Episode:08
――いったい、なにがあったんだろう?
そればかりが頭の中をめぐる。
シュマーとロシュマーの情報は、あたしもそれなりにチェックしている。それに何かあれば、必ず母さんか姉さんから連絡があるはずだ。
それなのに知らないことがあったなんて……。
どこかが何か、情報を隠していたとしか思えなかった。でもそれを認めてしまったら、身内を片っ端から疑うしかなくなる。
それとも、疑わないあたしがおかしいんだろうか?
嫌な気分だった。
いつもはただ綺麗に見える海が、ひどく悲しく見える。
けど逃げるわけにはいかなかった。
――あたしは、シュマーに責任がある。
あたしや母さんの知らないところで誰が何をしでかしたかは知らないけれど、始末はつけなきゃならないだろう。
やがて連絡船が止まる。
無言でさっさと降りていくタシュア先輩のあとを、あたしも慌てて追った。まっすぐ船まで行くと言っておいたので、迎えの者はない。
夕闇に沈もうとする大好きな街が、涙の色に見える。
「どこの埠頭です?」
「あ、こっちです……」
今度はあたしが先輩を案内する格好になった。
少し歩いて、目的の埠頭に付く。無言のタシュア先輩と並んで、停泊している船を見上げた。
どちらかと言えば小型の実用船。ただ無駄がないためか船影は滑らかで、もう準備の出来た高速船が停泊していた。
さっそく乗りこむ。
「グレイス様、迎えも出さずに申し訳ありません」
現れたのは、ケンディクに駐在しているドワルディだった。迎えは要らないと言ったから、こっちへ来たらしい。
「ううん、いいの。こっちこそこんなに急で……ごめんなさい」
「我々相手に、気を遣ってくださらなくてもよろしいのですよ」
彼の言葉は優しい。
ただこれが本心からかは、少しだけ疑問だった。シュマーの面々は普通の人と違って、あたしには逆らえない。
その血に刷り込まれた本能が言わせているのか、それとも純粋な思いからかは、あたしにはよく分からなかった。