Episode:95
「もしそこから出れば、治る可能性があります。ただ、とても危険です。出ただけで、死ぬかもしれません」
金髪の少女2人が、ちょっと首をかしげた。通じていないようだ。
「ルーフェイア、グレイシアは何と?」
「その、『死ぬ』っていうのが……分からないみたいで」
それはそうだろう。この年で、こんなところに閉じ込められて言葉さえ知らない状態なのだから、「死ぬ」などという概念が分かるわけもない。
だが、ある程度でも理解させたほうがいいだろう。本人の命に関わる話を、頭ごなしに決めるわけにはいかない。
「『死ぬ』というのは、そうですね……眠ったあと二度と目が覚めない、とでも言えばいいですかね」
グレイシアがまた首をかしげ、ルーフェイアと視線を合わせた。姉(?)を代弁者として使うことを覚えたらしい。
「何と言っています?」
「痛く……ないか、って」
子供にしてはずいぶん現実的だ。だが逆に言うなら、普段からそれだけ痛みに悩まされているとも言えた。
「少し待って下さいね」
少女に言って、今度はファールゾンのほうへ問いかける。
「どうなのです?」
「何がだ?」
またもや会話にならない。グレイシアのほうがよほどまともだ。
「ですから、グレイシアを出した場合の痛みです。あるのですか?」
「それは分からないな。でも出てすぐ死んだりしなきゃ、魔法陣を利用して痛みは止められるはずだ」
「なるほど、分かりました」
どうやら予想したほどではないようだ。
「グレイシア、今の話、分かりましたか?」
だが少女は首を振った。自分に問いかけられない限り、聞く必要がないと思っているのだろう。
ちょっと視線を落として縮こまっている――こういうところもルーフェイアに似ている――に、タシュアは声をかけた。
「別にかまいませんよ。誰も聞けとは言いませんでしたしね。それで痛みのほうですが、外なら何とか出来るそうです」
少女の表情がぱっと明るくなった。やはり時々来る痛みが、今のこの子にとって一番辛いことらしい。
「それから死んだ場合は、痛みはありません。死ぬまでは苦しいかもしれませんが、それで終わりです」
事実だけを並べる。
本当だったらこんな年で知るようなことではないが、何も伝えずに苦しませる方が、この場合はよほど問題だろう。