Episode:97
「あなたの物分りの悪さはよく分かりましたので、いちいち自慢していただかなくても結構です。それより、グレイシアを楽な状態で外へ出す方法はあるのですか?」
「ないな」
実も蓋もない答えが返ってきた。
「だいいちそんなに楽だったら、もう終わってる」
「――意味が少々違いますが」
首を切り飛ばしたくなるのを押さえながら、説明を試みる。
「あなたが楽なのではなく、グレイシアが痛みを覚えず楽に出られるか、と訊いているのです。そもそもあなたは仕事をする側なのですから、苦労があって当然でしょう」
「なんだ、そういう意味か。なら最初からそう言ってくれ」
「言っています」
ふと見るとルーフェイアが、申し訳ないという表情をしていた。
(そう思ってもらっても、こちらの負担は減らないのですがね……)
知らん顔をされるよりはマシだが、何の助けにもならない。
だがグレイシアと約束しているため、それをルーフェイアに言うこともできなかった。それに言えばまたあの子が怒って、身体に障る。
いずれにせよ、今すぐ帰りたいほどのストレスだ。
「で、可能なのです?」
「分からないな。羊水を切って呼吸が始まればよし、ダメなら急いで羊水を戻して――ん? いけるかもしれない」
何か妙案を思いついたらしい。
「――そうか、なんで気づかなかったんだ。魔方陣をそのままで羊水だけ切って、呼吸を待てばいいんじゃないか。外へ出すことなかったんだ」
「なるほど……」
違う魔法陣で治療することばかり考えていたが、考えてみれば何が何でもすぐに移す必要はない。一応安定している今の状態のまま呼吸を始めさせて、容態を見てから移しても十分に間に合う。
それでも事故はありうるが、いきなり外へ出すよりは確率が低いはずだ。
「これならすぐ行ける、準備しないと。誰か室温上げてくれ。あと布だ。毛布も要るな」
急に慌しくなる。
「タシュアでもグレイスでもいい、その子に説明してくれ。じゃないと羊水が切れない」
「分かりました」
タシュアはすぐに水槽の傍へ戻った。ファールゾンは気に入らない相手だが、事ここに至っては不満を言っている暇はない。
「グレイシア?」
少女はいつの間にかまた眠ってしまっていたが、タシュアが声をかけるとすぐに目を覚ました。




