Episode:93
「どれもリスクは高いからな……このままが一番確実だけど、本人が辛いし。かといって出せば死にかねないし……」
頭がいいのか悪いのか。どちらにしても同じ総領家のルーフェイアに似て、決断が苦手なようだ。
「――一旦出してから、様子を見るのは出来ないのです? 外なら痛み止めくらい使えると思いますが」
「ん? あ、その手があったか」
さっさと帰ろうか、そんな考えが頭をよぎった。
正直なところ、いつもだったらとっくに帰っている。今回それをせずにいるのは、幼いグレイシアを思ってのことだ。
何しろシュマーの連中だ、これからはきちんと扱うという保証がない。もちろんルーフェイアは許さないだろうが、陰でこれほどのことをしている連中だ。とても信用できなかった。
「じゃぁ、出すか」
「待ちなさい」
思わず止める。このファールゾンと言う男、人の心というものが全く分かっていない。
「いきなり何かをしたたら、グレイシアが怖がるでしょうに。ただでさえこれほどの目に遇わされているのに、まだ苦しめようというのですか」
「でも、やることは同じだろう?」
このまま首をはね飛ばしたら、さぞかしすっきりするだろう――そんな気になる。それでもこの男しかグレイシアの治療が出来ないことを思い出し、何とか踏みとどまった。
「たとえ同じでも、心構えがあるかないかで全く違いますが? それともシュマーでは、極力不意打ちで驚かす決まりでも?」
「そんなもの、あるわけないだろう」
本当に疲れる。それ以外に表現のしようがない。ルーフェイアが逃げるわけだ。
もう会話をするのも嫌になりながら、それでもタシュアは口を開いた。
「ともかく、グレイシアに説明します。何かをするなら、それからにしてください」
「分かった」
何故かファールゾンがあっさりと同意し、そこだけはホッとする。これ以上かき回されてはたまらない。
「このまま水の中に居るか、出て治療するか、方針はそのどちらかで間違っていませんか?」
「細かいことを言えば多少違うが、まぁそんなもんだな。だいいち言っても、君にさえ分からないだろう」
なぜこうも、常に一言余計なのか。
言い返すどころか頭痛さえ覚えながら、タシュアは水槽に歩み寄った。