Episode:73
「そもそもその言い方では、何のために人が必要なのか分からないでしょうに。正確な報告も出来ないで、よく前線で生きていられましたね」
「すみません……」
思わず謝るあたしの耳に、今度はドワルディの声が聞こえた。
『お嬢様? 大丈夫でございますか?』
「え、あ、うん。えっと、えっと……」
言わなきゃいけないことが多すぎて、何から言えばいいのか分からない。
『お嬢様、どうぞ落ち着いてください』
「う、うん」
とりあえず深呼吸してみる。けど、頭の中はまだごちゃごちゃだ。
「――替わります。一刻を争うというのに、あなたの報告を待っていてはあの子がどうなるか分かりません」
結局タシュア先輩が呆れ顔で替わってくれた。
「……ええ、そうです。子供のほうは、何かの実験台にされたのかと。おおよそ四歳くらいですね」
先輩がてきぱきと伝えていく。
「いえ、水槽の中ですから、発生させてそのままかと。それとシュマー特有の病を発症しているそうです。ですので医師をお願いしたいのですが」
報告ってこうすればいいんだ、と思った。これなら聞いた人も、何のことだかきっとすぐに分かる。
「――それだと助かります。私たちはこのままここで待機しますが、その間何かすべきことはありますか?」
あっという間に、話がまとまったみたいだ。
「了解しました、ではそれまで待機で。失礼します」
そこで先輩は話を終わらせる。
「あの……?」
恐る恐る声をかけると、紅い瞳があたしを見た。
「このまま待機だそうです。まぁ私たちでは何も出来ませんしね。あと医師はもう、こちらに向かっているとのことでした」
「え?」
今来て欲しいって言ったばっかりなのに、もう向かってるって……?
あたしが不思議そうな顔をしてるのに気が付いたらしい。先輩が説明してくれる。
「私たちの乗った船がケンディクを出た段階で、ドワルディ氏は医師の派遣を決めていたそうです」
話を聞いて、さすがだなと思った。ドワルディはいつも手回しがいい。
「感心ばかりしていないで、あなたも少しは見習ったらどうです」
「すみません……」
「謝れとは言っていません。そもそも謝る暇があるくらいなら、覚えるべきでしょう」
「すみま……」
言いかけて、慌てて口をつぐんだ。さすがにこれ以上は繰り返したくない。
先輩はかなり呆れたみたいだけど、そのあとは何も言わなかった。水槽へ近づいて、中の女の子を見てる。