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破壊者たちの黄昏  作者: 内海むま
第一話 契約
8/15

「どうでもいいよそんなの」

 零一はまず右側を見やった。

 先ほどのバースト攻撃を受け、気絶している大型の蜂が一匹。そこまで走って、頭の上で右足を振り上げるイメージをしながら二本の操縦桿を操作する。イメージは間もなく現実となり、ベレトは気絶した蜂の頭に向かって右足を振り上げる。今度は踏みつぶすイメージをしながら、右のペダルをぐぐ、と踏み込む。ベレトの右足が蜂の頭部を踏み抜く。べちゃり、とした感覚が自分の足まで伝わってくるようだった。


 『ほう、はじめてにしてはスジがいいな。普通はもっとブレるものだが』


 通信機からの声。心なしか嬉しそうだ。構わず、背後を振り向く。同様にバーストで吹き飛ばされ、校舎の下、グラウンドまで落下していたもう一体が、気絶から回復したのか今頃飛び上がってくる。

 

 「にしても、さっき喋っているうちによく襲われなかったもんだ」


 零一は相手をまっすぐに見据える。先ほどの男がやっていたように、右腕、チェーン付きのクローを撃ちだすイメージ。


 『それに関してはこいつらの生態に原因がありそうだな』

 「生態……?」


 引き金を引く。クロー射出。向かってくる蜂の胸部へ命中。

 

 『ああ。この怪獣は大規模な群れをなして行動するが、そのなかでさらに小隊を作っているようだ。狩場の中でも小隊ごとに活動範囲を割り振っている』


 そのまま右の操縦桿を引く。チェーンを巻き取るイメージ。


 『そして、何らかの原因で小隊が全滅すると、そこに外敵がいると判断し』


 チェーンに引きずられる蜂。その頭部をベレトの左腕が握りつぶす。

 その直後、


 『幾つかの小隊が集まって、外敵の排除にあたる』


 大型9体、小型は大量に。ベレトを取り囲むように飛来する。


 「……まじかよ」


 蜂達は怒っているのか、顎をガチガチ鳴らしながらベレトの周囲をぶんぶんと飛び回る。

 

 『ふむ。しかし狩りを終え、獲物を運搬している小隊が全滅しても救援は来ないようだ。同様に救援に向かうのも未だ獲物を確保していない小隊だけ。なぜだろうな。どう思う?』

 「どうでもいいよそんなの」


 零一は正面にいる一匹を見据える。どうでもいい通信に答えている余裕はなくなった。操縦に重要なのがイメージならば、他の事に頭を働かせたくなかった。


 『おっと、悪かったね。まあ頑張りたまえよ』


 彼の気持ちを汲み取ったのか、通信相手はもう喋らなくなった。これで集中できる。零一はイメージを組み立て始めた。とりあえず、小型は無視していい。さっきのパイロットがやったように、最後にまとめてレーザーで焼き払える。大型だが、これも無視できる範囲は無視してしまう。この機体の装甲ならばダメージはほぼ通るまい。怖いのは余計な機動で自分の魔力が削ぎ取られることだ。一匹一匹、確実に倒していくのが最善。

 彼は瞬時に思考を巡らせ、結論付けると同時に一歩目を踏み出していた。踏み出すと同時に、背部、その小さな翼のようなスラスターを展開。二歩目、大きく踏み出して、スラスターを軽く噴かせる。三歩目、大きく跳躍。正面にいた大型、その頭部を捉える。右手で握り、潰す。この間わずか1秒。

 バーニアを吹かせ、空中で反転。ロックオンサイトを二つ表示。最も遠くにいた二匹をロック、両手のクロー射出。敵は回避行動をとるが、クローについているバーニアが噴射し、追尾。命中。腕を引きながら、チェーンを引きつつ、クローのバーニア操作。さらに二体を巻き込む。チェーンで何度も絡めるように捉え、一気に引く。粉々になった四体が、落下。

 直後、背部から衝撃。一匹が顎で首に噛みつき、針を突き立ててくる。零一は正面を向いたまま対処。首の背部装甲だけに魔力を集中、バースト。魔力の衝撃により頭部を吹き飛ばされ落下する六匹目。

 残り三体。反撃不可能と悟ったか逃走を図る。

 

 「逃がすものかよ」


 スラスターを勢いよく吹かせ、一瞬にして三体の前へ。先頭にいる一体を蹴り殺し、残り二体、チェーンクローで撃墜。


 「あとは細かいの!」

 《待ってください》


 零一は小型蜂の群れをロックオンし、ホーミングレーザーを放つイメージをする。しかし、アイリの声がそれを阻んだ。

 

 「なんだよ」

 《実は、ホーミングレーザーはオプションで、この機体に本来備わっている装備ではないのです》

 「だから?」

 《ですからイレーネから私に入れ替わった時、デバイスドライバも消失してしまっているので、インストールしなおさないと使えないんです》

 「……つまりあれを一匹一匹つぶして行けと?」


 そうしているうちにも逃げてゆく小型の群れ。あれを追いかけ、さらに一匹ずつ潰してゆくとなると、いったいどれ程の魔力を消費することになるのか。

 大型より小型のほうがよほど恐ろしいと零一は思った。しかし、逃がす手はないだろう。追いかけなければ――


 『いや、その必要はない』


 遮ったのは再開された通信機からの声。そして、黒い雨が降り注いだ。


 「!?」


 雨ではなかった。それは真っ黒なレーザーだ。

 まさに無数のレーザーは、逃げて行く群だけではない。グラウンド、体育館、さらに屋上の床を破り校舎の中へ。

 それは学校の敷地内に残っていたすべての蜂を、ただの一撃で焼き尽くしてしまった。


 「な……」


 零一は息をのんだ。まだ生き残りの生徒がいるかもしれないのに、微塵の容赦も感じられない圧倒的な攻撃。もし、この機体に乗り込まなければ自分はどうなっていたことか。


 『ご苦労だったな少年。こんなにやるとは思ってなかったよ。上出来すぎるほどだ。満点をやろうじゃないか』


 ガチ、ガチ、ガチ。

 鉄を打ち合わせるような音。上空。雲を割くように、その真っ黒な影は、大げさに拍手をしながらゆっくりと降りてきた。

 悪魔だ。零一はそう思った。今乗っている機体とそっくりなその影。違いがあるのは、腰部分から長く延びたワイヤーのように細い尾、そして頭部。それはまるでヤギの頭骨のように細い逆三角形で、両脇から生える上に向かってねじれた二本の角がある。そして最後に、全身、どこを見ても真っ黒な塗装が施されていた。唯一瞳だけは真赤だったが、それが一層不気味さを醸し出している。

 あれは、紛れもない悪魔だ。乗っているのは先ほどから通信していた、あの冷たい声の女だろう。


 ――なんてことだ。


 零一は嘆いた。

 どっと、疲れが襲う。全身から汗が噴き出していた。


 ――自分は悪魔に魅入られたのだ。


 そう思ったのを最後に、彼は自分の意識を手放した。

お疲れ様でした。

わからないところが多々あると思いますし、短いですが、とにかくこれでひとまず第一章、完となります。

アニメにするとなんとか一話にできるくらいですかね?

とにかく、個人的な理由で申し訳ないですが、説明を何度も挟んで話の進行を止めるのが嫌いなので、この章で説明していない部分は、次の章以降でしっかり解説してゆきたいと思います。

アニメで言うと一話でとにかくアクションシーンを見せて、二話でいろいろ解説していくとかそんなパターンですね。

まあともかく、今後ともよろしくお願いします。

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