Episode:94
「ルーフェイア、グレイシアと話しは出来ますか?」
「あ、やってみます……」
今までの様子からすると、グレイシアはこちらの考えはある程度読んでいるようだ。ただ当人が喋れないので、どう思っているのかが確認出来ない。
だが双子の関係にあたるルーフェイアは、何故か話が出来るようだった。
後輩も水槽の傍へ歩み寄り、ガラスに手を当てる。
「グレイシア、起きてる?」
検査だ治療だとこちらで騒いでいる間、少女はうとうとしていたらしい。だがルーフェイアが呼びかけると、すぐに目を開けた。
「えっと……」
起こしておきながら、ルーフェイアが困ったようにこちらを見る。何を伝えるのかよく分かっていないらしい。
「――私が伝えます」
ルーフェイアに何か言ってやりたいところだが、先程の約束がある。グレイシアの目の前で、ルーフェイアを叱るわけにはいかなかった。
「グレイシア」
水槽を覗き込んで話しかける。
「身体は痛くありませんか?」
タシュアの問いに、ルーフェイアが首を振った。言葉を持たない少女の代わりをしているのだろう。
「何よりです。他に苦しいところもないですか?」
今度はルーフェイアは、首を振らなかった。グレイシア自身もはっきり分からないようだが、快調とは言えないらしい。
(まぁ、まだ幼児ですしね……)
親がしっかり育てている子供でも、このくらいでは上手く伝えられない子は多い。ましてや虐待されて言葉さえ知らないグレイシアが、きちんと伝えられるわけもなかった。
「グレイシア、あなたにとても大切な話があります」
きょとんとした表情で、少女がこちらを見上げる。
「とても、大事な話です。ですからしっかり聞いてください」
ルーフェイアとグレイシア、2人が一緒に頷いた。一応理解したようだ。
少し間をおいて、言葉を選んで話しだす。
「ずっとその中に居た場合、だいぶ先ではありますが、もっと身体が辛くなるそうです」
水の中の少女の顔が歪む。恐いのだろう。
「大丈夫です、落ち着いて。まだ続きがありますから」
タシュアの言葉に、グレイシアが真剣な顔になった。
(賢い子ですね……)
ルーフェイアも頭は良いが、双子と言えるグレイシアも同じらしい。こんなに小さくても、大切なことがどれか把握する能力がある。