Episode:84
「まぁタシュアが何か思うところがあったとして、なんでルーフェイアと行くんだ……?」
「んー、その辺は。さっきも言いましたけど、一緒って決まったわけじゃないですし」
イマドがまた同じことを口にする。
ただ私は、タシュアとルーフェイアが一緒に居る気がした。
一般にどう思われているかは知らないが、タシュアはあれでけっこう出不精だ。用がなければケンディクにさえ行かない。ましてや任務以外で、私にも何も言わずに一人で泊まりがけで出かけるなど、知る限りでは一度だけだった。
そしてこの辺はルーフェイアもよく似ている。
戦闘以外ではオタオタしてばかりの彼女は、そもそも一人で出歩いたりしない。そういう行動力は持たない子だ。しかもあの美少女ぶりで、それなのに危険を理解していないから、周りも一人で行かせたりしなかった。
その彼女が一人で泊まりがけというのは、なんとも解せない。
2人で連絡船に乗っていたという話からしても、一緒に行動している率が高そうだった。
「何か……あったんだろうか?」
「あったと思います。っても、危険はねーな、あの組み合わせじゃ」
私もそれには同意だった。タシュアとルーフェイアのペアでは、危険なことを探すほうが難しい。
「……ルーフェイアが泣かされてないと、いいんだが」
「ですね……」
一番心配なのは、むしろここだ。いじめ癖のあるタシュアはルーフェイアが泣くのが面白くて、わざと追い込んでは泣かせて楽しんでいる。
その意味では最悪の組み合わせだ。誰も止めたり慰めたりする人が居ないから、ヘタをするとルーフェイアが泣いたまま、タシュアが飽きて放置しかねない。
まぁさすがのタシュアも、あからさまに危険な状態で後輩を放りだしたりはしないだろうが……。
「帰ってくる予定は、分からないんだったな?」
「未定っぽいです。なんせルーフェイア、学院にメチャクチャいい加減な申請出てますし」
「そうか……」
何事もきっちりしているルーフェイアがこれでは、タシュアのほうなどもっといい加減だろう。
どちらにしても、今は待つしかなさそうだ。
「……クッキーでも焼くか」
タシュアのことだ、帰ってくればまた食べたがるはずだ。
「あーんじゃ俺も、アイツになんか作っとくかな」
2人で顔を見合わせて、思わず苦笑した。
「そうしたらイマド、私にも教えてくれないか? 作れたら楽しそうだ」
「俺もケーキとかあんま得意じゃないんで、教えてもらえません?」
今度は苦笑を通り越して2人で笑う。
「調理室へ行こう」
「テスト勉強、いいんです?」
「それを言ったらイマドもだろう? 行くぞ」
面白がるような調子で言う後輩に言い返して、私は立ちあがった。