Episode:09
「エルニ群島と伺いましたが」
「……うん。えっと、どのくらい……かかるの?」
そういえば所要時間を聞いていなかった。とりあえず「いちばん早く行ける船を用意してほしい」とだけ、伝えたのだ。
「そうですね。巡航速度で行って……明後日の夜明け頃でしょうか」
「けっこう……かかるんだ」
でも仕方ない。このユリアス大陸、案外広いのだ。
「もう出せる?」
「はい、15分ほど時間をいただければ」
「じゃぁ、お願い」
言ってから気が付く。
「ドワルディも……行くの?」
「はい。もっとも、船の上だけになりそうですが」
しれっと彼は答えたけど、あたしは内心ほっとしてた。何しろ何が起こっているのかさえ分からない場所だ。そんなときに例え船の上でも、臨機応変に対応してくれるドワルディが居てくれるのは、かなり助かる。
「船が出る前に、部屋へご案内いたします」
「あ、うん」
ドワルディを先頭に歩いていく。
船の中は狭かった。
優美だけど平凡な見かけとは裏腹に、この船はがっちりと武装している。だからそれにスペースを取られてしまって、人間のための空間はギリギリしかない。
「狭くて申し訳ありませんが……」
「ううん、気にしないで」
案内された部屋は確かに狭かった。でも上段がベッドで下段にテーブルなんかが置かれてる、ちゃんとした居住スペースだ。往復乗るだけなのを思えば十分だろう。
「お連れ様は、隣の部屋をお使いください」
「ありがとうございます」
それだけ言うと先輩はさっさと部屋へ入って、それきり出てくる気配はなかった。
あたしも案内された部屋の中、僅かな荷物を放り出して座り込む。
――いったい何が、待ってるっていうんだろう?
どれほど考えても、見当さえつかなかった。
何しろ廃棄された場所、それも殆どが地下の施設だ。動力もない状態じゃ、まともに暮らす事さえ出来ない。
そんなところで、何が出来るのか……。
あたしの不安を乗せたまま、船が動き出した。