Episode:07
本拠地を移したのは、もう何百年か前だ。魔獣雨にやられた南大陸に巨きな地下空洞が見つかって、そこへ移った。
とはいえアヴァンはじめ主要国のある西大陸に近いユリアスは、何かと便利だ。それで主力として使われなくなった後も、医療施設として残され、療養地として使われていた。
ただ100年ほど前から、群島から程近いタルカインの町が発展し始めて人口が増えたこと。それに施設の老朽化の問題があって、今は廃棄されている。
けど先輩の口調は、明らかにそれ以上のものを知っているようだった。
「あの……廃棄されたファクトリーで、なにか……?」
先輩は答えず、かわりにただ、じっとあたしを見つめる。
――怖い。
視線だけであたしを殺せるんじゃないか、そんな気がしてくる。
身体がまるで麻痺したように動かなかった。
「……本当になにも知らないのですね。大した管理体制ですこと」
声と同じで、何の感情もない表情。
間違いない。その廃棄された施設で何かあったのだ。それもとんでもないことが。
これ以上は時間の無駄だとばかりに踵を返した背に、慌てて声をかける。
「何があったんですか? 教えてください!」
知らなければならない、それだけが頭の中にあった。
この先輩が怒りを覚えるようなことだから、並大抵の話じゃない。だったら尚更、あたしが知らなきゃいけないはずだ。
「先輩、お願いです!」
「話をするよりも、実際に見た方が早いでしょうね」
言われてぞっとする。まさかそれほどの話とは、思わなかった。
「すぐにでも、そこへ向かいます。行けますか?」
「わかりました。すぐに連絡して、船を用意させます」
ケンディクの港には、シュマーの高速艇が常に何隻か停泊している。今連絡しておけば、あたしたちが連絡船で着くころには準備が出来るだろう。
「では、船着場で。準備が終わったら来てください」
言って先輩が図書館を出て行く。
あたしも急いで部屋へ戻って、まずシュマーのほうへ船の事を連絡した。
それから物入れや何かを開けて、要りそうなものを引っ張り出す。戦闘用の服、魔法薬、携行食料……。
必要最低限の装備だけ用意して船着場で向かうと、もう先輩が待っていた。
二人で連絡船に乗り込む。先に乗っていた生徒たちが不思議そうな顔であたしたちを見たけど、気にする余裕はなかった。