Episode:59
◇Rufeir
その部屋に入ったのは、偶然だった。順番に調べていて、たまたまその部屋に行き当たっただけだ。
この部屋へ来るまで、これといった収穫はなかった。タシュア先輩が一つ書類の束を一生懸命読んでたけど、それだけだ。どの部屋へ行っても、肝心の証拠はみんな捨てられてる。
逆に言うなら、それだけひどい事がここで行われてた、ってことだろう。じゃなきゃいろいろ捨てたりなんてしない。
それにどこの部屋も、厳重にロックがかかってた。ただあたしのコードがここでも効いて、それで全部開けられてる。
「……ここも処分されていますか」
先輩が中を見て言った。
今までと同じように、書類や本が床の上に散らかった部屋。慌てて何かを引っ張り出したのは間違いない。
つまり……ここでもいろいろ処分したんだろう。
ただこの部屋には、魔視鏡があった。それを先輩が起動させる。
けど先輩、すぐに魔視鏡を止めた。そして記録石を外し始める。もしかすると中に、何か記録が残ってたのかもしれない。
ただあたしはそれよりも、奥の壁が気になった。
近づいて撫でて叩いてみる。
――ふつうの壁と同じ感触。
変わったところがあるようには思えない。なのに、気になる。
「ルーフェイア、そんなに壁が気に入りましたか」
首をかしげながら壁を見ていたら、先輩に怒られた。
「あ、いえ、壁じゃなくて……」
「それが壁じゃなければ何だというのです」
言われたけど、上手く答えられない。
「いえ、じゃなくて……開く……?」
どこかに何か手掛かりがないかと、あちこち触ってみた。でも、やっぱり何も見つからない。
「隠し扉だとでも?」
「分かりません……でも、開く気がするんです……」
これだけ見ても分からないんだから、気のせい。そう思いたいのに思えない。どうしても開くような気がする。
どうにも腑に落ちなくて扉の前を行ったり来たりしてると、不意に声が聞こえた。
「もっと、左」
驚いて辺りを見回して、部屋の隅にある本棚に目が止まる。
あたしは急いで、その前まで行ってみた。
「ここを……開けるの?」
聞いたけど答えはなくて、代わりに先輩の声が返ってきた。