Episode:81
「家がややこしい?」
案の定ディオンヌが反応したが、イマドは平然としていた。
「です。あいつの家マジややこしくて。でもほら、たまにこの学院、そゆヤツいますし」
「あー、たしかに。シェリーもそうだっけ」
シェリーというのは、私の友人で同級生だ。
彼女は聞いた話では、本来は貴族だという。そのせいで素性やら家系、それに要人との関係がそれなりにややこしかった。
それをディオンヌも知っているため、納得してしまったのだろう。
同時に内心舌を巻く。タシュアもよく人の思い込みや誤解を利用して自分に有利な状況を作るが、イマドもそれに引けを取らない。将来が心配になるほどだ。
まぁ裏表がなく素直なルーフェイアと一緒のことを思うと、このほうがいいのだろうが……。
「まぁなんかよく分かんないけど、退学はなさそうだから、ちょっとほっとしたかも」
「すいません、何か心配させて」
ソツなくイマドが謝った。この辺も彼は立ち回りがうまい。
「あーいいのいいの、あたしが勝手に心配したんだし。にしても、何の用で?」
「それが、俺も訊いてなくて」
彼の答えを訊いて、ディオンヌが問いかけるような視線を私へ向けた。
「すまない、私も……訊いてない」
「あらま」
彼女があからさまに、期待はずれと言いたそうな表情をする。
「まったく2人とも、自分の彼女と彼氏のことなのに知らないの?」
思わぬところを突っ込まれて、イマドとつい顔を見合わせた。
「そう言われても、タシュアはよく1人でどこかへ行くし……」
「あいつの家のワケありの話で、しかも急ぎとか言ったら、俺にだって事後報告ですよ?」
2人でそれぞれ言い返すと、ディオンヌはちょっと納得がいかなそうながらも頷いた。
「まぁ言われてみればそうか。けど、ふつう心配くらいしない?」
『心配?』
イマドと私の声が揃う。
だがディオンヌのほうが更に驚いたらしい。目を丸くしてまさに「唖然」という表情だ。
「ちょっともう! お互いの彼氏と彼女がツルんで出かけたら、なんていうかホラ、そーゆーの心配じゃない。一応男と女なんだし」
「タシュアは女子、それも年下には興味がないからな……」
「あー、ルーフェイアのヤツ、そーゆーのどっかに落としてますし」
またそれぞれに言うと、ディオンヌががっくりと肩を落とす。どうもまた何かを期待していたらしい。