Episode:62
立っているのも辛くて、近くにあった椅子に座り込む。
「あなたがそうしていても、死者は戻りませんよ」
先輩があたしに言った。
「はい……」
けどあたしは立てなかった。それどころか顔も上げられない。
――あたし、何をしてたんだろ。
知らなかった。ここでこんなことをしてるなんて。
でもあの子たちにしてみたら、知らなかったじゃ済まないだろう。それにもしあたしが知ってたら、止められたと思う。
たぶんあの子たちは、あたしの妹だ。どうしてか分からないけど、見た瞬間そう思った。
頭の中を渦巻いてた声が、まだかすかに聞こえる。言葉にならない感情だけだけど、苦しかったもっと生きたかったと思ってたのは分かる。
けどあの子たちがそんな思いをしてる間、あたしはごく普通に暮らしてて……。
「そんなに後悔するのなら、もっとよく組織を把握しておくことですね。防げないのはトップの責任です」
先輩の言葉にあたしはうなずいた。苦しいけど、辛いけど、事実だから。
ただ、どうすればいいのかは全然分からない。
と、扉がノックされる音がして、あたしは思わず顔をあげた。
「何です?」
先輩の問いに、あの守備をしていた人たちが答える。
「グレイス様のご命令どおり、研究者を捕まえました」
あの研究者の人が、両方から羽交い絞めにされて連れてこられてた。でもあたしが命令を出してから捜索したにしては、早過ぎだ。
「どうして……こんなに早く?」
「不審な様子でうろついていましたので、念のために捕縛しまして。そこへグレイス様の命令が入ったものですから……」
つまり、あの命令を出した時点ではもう捕まえてたらしい。この辺はさすがにシュマーの人間だ。
あたしは彼の目を見ながら訊いた。
「奥の部屋のこと……何か、知ってる?」
研究者の人が視線をそらす。きっと、何か知ってるんだろう。
「知ってるなら言いなさい」
つい声が厳しくなる。
もう何も知らされないのは嫌だった。確かに本当のことを知るのは辛いけど――何も知らないのはもっと辛いハメになる。
研究者の人は、まだ黙ったままだ。
「どうなの!」
さすがに声が大きくなるのを止められない。
研究者の人がちょっとだけ縮こまって、かすれるような声で答えた。