Episode:87
――もっともこの辺は、大人のほうに問題があるのだろうが。
何も知らぬままそういう立場に置かれてしまった子供自身には、正直同情を覚える。何しろ当人が選んだわけではないのだ。
ただある程度の年になってなお何も気づかない場合は、やはり問題だろう。
ルーフェイアの場合は当人は分かっているようだ。
だが周りが強要しているうえ、ルーフェイア自身もシュマーから出る気はなさそうなことを思うと、やはりそろそろ持てる「責任」を考えるべきだろう。
とはいえ最終的にはどうでもいい話だった。自分がシュマーの生まれ――考えたくもない――ならともかく、タシュアは本来シュマーとは関係がないのだ。
一行が目の前へ来る。
「申し訳ありませんでした、グレイス様」
「それはいいから……」
ルーフェイアも嫌がっているのだからやめればいいものを、相変わらずまずは無駄なやり取りだ。
と、一行の一番後ろ――先ほどまでは先頭だったのだろう――から、青年が進み出た。
「グレイス、発見された子と言うのはどこだい?」
「ふぁ、ファールゾン?!」
何故か彼女が悲鳴に近い声をあげる。
「どうして、ここに」
「どうしてって言われても、呼ばれたから来たんだが。君が呼んだんだろう?」
青年は金髪碧眼で、ルーフェイアによく似ている。他の者と違いルーフェイアにぞんざいな口調で話しかけていることからしても、恐らくは総領家なのだろう。
ルーフェイアは妙に及び腰だった。どうもこの青年もカレアナ辺りに似て、かなりクセがありそうだ。
「べ、別にあなたを呼んだわけじゃ……」
「ケンディクに居る医師全員って言ったら、僕も入るに決まってるじゃないか」
「あなた常勤じゃないでしょう」
なにやら揉めている。
「――再会を喜ぶのは分かりますが、自己紹介くらいは欲しいものですね。それに発見された子のことを考えると、こんなところで時間を潰す余裕はないはずですが?」
呆れて口を挟むと、さらに斜め上の返答が来た。
「誰だい、君は」
「ファールゾンっ!」
慌てるルーフェイアに少々感心――シュマーの割に人並みの感覚がこの子にはあるらしい――しながら、タシュアは言い返した。
「自分は名乗りもしないくせに他人に名前を問うとは、一体どのような教育を受けたのでしょうね」
「す、すみませんっ!」
何故かルーフェイアが頭を下げる。