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破壊者たちの黄昏  作者: 内海むま
第二話 朝と夕
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「全てはこれからだ」

 そして二週間後……彼はやってこなかった。


 「因果だな……」


 朝月霧江はべリアルのコックピットの中でひとりごちた。

 二時間前、メガスの群れは再び街を襲ったという連絡が入った。被害にあったのは、結界の向こう側の世界だ。

 怪獣が襲うのは魔力のある人間ばかりではない。そんなことは1955年に解っていた筈だった。しかし、一度目の被害が魔法界でおきたことから、新設された国際怪獣対策機関『フォース』は、魔法世界での警戒行動に重きを置いた。

 それが失敗だったのだ。メガスは我々をあざ笑うかのように、人間の街を襲撃した。

 街の名は大阪。かつてこの国の首都であった地……。


 「アイリ、君の主人はまだ顕在か?」

 『はい。かろうじて……ですが』


 サブとしてセットされたもう一つの精霊結晶が明滅する。これはベレトから急遽移植されたものだ。

 あの少年。夕陽零一を主人とする、儚い意識存在。彼女はもはや魔力の供給を喪失し、消える運命にあった。

 被害にあったのは大阪にある『ひまわり園』という孤児院を中心とした半径1キロ圏内。

 襲撃は広範囲にわたり、軍との共同作戦を展開するも『フォース』のアタックチームは苦戦を強いられ、およそ1時間の戦闘行動のすえ、やはり数多くの蜂を取り逃がす結果となった。

 襲撃の中心地がその孤児院だと知らされたとき、霧江の心はざわついた。その名前には心当たりがあったからだ。そう、あの少年の、夕陽零一の育った場所だったからだ。連絡を取ろうとしたときにはもう遅かった。彼は先日、この孤児院を訪れた際に、フォース入隊の決意を固め、今日、別れのあいさつのためもう一度孤児院を訪れたのだ。

 そして、今度は死神の鎌から逃れられなかった。彼は友人たちと同じく、蜂のエサとなるべく攫われてしまったのだ。

 しかし、二つだけ幸運なことがあった。一つは彼が即死しなかったこと。もう一つは、彼がアイリと契約していたことだ。そのお陰で、連中の巣の位置を特定できた。

 メガスたちの巣は、結界と結界のスキ間。その次元の狭間にあった。

 『次元蜂』とよばれる魔獣の存在が、魔法界でもごくわずかな学者の間でだけ知られていた。彼らは次元の隙間に巣を作る性質を持っているが、それ以外は他の蜂と区別がつかないため、発見が非常に難しく、かつ見つけても本当にそうか特定が困難な種であるためだ。メガスはその次元蜂が怪獣化したものだった。

 事態は急を要した。巣の位置を特定はしたものの、次元蜂の巣は、巣ごと次元の狭間を流れるように移動していることが確認されたからだ。少年とアイリの繋がりだけが、蜂の巣を釣り上げるための、いつ途切れるかもわからない唯一の糸となったからだ。

 現行最強のスピリットフレームであるべリアルを中心に、メガスの巣を殲滅するための攻撃チームが急遽編成された。


 『次元削岩弾、着弾します!3、2、1、今!』


 轟音、同時、炸裂する七色の閃光。


 「さあ、行こうか」

 

 霧江は自身の契約精霊であるエリスと零一の精霊アイリという二つの同乗者に語りかけ、操縦桿を握った。眼前に広がるは次元の亀裂。奈落への入り口。

 あの少年はもはや助からないだろう。アイリもやがて消滅するだろう。そのことに、深い悲しみと怒りを覚えていた。

 こんな感情を抱いたのは久しぶりだった。長い年月の中で多くの死を見てきた彼女は、もはや死に対する感情がマヒしてしまっていたからだ。


 「それが似てたからかな、少年」


 久しぶりに思い出した強い負の感情。長い間喜と楽だけを抱いて生きていた不死身の少女は、今すべての己を思い出し、往く。


 「全てはこれからだ」

打ち切りエンドー


完結済みにしたせいかかつてないほどアクセス数出てワロタ

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