Episode:61
それからどのくらい耐えてただろう? 聞こえる声がだんだん弱くなってきて、少しずつ落ち着いてくる。もしかすると慣れたのかもしれない。
「――ルーフェイア、そろそろ放してもらえますかね」
言われて初めて、先輩にずっとしがみついてたことに気づく。
慌てて手を離すと、先輩から即座に言われた。
「まったく。ショックだったのは分からなくもありませんが、あなたはシュマーのトップですよ? それが身内の所業にいちいち泣いてどうするのです」
「す、すみません……」
「条件反射で謝っても、意味はありませんよ」
思わず謝ったところで、また叱られる。あたしがとっさに謝るのが、先輩嫌いなのかもしれない。
「やってしまって謝るくらいなら、謝らずに済むように手を打てと、以前も言ったはずですがね。だいいち考えもなしにただ謝っても、また同じことを繰り返すだけですよ」
「すみません……」
今言われたのに、ついまた謝る。
さすがに呆れたんだろう、タシュア先輩がため息をついてから言った。
「あなたの謝り癖がどうしようもないのは理解しましたが、謝ってもあの研究者の行き先は分からないでしょうね」
「え?」
言われたことをもう一度よく考えてみる。
先輩が言ってる研究者は、あのずっと付いてきてる兄さんと同じ名前の人だろう。
それが……。
「いないん……ですか?」
「少なくともこの部屋には」
確かに見回してみても、この部屋にはあたしとタシュア先輩の2人だけだった。
「逃げたん……ですよね?」
「分かりません。そういういことは本人を捕まえてから言ってください」
確かにそのとおりだ。
急いで部屋に備え付けられてた通話石を手にする。壊されてるかと思ったけど、調べてみたら大丈夫そうだった。
稼働させて、施設全部に向けて言う。
「この施設に残っている人に命じます。研究者のラヴェルをすぐ捕まえなさい!」
こうやって命じる自分が嫌だった。
あたしが命じてしまったら、絶対に逆らえない。それを分かっててあたしは言ってる。
でももし、本当は嫌がってたら?
それを考えるとすごく気が重い。