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“好き”の代償は……

作者: 小豆色

 唐突ですが、私は今日「好き」と言ってくれる人を失いました。


 別れとはすなわち風です。

 気が付くと私の傍を既に通り抜けてしまっている。


 家の中にいれば当たりませんが、いつまでも家の中にいるわけにもいきません。

 そして、仕方なく外に出た時に風は吹くのです。

 それが明日か、来年か、それとも30年後かは分かりません

 運がよければそんな時は来ないのかもしれません。

 しかし、私は今日がそれでした。


 風を押さえつけることはできず、かといってかわすこともできず。

 私達はただ、現実を受け止めるしかないのです。


 離された相手は笑顔の素敵な、私にはもったいないほどの女性でした。

 塞ぎ込みがちな私をいつも笑顔で励ましてくれていました。


 仕事が嫌になってやさぐれていたあの時も、

 同僚と喧嘩をして落ち込んでいたあの時も、

 意を決して好きですと告白したあの日も、

 そして結婚しようと告白した、今日の朝も。


 今でも脳裏にその笑顔が焼きついています。

 口が滑らかな曲線を描き、目が細まって眉尻が下がり、八重歯が見え、

 頬に差す朱が眩しい、とてもやさしい笑顔が。


 残酷だ、などとは到底思いませんが、とても名残惜しいです。


 変、ですか?

 そうなんですか?普通、私みたいになるんじゃないんですかね。


 愛する人と別れた後なのに、やっぱり落ち着きすぎですかね……。

 でもですね、私も思うところがあるんです。

 それは……


 へ、“当ててみる”……ですか。別に良いですけど。


“仕事に集中できるから”?

 いいえ、違いますよ。

 そこまで私も仕事一筋ではないです。


“新しい恋人ができていたから”?

 いやいや、私が愛するのは先にも後にも彼女一人ですよ。


“金が掛からないから”?

 ……私って、そんな薄情な守銭奴に見えますか?


“……そこまで彼女に執着がなかったから”?

 いいえ、私は本気で彼女を愛しています。


 うわ、先輩、当たらないからってそんなに怒らないでくださいよ。

 言います!答えを言いますから!


 ……コホン。確かに、「好き」と言ってくれる彼女はもういません。

 でも私は悲しくありません。






 だって彼女は、「愛してる」と言ってくれるお嫁さんになりましたからね。






 矛盾してるって?いいえ、してませんよ。

 あくまで好きは恋人に贈るための言葉で、愛してるは夫や妻のための言葉です。

 そして「恋人としての彼女」と今日別れ「妻としての彼女」と出会ったわけです。


 恋人のように甘酸っぱい生活が終わりだと思うとなんだか残念な気分もありますが、

 家庭を持てて私は今はとっても幸せです……って、先輩どうしたんですか。

 へ、“彼女と死別したかと思った”って?

 ちょっと、勝手に殺さないでくださいよ。ピンピンしてますって。


 ……まだ分からないですか?からかったんですよ。

 好きの反対は嫌いですが、好きと引き換えになるのは嫌いではなく愛してるです。

 まあ、言葉のあやってやつです。


 あ、ちょ、無言で仕事追加しないでください!

 謝りますから!残業は、残業だけは勘弁してくださいぃ!

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