖の反対側まで来て、浮き魚は着地した。水辺から少し離れたところに浮き魚を置くと、二人は湖を覗き込んだ。キラキラと輝く美しい湖面。それは、人工的には作れそうにない美しさだったが、自然な美しさでもなかった。


「この水、飲めますよねー?」


 立川は呆れたように呟いた。湖はキラキラと七色に輝いている。宝石を散りばめたように色とりどりに光っている。


 水自体が。


「何が入ってるんでしょう」

「動物が平気で飲んでいるから、ただの水だと思うが。気休めだが確かめよう」


 セレイガは袖口の中に入れていた赤い宝石を取り出して、水の中に落とした。


 本当に、この探索魔法は意味が分からない。魔法というよりも占いのようだ。正しいのかどうかは分からないが、何もしないよりはましだろう。紐を伝って魔力を宝石に届ける。

 赤い石は水の中でゆらゆら揺れながら回る。

「……丸だな」


 立川はセレイガが魔法を使っている間に、浮き魚から薬や包帯を入れた箱を持って来た。

「どうでしたか?」


「普通の水では無いが、悪いものでもないと思う」


「むしろ悩みますね。飲むのは戸惑いますけど、傷を洗うくらいは良いですよね。セレイガさん、怪我はどこですか?」


 セレイガは頷いて上着を脱いだ。サルシュの氷魔法は、首や心臓狙いだったので上半身にいくらか傷がある。しかし首や心臓の周辺には、服に金属板が縫い込まれているので、そこに傷は無い。

 セレイガは肌着の腕を捲り上げ、湖に浸けた。軽く流す。チリッと傷口に痛みを感じて、はっと腕を引き上げた。

「なんでもありだな」


「セレイガさん?」

「怪我が治っている」


 立川はきょとんとしてセレイガの腕と顔を何度か見比べてから、ふっと笑った。


「本当に? この学園て本当に、無駄に便利ですよねー」

 立川はにっこり笑う。


「でも、治って良かったです」


 セレイガはこめかみをぱっと押さえた。


 今のは分かっていた。もう既に予想できていた。光ると思っていた。


 掌の下では聖痕が、煩いくらい喚いている。本当に、飼い主に撫でてもらったトカゲの尾のようだ。セレイガは、誤魔化すように聖痕を撫でながら気持ちを落ち着ける。


「立川君、手や足を浸けておいたほうが良い。長い間歩き回って、足も痛むだろう。飲んでも別に問題ないと思うが、反対に健康になるかもしれない」

「飲んだら超人になるかもしれませんよー。分かりました。そうしますね」



 セレイガはタオルに湖の水を含ませ、傷口を拭う。

 靴や靴下を脱ぐ立川から目を逸らして周りを眺めていた。

 この森は本当に美しい。湖畔のこの辺りなど、物語の中に出てくる一服の挿絵のような風景だ。


 ふと、頭上を横切った影に気付いた。新しい動物が水をのみにやって来たらしい。セレイガは顔を上げた。あれは、空を飛ぶ、馬だ。


 タトンッ、と馬は軽やかな音をたてて、二人のすぐ近くに降り立った。


 美しい馬だった。真珠を砕いたような、まろやかな黄色を帯びた白い肌。完璧なバランスを誇る、スマートだが力強い足と胴のプロポーション。その馬も、この地にいる他の動物達と同じく、ちょっとありえない美を備えていた。美しすぎるほど美しい、夢のような。

 くっとかかげた誇り高い頭、知的な黒い瞳、濡れたような黒いたてがみ、黒い角。



「立川君。すごい馬だ。まるでユニコーンだ」

 セレイガは少し興奮して立川に話しかけた。


 しゃがんで掌を湖面に浸していた立川は、言われて白い馬に気付くと、はっと立ち上がった。


「セレイガさん、ユニコーンですよ。まるでじゃありません、ユニコーンですよ。あれがユニコーンでしょう」


 言われてセレイガは、まじまじとそれを見る。


 確かに、まるでではなく、一角獣だ。サルシュを含めて、パテリュク王朝出身の生徒達がこのユニコーンを見れば、なんとしてでも捕獲して自分のものにしようとするだろう。それでは、この馬を普通に学園で飼育する訳にはいかない。


「そうだな。こんな馬がこの学園で普通に飼われていると分かったら、わが国は大騒ぎになるだろう」

 この地はこのユニコーンのように、どこかの国の人間に見せては問題のある動物を飼育する牧場なのだ。そして、パテリュク王朝出身の生徒が学園に居ない時期には、ここから出して学園でちょっと珍しい乗り物として、騎乗や飼育の授業で生徒を乗せるのだろう。


 先程見た宝石のような鳥も、セレイガには見慣れた大トカゲも、どこかの国の生徒には伝説の生き物なのだろう。だからこんなにも、夢のように美しい動物が多いのだ。そしてこの美しい角の生えた馬も、どこかの国の生徒にとってはありふれた家畜なのかもしれない。


「それにしても、この馬がユニコーンか」


 馬はセレイガの故郷では、乗り物としてあまり一般的でない。セレイガの世界の馬はもう少し小さく、トカゲの方が人を乗せるのに適している。それに柔らかい草しか食べない動物なので、旅の間に餌の調達に困るのだ。

 馬は上流階級の家で、子供達がよじ登って遊ぶ愛玩動物というところだ。


 それでもこれ程美しく立派な馬では、自分のものにして乗りこなしたい気持ちになるのも分かる。


「セレイガさん、ぼーっとしてる場合じゃありませんよー。早くしないとユニコーン、どこかに行っちゃいます」

 立川はそっとセレイガの肩を突いた。


「……早く?」

「早く捕まえないと。伝説のユニコーンですよ?」

「だが学園の飼育する馬だ。何かの思惑で隠しているんだろう。勝手な真似をするわけにはいかない」

 大体、今捕まえたところでこのような大きな生き物を、学園に気付かれず飼う訳にも行かない。


 立川はきゅっと眉をひそめて急に険しい顔をした。

「勝手な真似って、今更」


 小さく立川は言ったが、すぐににこやかに微笑んだ。


「それじゃあ今のうちに、誓約だけでもしたらどうですか? 誓約までしたら、学園だって無下には出来ないんじゃないですか」

 セレイガは立川が言っていることがよく理解できなかった。


「立川君。誓約は一生に一度のものだ。俺は既に一度君に誓った」

 立川は誓約についてよく知らないので、勘違いしているのだろうとセレイガは思う。


「二回試した人が居るんですか?」

 居ない。むしろ英雄王以来、誓約を行った人間自体、歴史上に記録が残っていない。

「だが、そんなこと」


「それにー、私への誓約は失敗したんですよね。カウントしなくていいんじゃないですか」

「失敗ではない」


 セレイガは即答した。


 決して激しくない声だったが低い声が出て、立川は怯えたように小さく震えた。彼女にそんな声で話しかけたことをセレイガは後悔したが、立川はすぐに立ち直ってにっこり笑った。

「失敗したから、セレイガさんは魔力を失ったんじゃないんですか」


 セレイガは、立川に誓約に関することをほとんど告げていない。告げれば徹底的に拒絶されるだろうと予測できるから言えなかった部分もあるが、二人で個人的な話をする機会など無かったせいもある。

 ならば彼女は誓約に関して、パテリュク王朝の人間が話したことしか知らないのだ。


 セレイガにとっても誓約は、実際に行ってみるまでは何も分かっていなかった。誓約した後も、色々なことに混乱してろくに理解できなかった。必死で調べてこういうことだろうと目星が付いたのもつい最近のことで、それも決して確かなことではない。



「俺達の間の誓約は失敗したのではない。立川君、君が、拒否したんだ」

 そして今まで拒否し続けている。


 セレイガ以外の人間にとっては、失敗も拒否も大して代わりは無いだろうから、特に説明はしていない。立川が拒否したせいだと分かれば、立川の身に危険が及ぶこともあり得る。


「私のせいだって言うんですか?」

「そうではない。元々誓約には、相手に断る権利があったんだ。立川君はそれを行使した」

 立川は困ったように首を傾げた。


「それじゃあやっぱり、ユニコーンに誓約したらいいんじゃないですか。私は断ったんですから」

 立川が断っても、セレイガにとっては無かったことに出来なかったから、今があるのだ。

 だがそんなことを言っても、立川は納得してくれそうには無い。


 セレイガは、あの白馬に誓約できない他の理由を探した。


「立川君、あの馬は、馬だ。俺は、馬には跪けない」


 しかもなんとなく、あの馬は雄である気がする。……こちらを言った方が良かっただろうか。


「はあ?」

 立川は疑問の声を上げた。全く意味が分からないという様子で。

「私には跪いたじゃないですかー」


「立川君は、ユニコーンだ。あの馬をユニコーンだと思う人間は居るだろう。しかしそれは、俺ではない。俺のユニコーンは、君だからだ」


「あの誓約は、別に人違いという訳じゃ無かったって、言うんですね? 私は本当に、あなたのユニコーンだって言いたいんですね?」


 そうだ、とセレイガは頷いた。


 立川はちらりと、冷ややかな目でセレイガを見て、ふうと溜息を吐いた。

 その目は、地球世界出身者たちの、軽蔑の目だった。セレイガには、どうしてそんな目で見られるのか分からない。



 立川は呟くように言った。

「セレイガさん、あの時なんて言ってましたっけー。私、この世界に来たばっかりで、言葉も良く分からなかったんですけどね。何からも私を守ってくれるって、言ってましたよね。あの言葉は、間違って言ってしまった訳じゃなかったんですね」


 いつも風のように笑っている立川。風のように笑っていながら、瞳の奥には冷たい軽蔑の色を秘めている。彼女はにっこりと笑った。

「私を、何からも守ってくれたことなんて、なかったくせに?」


「……君の許しが無かったから」


「私のせいだって言うんですか? 許可が無ければ出来もしないような誓い、本当に役立たずですよね」


 彼女は冷たい風のような軽蔑の目で、ちらりとセレイガを見た。それから、ふわりと笑った。

「馬にでも、跪いてて下さい」



 セレイガの聖痕が発光した。


 セレイガの体が勝手に動き出す。

 重い体が妙な軋みをたてながら、ゆっくり馬に近付く。


「立川君」

「跪きなさい」


 ガスン。セレイガは壊れた玩具のように、妙な動作でその場に跪いた。


 こめかみが、熱い。



「うふ、うふ、うふふふふ」


 声が聞こえて、セレイガは慌てて立ち上がって振り返った。


 立川は瞳に残酷な輝きを浮かべ、心から面白そうに笑っていた。

 それは、女神のように美しい、彼女の笑顔だった。




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