Episode:83
「ねぇディオンヌ、ほんとどーするの!」
「ったくもう……」
ヴィルの大声に、ディオンヌが「処置なし」という顔になる。
「ともかく行ってくる! 食べはぐったら、ヴィルのこととっちめなくちゃ」
ディオンヌが駆け出して途中でヴィルを拾い、図書館を飛び出していった。
「何です、あれ」
「何ですと言われても……まぁ、友達だな」
他に言いようがない。
イマドのほうは呆れ顔だ。
「女子ってマジ分かんねぇ」
「そう言うな、あれでも一応先輩だぞ」
我ながらひどいことを言っている気はするが、あの言動の後では「敬え」とはとても言えなかった。
何より私自身が、そうされるのは苦手だ。
「それで、ルーフェイアも居ないんだな?」
話題を元に戻す。
「ええ。一応ケンディクの執事さんにも訊きましたけど、教えてくんないんですよ」
内容が内容だけにイマドが声をひそめて、私もつられて小声で返した。
「教えてくれない? それは……何かあるんじゃないか?」
「です。大抵のことなら、俺に教えてくれますし」
ルーフェイアの家が普通と違うのは私も知っているが、だからと言ってそんなに秘密主義ではない。私も屋敷に上がり込んだことがあるが、誰もがみんな気さくだった。
それが教えてくれないというのだから、かなり面倒なことなのだろう。
「だが、なぜタシュアと?」
「俺もその辺は……ただ一緒に連絡船乗るの見たヤツがいるんで、そうかなって。ってもたまたまタイミングが合っちまっただけで、なんもカンケーねぇかもですし」
どうやらイマドも、何か確証があるわけではないらしい。
思い返す。
タシュアとを最後に見たのは一昨日だ。昼食で一緒になった。
「そういえば……」
いつもと変わらない素振りだったが、あの時タシュアは、何かを押し殺しているようだった。たぶんあの感じは、何かに怒っていたのだと思う。
それをイマドに言うと、彼も何かに思い当ったようだった。
「もしかしてタシュア先輩、なんかヤバイもん見つけたんじゃ?」
「あり得るな……」
授業も単位も気にしないタシュアだ。それがどうしても許せないものだとなれば、即座に動く可能性はある。
――それが何なのかは、見当もつかないが。
基本的に冷静沈着で下調べを怠らず、しかも意外と面倒くさがりのタシュアがすぐに動くことなど、私でも思い当たらない。
ただそれでももう一つ、謎が残る。