Episode:82
「どーゆー彼氏と彼女よ。というか、あんたたちも絶対おかしい」
「――そうか?」
どうも話がかみ合わない。
ディオンヌのほうは更にヒートアップした。
「だ、か、ら! 自分の彼氏と彼女がペアで出かけて! それだって十分どうかしてるのに、残った双方が仲良く雑談っておかしいってば!」
「そう言われても……そもそも後輩だぞ?」
「まぁたしかに、スタイルは先輩のほうがいいですけど。ルーフェイアのヤツ幼児体型だし」
今度はイマドと話の方向が合わなかったようだ。ディオンヌが勝ち誇ったような声を上げる。
「ほら! だからこーゆーのはまずいのよ、うん」
「だからなんでそういう話になる……」
「いや、そゆ趣味ないですから。つか俺、ヘタなことして死にたくないです」
聞こえた言葉にちょっとムッとする。
「なんだそれは。第一タシュアは、そういうことはしないぞ」
「あれ、そなんです?」
だんだん何の話か分からなくなってきた。
だいいち私は、こういうとりとめのない会話は苦手だ。途中でたいてい付いていけなくなる。
まぁ今は相手がディオンヌとイマドで、どちらも私のそういうところを分かってくれているから、何とかなっているが……。
そこへ大声が響いた。
「ディオンヌーっ! ケーキ食べに行く約束はーっ!?」
図書館中の生徒の目が、一斉に入口へと集まる。
「ちょっとヴィル、うるさい! ここ図書館!」
「そゆディオンヌもうるさいー」
声の主は、これも私と同級生のヴィルシアだ。Aクラスの女子は少ないせいもあって、私も含めこの辺のメンバーはよく一緒に行動している。
「ねぇ早く行こう! おじいちゃんの新作ケーキ食べるんでしょ、なくなっちゃうよ!」
ケーキと聞いて、ディオンヌがはっとした顔になった。
「いっけない、忘れてた。食べさせてもらう約束してたんだっけ」
「早く行ったほうがいいんじゃないか? 他の生徒に知れたらなくなるぞ」
言いながら、もう無くなってるんじゃないかという気もした。ヴィルシアがあれだけ大声で言ったのだ。居合わせた生徒全員の耳に入っているのは間違いない。
実際、大急ぎで図書館を出ていく生徒も居た。きっと向かいの食堂へ行くのだろう。
「あぁもう、ヴィルの馬鹿。なんであんな大声で言うかな」
「まぁ、ヴィルだからな……」
何しろ彼女ときたら、偵察でさえ鬨の声を上げて敵に突撃したがっては止められるという肉弾派だ。