Episode:78
「身体、ホントに大丈夫?」
(だいじょうぶ?)
グレイシアは知ってる言葉が少ないから、オウム返しばかりだ。
いつかこの子と、いろいろ話せる日がくるんだろうか? そんなことを考えながら、グレイシアにも分かりそうな言葉を探す。
「えぇとね、寝られるんなら、寝たほうがいいかと思う」
(寝る……寝る!)
この言葉は知ってたらしい。きちんと意味をとらえた上で、的確な反応をしてる。
「うん、寝たほうが……いいと、思う。寝られるなら、だけど」
(寝る。好き。痛い、ない)
要するに、寝てる間は痛みを感じないで済む、と言いたいんだろう。
「用ができたら、起こすから。寝ててね」
(寝る)
言うなりグレイシアは目をつぶって、そのまま何にも反応しなくくなった。
「眠ったようですね」
「はい」
風邪と違って、寝て解決するような事柄じゃない。でもそれだって、痛くて眠れないよりはいいはずだ。
あとは出来たら、病気が治ってほしいのだけど^……。
ただこっちは望み薄だった。
シュマーはなにしろみんなでかかるから、この病気の研究は進んでる。けどそこまでで、それ以上はどうすることもできなかった。
水槽の中を見ながら、壁際に座り込む。グレイシアだけじゃなくて、あたしもだいぶ眠かった。
あくびがひとつ、出る。
「眠いのですか?」
「あ、はい、すみません」
不意に訊かれて慌てて答えたけど、自分でも何を言ってるのかよく分からなかった。
「――だから何度言えば、謝る必要がないのを覚えるのでしょうね?」
「すみません……」
とっさに謝ってしまって、慌てて口元を押さえる。ホントにあたし進歩がない。
「まったく。そもそもそれほどまでに眠いのでしたら、あなたも寝てはどうです」
「え? いいん……ですか?」
そこまでは考えなかった。
「かまいませんよ。別に今、最前線で戦闘というわけでもありませんし」
先輩の答えを訊いて、少し寝ようかなと思った。なんだか色々なことがありすぎて、頭がこんがらかってるし身体もやけに疲れてる。
「そしたら、すみません、何かあったら……」
「あなたに心配してもらわなければならないほど、落ちぶれてはいませんよ」
先輩の声を聞きながら、あたしは目を閉じた。