Episode:58
そしてタシュアは最初の部屋にまた踏み込んだ。
ここも合成獣の死体はそのままで、床の血は乾きだしている。
(どこですかね)
ここも何か仕掛けがあるのだろうが、ちょっと見ただけでは分からなそうだ。
やれやれと思いながら、手近にあった椅子に腰かける。
どうせそのうち、ルーフェイアがあの研究者を連れて来るだろう。そうすればすぐ分かるのだから、ひとりで探すのは骨折り損というものだ。
(何がしたかったのでしょうね……)
分かったからと言って許す気はないが、動機は気になる。
当初が「グレイスを生み出すため」で、それがルーフェイアが生まれたことで目的を失い、実験自体が終わったのは分かった。
ならばなぜ、また続けているのか。
そもそもが頭のおかしい連中だ。意図がないというのもあり得る。が、それにしては規模が大きすぎる……というのが感想だった。
いずれにせよ、総領家の統制が効かなくなっている可能性は高い。かなり危険だ。
(やはり今のうちに、シュマー自体を始末したほうがいい気がしますが)
こんな非道なことをやる連中が暴走を始めては、被害が大きすぎる。
と、廊下を歩く足音が聞こえてきた。
「……先輩?」
すぐにルーフェイアが姿を現す。予想通り例の研究者と、彼を連行してきたらしい警備の人間数名も一緒だ。
「今、開けさせますから」
「急いでいただきたいものですね。こんな場所に時間をかけても、楽しいものではありませんし」
「すみません……開けて。すぐ」
ルーフェイアに命じられて、例の研究者が慌てて部屋の隅へ走る。どうやらそこに、隠し部屋を開くためのスイッチやなにかがあるらしい。
(どこまで自分勝手なのやら)
この調子では施設のどこに、何が隠されてるか分かったものではない。警備とやらの人間も使ってかなり調べたようだが、まだ見落としがありそうだ。
例の子供たちが殺されていた隠し部屋と同じように、壁が丸ごとせり上がっていく。
「ここにも……」
ルーフェイアが弱々しい声で言ったのは、水槽の中を見たからだろう。
金髪に白磁の肌。年は4歳くらいだろうか?
もしかしたら他の総領家の誰かが元かもしれないが、いずれにせよルーフェイアと血がつながっていることは間違いない。
と、水槽の中の子が目を開けた。