Episode:65
「……先輩?」
ここにも放置された合成獣の死体。そして乾きだした血だまり。
奥には椅子にかけた先輩の姿があった。
「今、開けさせますから」
「急いでいただきたいものですね。こんな場所に時間をかけても、楽しいものではありませんし」
先輩に切り返される。でも実際、こんなおかしな実験ばかりの地下にいたら気が滅入るとは思う。
「すみません……開けて。すぐ」
あたしが言うと、あの研究者の人が部屋の隅へと走って行った。
元々彼の部屋だから、全部彼の自由になるはずだ。そして思った通り、すぐ壁が動き出した。
壁の向こうとは思えない意外に広い空間。床を這うパイプや配線。
そして、水槽。
「ここにも……」
もう怒る気力もない。
水槽の中にはさっきの部屋と同じように、子供が入れられてた。白い肌。金の髪。たぶんこの子もさっきと同じで……あたしの妹なんだろう。
と、水槽の中の子が目を開けた。
「生きて……る?」
「もちろんです」
いきなり研究者の人が声を上げて、ちょっとだけ心臓がどきっとする。
「良かった、殺されてしまったかと思った。もしお前に何かあったらどうしようかと……」
研究者の人が水槽に頬ずりした。
――ちょっと見たくないかも。
中に居る子があたしそっくりだから、なんか自分にやられてる感じだ。
「そ、その子……何?」
訊ねる自分の声がちょっと震えてる。でもあんな人に頬ずりされること考えたら、大抵の人は鳥肌が立つんじゃないだろうか?
研究者の人が言いづらそうに口を開いた。
「その、さっき殺されてた子たちの……姉妹で。えーと、ですから、私がこっそり……」
要するに向こうで研究してた人達の目を盗んで、ここで育ててたんだろう。
先輩が一歩進み出た。
「こっそりだか何だか知りませんが、まともな頭はないようですね」
あんまり表情の変わる人じゃないからよく分からないけど、でも相当怒ってそうだ。
「そんなにこれが好きと言うなら、あなたが水槽へ入ってはいかがです?」
辛辣な言葉が次々と飛ぶ