Episode:70
(おなじ――いっしょ。いつも)
切れ切れの言葉は、けど言葉じゃないことに、このときようやく気付いた。頭の中に塊のように飛び込んできて、あたしが自分でそれを言葉に翻訳してる、そんな状態だ。
それならと、同じようにしてみる。
「この……痛いの、あなたなの……?」
問いかけながら、必死で言葉にイメージを載せる。あたしの身体の痛みを、この子の身体に重ね合わせる。けど全身が痛くて集中できない。
ただそれでも、女の子の表情が変わった。
(おなじ? わかる?)
「た、たぶん……」
絶対の自信があるわけじゃないけど、この痛みはこの子が、今感じてるもののはずだ。
(いたい? いたい。だして)
そしてここへ来てようやく、あたしは言葉の本当の意味を理解した。
この子は水槽から出して欲しいだけじゃなくて、この痛みからも逃げたがってる。そして水槽の外、違う世界なら痛くないと思ってる。
(いたい、いたい、いたい……)
初めて知った「痛い」という言葉を、この子が繰り返す。
たぶん、ずっとこうだったのだ。だけど訴える方法もなくて、それどころか誰もまともに話しかけてさえくれなくて、ただじっと耐えてたんだろう。
「何とか、する、から……待って」
瞬間この子から「分かった」感じの意志が返ってきて、同時に痛みが消えた。
思わず大きく息をつく。
「一人芝居は終わりましたか?」
「あ、すみません……」
なんだかヒドい目に遭ったうえ、ヒドいことを言われてる気がするけど、うまく言い返せない。
「謝られても困ります。そもそも見ているこちらは、何が起こったのか分かりませんし」
「え、あ、えっと……」
どう説明したらいいんだろう?
「まったく。つい先ほども言いましたよ。まず言ってみないことには、糸口にもならないと」
「あ、はい……」
そうだった。でもなかなか上手い言葉が見つからない。
「その、急に身体が痛くなって……」
「それは聞きました。で、結局何だったのです?」
先輩に先を促される。