Episode:67
――どうしよう。
何をしたらいいか分からない。それともあたしが話していいんだろうか?
困ってたら先輩は呆れたみたいで、先に口を開いた。
「続きをどうぞ。あなたが何か言わないことには、こちらも分かりませんので」
「あ、はい」
続きを話していいみたいだ。
「あの、この子……出たいって。そう言ってます」
「その子がそう思ってるだろうことには異論ありませんが、何故分かったのです?」
さらに訊かれて口ごもる。声が聞こえたなんておかしな話、どう言ったらいいんだろう?
でも困って黙ってしまったあたしに、珍しく先輩が助け舟を出してくれた。
「どんな言葉でも構いません。まず言ってみなさい。そうしないことには、糸口にもなりませんよ」
「……はい」
確かにそうだ。ずっと黙ったまんまじゃ、きっと先輩も困る。
「えぇと、あの、よく分からないんですけど、声が……聞こえて。それで、この子に『出たいの?』って聞いたら、出たいって……」
自分でも嫌になるほど要領を得ない。
それから思い出して付け加える。
「そういえば……あの、みんな死んでた部屋……あそこと、同じ声……?」
支離滅裂もいいところだ。
「まったく。いくら『どんな言葉でも』と言われたからといって、通じないようでは困りますが」
「すみません……」
やっぱりあたし、説明は苦手だ。ただ先輩のほうは、何となくは把握してくれたみたいだった。
「いずれにせよ、本人の望みですしね。出すべきでしょう――何をぼうっとしているのです」
先輩が研究者の人に視線を向けて言ったけど、たぶん彼、聞いてない。驚いた表情で水槽の中を見てる。
「こ、言葉が分かってたのか……」
先輩が冷たく言った。
「普通の子はこの年になれば、かなり上手に話をしますよ。簡単な手伝いだって出来ます。なのに閉じ込めておくなど、虐待以外の何物でもないでしょうに。だから頭が回らないと言ったのです」
それから先輩、今度は水槽のほうへ近づいた。そして見たことないくらい優しい表情と声で、女の子に話しかける。
「そこから出たいのですね?」
次の瞬間、あたしの頭の中にまたあの声が響いた。