Episode:72
どうやったら分かってもらえるか、考えながら話し出す。
「えっと、その、シュマーってあんまり病気とかならなくて、あと薬とかも効きづらくて……」
「そのようですね」
何故かもう、先輩はこのことは知ってたらしい。
「で、その体質とこの子の容態に何の関係が?」
「それがなんていうか、その身体を守る機能……時々自分に、向かうらしくて」
「なるほど、暴走ですか」
研究してる人たちからしたら大雑把なんてもんじゃないだろうけど、それで先輩は納得する。あたしに訊いても、これ以上説明できない――確かにそうだけど――と思ってるのかもしれない。
水槽の中に目をやりながら、あたしは続けた。
「最後はシュマーはみんな、これで。でも中には……」
この子の前で、これ以上は言いたくなかった。どうなるかを教えたくない。
「……大体分かりました。それ以上の説明は今は不要です」
でも先輩、言いたくない理由を察してくれたみたいだ。それ以上訊かれずに済む。
「だとすると、その場合普通はどういう処置がなされるのです?」
「あたしも、詳しくは……」
それこそ、そこにいる研究者の人の仕事だろう。
「どうすればいいんだ、どうすれば……」
けど当の本人は、水槽の前でぶつぶつ言ってばっかりだ。
「ちょっと、しっかりしなさい!」
「……え? あ、グレイス様、失礼しました」
あたしの命令でっていうのが何だかもやもやするけど、でも正気に戻ってくれたらしい。
「この子、助けなきゃ。このままじゃ可哀想」
「あ、はい、そうですね。すぐ手を……あ、でも人手が……」
事が事だけに、さすがに一人じゃやりきれないみたいだ。
「ケンディクとファクトリーに連絡して、人を呼ぶわ。いい?」
「……はい」
たぶん本当はこの人、他の人呼ばれるの嫌なんじゃないかなと思う。でもあたしが言ったら逆らえるわけがない。
それにあたしも今は、そういう気持ちに構う気はなかった。あの子があんなに辛いのを考えたら、他のことなんて全部棚上げしていいはずだ。
船を降りるとき、ドワルディからもらった通話石を出す。
『――お嬢様、どうなさいましたか?』
すぐに応答があった。
「地下で、子供見つけたの。でもすごく具合が悪くて、誰か人を……」
「ルーフェイア、だいぶ事実と違いますよ」
横からタシュア先輩に言われて、しまったと思う。確かにこれじゃ、肝心のことが伝わってない。